契約なんかしなくても、奇跡の力を使ってみせる!   作:空豆熊

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第4話 あたしの憂鬱

 夢を見た。あたしが魔法少女ってやつになってから、絶望していくまでの日々の夢だ。

 最初は希望に満ちていたのに、だんだんと心は荒んでいった。そして最後には、何もかもを憎むようになってしまっていた。全てがどうでも良くなって、ただひたすらに世界を呪い続けるだけの存在になっていたのだ。

 

『さやかちゃん、やめて。お願い思い出して! こんなこと、さやかちゃんだって嫌だったはずだよ!』

 

 そんなあたしを止めようとしてくれたまどかの声も、もう届かない。

 だって、あたしはもうただの化け物なんだから。自分が誰で何者なのかすら分からなくなっていて、それでもなお世界への恨みだけは忘れないような存在になってしまったんだもん。

 どうしてよ……! なんで、あたしはこんなにも不器用なの!? もっと素直になれればこんなことにはならなくて済んだはずなのに……どうして、どうして……っ!!

 

 

 

 

 

 

「最悪な夢を見た……」

 

 起き上がる気力すら湧かないくらい、最悪の気分だ。昨日の悪夢より、ずっと悪い夢。まどかから詳細を聞いたからだろうか……

 

「うぅ〜っ」

 

 泣きそうになる気持ちを抑えながら、枕元を確認した。そこにソウルジェムはない。当たり前か。この時間軸のあたしは、まだキュゥべえと契約していないのだ。つまり今のあたしは、魔力を使うことが出来ないということだ。

 

「とは言え、今の夢を見て契約する気にはなれないしなぁ……まどかとも約束したし……」

 

 あいつは、昨日こう言っていた。

 

『上条君の怪我はわたしが治して見せるから、わたしを信じて!』

 

 と。まさかまどかがあんなこと言うとは思わなかったけどさ……。正直、不安もある。だけど、信じてみる価値はあるんじゃないかなって思い始めている。あいつは、例の夢をみてちょっと変わった。明るくなったし、前向きになった気がする。一度やると決めたらやり通すような説得力を、感じるようになった。だから、契約する気はないのだが……

 

「まどか達が命懸けで戦ってんのに……あたしは何も出来ないのかよ!」

 

 ベッドを叩きつけるも、何も変わらない。結局あたしにできることは待つだけだ。それが歯痒くてしょうがない。

 

「どうすりゃいいのよぉ!!」

 

 あたしの叫び声が虚しく部屋に響いた。……そうだ。そう言えばまどかだって、この時間軸じゃ契約してないのに、魔法が使えるようになったって言ってたじゃないか。

 あれってどういう原理なんだろ? ちょっと学校への行きがけに聞いてみよっかな。

 

 

 

 

「えっ? わたしが魔法を使える理由?」

「そーだよ。なんかコツとかあるわけ? あ、それとも素質の問題なのかな?」

 

 学校に登校しながら、早速まどかを捕まえて質問攻めにしてみた。まどかは苦笑いを浮かべている。そんな変なこと聞いたかな? 

 

「まあ、素質と言えばそうなんだよね……わたしには、ほむらちゃんが今まで時間遡行で溜めてきた、膨大な因果の糸があるからね……」

「ああ……そういうことか……」

 

 そう言えば、魔法少女の素質は、その因果の糸の数で決まるって言ってたっけ。あたしも、キュゥべえから契約持ちかけられる程度には、その因果糸の数は多いらしいけど、それでも魔法少女の中では、普通の範疇に収まる程度らしいからな……

 

「それで、まどかはその大量の因果の糸を使って、奇跡を起こすってことか」

「うん、まあ大雑把に言うとそうなるんだけど……これって因果の糸が溜まりすぎて、漏出を起こしたことで、発生した現象なんだよね……そして、その影響を受けてるのはわたしだけじゃない。この時間軸では、わたしと関わる人の多くが、わたしの因果の影響を多少なりとも受けてるの。だから、さやかちゃんもあの夢を見たんだと思う」

 

 確かに、言われてみれば辻妻が合うかもしれない。あたしが見ることになった夢の殆どが、まどかと関わってる時に起きたものだから。

 それと、まどかが何を言いたいのかちょっと分かってきた気がする。まどかの因果の影響を受けているのであれば、あたし自身に奇跡を起こせる程の因果がなくても、魔法の力を得ることが出来るのではないか? と言いたいんだな? 

 

「でも、それってどうやってやるんだろ?」

「う〜ん、簡単に説明するなら、願い事を強く念じるって感じかなぁ? わたしのときは、ひたすら訓練して、手応え感じてきてた時に、魔女と遭遇して追い込まれて、強引に力を引き出したから、あんまり分かってないんだよね……」

 

 よく生きてたわねそれ……あたしは思わず冷や汗が出た。下手したら死んでてもおかしくなかったんじゃないの? まあ、一人で遭遇したとも行ってないから、誰かが守ってくれてたんだとは思うけど、その誰かも追い込まれてたってことになる。ヤバいところだったのは間違いないよね……

 まあでも、これであたしにも、魔法を使える可能性が出てきたってわけだ。それにしても……まどかはいつの間にか、こんなことを考えていたなんて……本当にすごい子だと思う。

「さやかちゃんが魔法を使えるようになったら、一緒に上条君を治そうね!」

 まどかが笑顔でそう言ってくれる。ほんとにこの子は……まどかだって、自分の目的の為に戦う決意をしたはずなのに、他人の心配までしてくれる。こんな子だからこそ、あたしも守られるだけの存在には、なりたくないと、改めて思ったのだ。正直、この世界に守るだけの価値があるのかは、今でも疑問だけどさ……それでも、あたしはまどかを守る為に戦おう。あたしはまどかの親友なんだから。

 

「そう言えばさやかちゃん。上条君に告白する日って決めたの?」

「ああ……そもそも告白するかどうかも、迷って来たんだよね……今朝また酷い夢見ちゃったし……」

 

 実は今朝の悪夢がずっと引っかかっている。仁美と付き合ってる未来を見せられて、それでも告白しようと思えるほど、あたしは強くない。

 と言うか、もし告白して付き合えたとして、それはそれで腹立つんだよな……だって、あたしと仁美のどっちでも良かったってことだろ? なんか、自分が軽い女みたいじゃん。

 

「そっか……まあでも、もう少し考えた方がいいかもね……色々考え過ぎて頭パンクしそうだもんね」

「うん、そうするわ……」

 

 あたし達は学校に着くまでの間、そんな話をしていた。まあ、まどかの言う通り、少し考える時間が必要だと思った。

 その日の放課後、あたしは恭介の病室に向かった。こんな精神状態で行くのは、ちょっと躊躇われたけど、どうしても会いたくなった。ただそれだけだった。

 

「おーい! 恭介ぇー!」

「あれ? さやか。どうしたの?」

「へっへっへ〜。見舞いに来てやったぜ〜」

「あはは……ありがとね。わざわざ来てくれて」

 

 いつものように談笑しながら、持ってきた花瓶の花を交換したりしていると、ふと会話が途切れてしまった。

 そんな中あたしはさっきまどかと話してたことを、また考え始める。

 やっぱり、あたしが告白するのはやめようかな……正直脈を全く感じられないし、もしこれで告白を受け入れられてしまったら、あたしはこいつを許せないだろうから。

 しばらく沈黙が続い後、恭介が口を開いた。

 

「ねえ、さやか」

「ん?」

 

「このCDはなんなんだい? いや、曲は分かるよ。僕が好きなやつ選んでくれたみたいだし。でも、それだけじゃ説明出来ないくらい、安らかな気持ちになれるんだけど……」

 

 ああ、まどかとゆまって子が魔法を込めてくれたCDのことか。まどかが、恭介を治すことを約束をしくれたとき、取り敢えず応急処置にと、事前に用意してたらしい、これを差し出してきたんだ。その時まどかは

 

『普通の人に治療魔法は効きづらいけど、無いよりはマシだと思う』

 

 と言ってた気がする。まあ実際、効果はあったみたいだから、まどかの判断は間違ってなかったんだろう。

 しかし、まさか聞かれるとは思わなかったな。まあ、別に隠すようなことでもないから、普通に答えてあげることにする。

 

「あたしの友だちが、そのCDに祈りを込めてくれたのよ。怪我が治るようにって」

 

 まあ、こいつもまどかのことは知っているけど、一応名前は伏せておくことにした。多分言ってもまどかは怒らないだろうけど、確認してないからね。

 

「祈ってくれる人が居るなんて、僕は幸せ者だね。もしかして、さやかも祈ってくれたのかい? ありがとう」

 

 そう言って、優しく微笑む恭介。

 

「う……うるさいなぁ……たまたまだよ、たまたま……」

 

 こいつは……あたしに対して恋愛感情なんてないはずなのに、どうしてこうもドキドキさせるのか……あんたがそんなんだから、あたしは諦めきれないんじゃないか……

 くそっ……悔しいな……あたしは恭介が好きなのに……こいつは誰に対しても優しいんだ……本当にムカつく奴だ。

 その後、あたしは用事があるとかなんとかで、適当な言い訳をして病室を出た。本当はそんなもの無かったのだが、この場にいると何を言い出すか分からなかったので、居づらくなって出て行ってしまった。

 

「はぁ……なんか調子狂っちゃったな……まあいいか、今日はもう帰ろっと」

 

 そう呟いて病院を出て、家路につく。空を見上げると、綺麗な夕焼けが広がっていた。こういう景色を見ると、まどかのことが思い浮かぶ。

 

「まどかは今日、ほむらって子と風見野市のパトロールしてるんだっけ……」

 

 何でも、普段風見野を守っている、ゆまと杏子って子たちが、今日はマミさんって人と一緒に戦いたいってことで、見滝原をパトロールしていて、風見野が留守だから、その穴をまどかとほむらって子が埋めているらしい。だから、今日はもう会うのは難しいのだ。

 

「はあ……あたしも早く魔法の力を手に入れたいな……そうしたら一緒に戦えるのに……」

 

 と、思わず口に出してしまっていた。まどかは強いらしいけど、それでも、心配なものは心配だ。何でもこの時間軸の魔女は、強い奴ばかりらしいし……

 それに今朝まどかが言ってた通り、もし魔法の力を手に入れたら、一緒に恭介の怪我も治せるかもしれない。

 そうだ、何だかんだ言っても、あたしはやっぱり、恭介のことが好きなのだ。その気もないくせに、こっちを無意識に誑かしてくるような鈍感野郎だけど、やっぱり放っておけないんだよな……

 そんなことを考えながら歩いていると、黒いモヤのようなものが見えた。

 え……これってもしかして……結界? こんなところで!? 不味い! 逃げ切れない! それでも、あたしは何とか結界から、逃れるために、走ろうとしたが、時すでに遅しだった。そのまま、あたしは意識を失ってしまった。

 目を覚ますとそこは、今まで見たことも無いような世界が広がっていて、とても不気味な場所だった。

 薄暗くて、霧みたいなものが漂っていて、全体的にじめじめした空気が充満している。本当に魔女の結界の中みたいだ。

 しかも、辺りには使い魔が大量にいて、遠くの方には、黒い剣と盾を持つ騎士風の魔女がいた。どうやら、ここは結界の最深部らしい。

 

「変身! 流石に無理か……」

 

 今朝まどかから話を聞いてから、まあまあ練習してはいたんだけど、魔法少女の姿になることは出来なかった。

 これはかなりまずい状況だ。勿論使い魔達はそんなあたしを待ってはくれないようで、一斉に襲ってきた。万事休すか……? だが、その時だ。

 

『絶対領域』

 

 どこからともなく声が聞こえたかと思うと、あたしの周りに結界のようなものが張られて、使い魔達の攻撃を防いでいた。気付けば隣には、夢の中で見たような、たてがみロールの女の人がいた。

 多分、まどかが言っていたマミさんって人だ。

 

「くっ……やっぱりあいつも『因果魔女』か……あなた大丈夫? 怪我はない? 危ないところだったわね」

「は、はい……ありがとうございます……あの……もしかして巴マミさんですか? まどかが言ってた……」

「あら、見覚えがあると思ったら、やっぱり鹿目さんのお友達だったのね。美樹さやかさんよね? あなたのことは彼女からよく聞いているわ。よろしくね」

 

 そう言うと、彼女は手を差し出してきた。あたしは恐る恐る彼女の手を握り返した。

 すると、不思議とさっきまで感じていた恐怖心が無くなっていた。まどかが信頼するだけあって、凄くいい人みたいだ。

 

「ごめんなさいね。こんな所からはすぐに解放してあげたいけれど。この魔女結界、入るのは簡単だけど、出るのは難しいみたいなの。私一人であの魔女は倒せそうにないから、一緒にパトロールをしていた仲間が来るまでは、この結界で時間稼ぎに徹している必要があるわ。少しだけ辛抱してね?」

「はい!」

 

 そして、あたしはマミさんの『絶対領域』の中で、マミさんの仲間を待つことになった。仲間か……杏子とゆまって子達とついに会えるわけだ。でも、なんだろう。なんか嫌な予感がする。まどかによれば、その二人も、強いらしいけど、果たして勝てるんだろうか…… 不安になってくるなあ……

 さっきマミさんが因果魔女とか言ってたし……

 因みに因果魔女というのは、まどか曰くほむらって子の時間遡行によって集まった、因果糸によって生み出された魔女にマミさんがつけた名前らしい。

 何でもマミさんはそう言うのが結構好きらしくて、

 

『わたしもよく技名を付けられたりしたもんだよ』

 

 とまどかは苦笑していた。……まあ、そう言うまどかも結構ノリノリで、マミさんから付けられた技名を叫んでたりするらしいんだけど。

 

「マミ!」

「マミお姉ちゃん!」

 

 そんなことを思っていると、突然二人の女の子の声が聞こえてきた。どうやら、やっと来たようだ。取り敢えず良かった。

 

「佐倉さん! 遅かったじゃない! もう限界だったわよ!」

「悪りぃ、新作のロッキーが気になってよぉ……」

「キョーコってば、話しかけても全然気付かないんだよ?」

「ぐっ……」

「全くもう……」

 

 と、まるでコントのような会話を繰り広げながら、赤髪ポニーテールのツリ目の少女と、緑髪ツインテールのパッと見小学生低学年くらいに見える少女が入ってきた。

 この二人が、杏子とゆまか。確かにどちらも強そうだ。特に杏子の方は、戦い慣れていそうな雰囲気を感じる。そう考えていると、杏子がチラッとこっちを見て話しかけてきた。

 

「あんたが美樹さやかかい? まどかから聞いたぜ。あんたも契約無しで魔法使おうとしてるらしいじゃねぇか。あたしらは別にいいんだけどさぁ……あんまり無理すんじゃねえぞ? 命がいくつあっても足りなくなるぜ?」

「は、はい……気を付けます……」

 

 思わず敬語になってしまった。夢の中で見たときより、随分好意的だ……それにしても、杏子はまどかのことを名前呼びなのか……

 これは結構親密度高いっぽいな……

 

「おい、お前今変なこと考えてただろ」

「へっ!? いや、そんなことは!」

「ったく、油断ならねーヤツだな」

 

 勘の鋭いヤツだ……というかコイツ、本当にまどかのこと好きすぎないか? ちょっと嫉妬してしまう……

 あれ、何であたしがそんな気持ちに? まさか……これが恋……? いや、無い。それは絶対にあり得ない。だって相手は親友だし、あたしはまだ恭介のことが好きだから。

 

「ふふっ、初対面なのに、二人とも仲がいいわね。そろそろ始めましょうか。美樹さんのことは、ゆまちゃんが守ってくれるから大丈夫よ」

「うん、ゆまに任せて!」

 

 そう言いつつ、ゆまは胸を叩いていた。……正直不安だが、今は頼るしかないだろう。

 この3人による、あの騎士風の魔女との戦いが始まった時、あたしのその不安はすぐ吹き飛ぶことになる。

 

「えいっ!」

 

 ゆまがその背丈に似合わない巨大なメイスを振り下ろすと、あたしに向かってきていた使い魔達が全て、衝撃波によって、弾き飛ばされた。いや、あたしへの攻撃だけじゃない。マミさんや、杏子に向かってきていた攻撃も全部防いでみせたのだ。

 

「凄い……」

 

 つい感嘆の言葉が出てしまった。

 しかも、ゆまは攻撃を防ぐだけでは無く、逆に押し返している。

 確かにこれなら、あたしに攻撃が届くことはそうそう無いだろう。

 

「やるじゃん、ゆまっつぁん!」

「えっへん!」

 

 あたしが褒めると、ゆまはとても嬉しそうな顔をした。え? あたしのテンションがヤバい? いやいや、さっきまでずっと不安だったんだからしょうがないじゃないか。

 

「ナイスだゆま。物量に関してはこの前戦った魔女よりかはマシだな」

 

 と、今度は杏子が槍を構えながら言った。すると、次の瞬間にはもう魔女の目前まで移動していた。速い! そしてそのまま魔女の顔面に槍を突き刺す。しかし、それは寸前で止められてしまう。あの黒い盾でガードされたようだ。

 だけど、それで終わりじゃなかった。杏子は素早く槍を引き抜くと、すぐにまた突きを放つ。それも先程と同じように阻まれるが、マミさんの攻撃も同時に行われていた。

 マミさんのマスケット銃からは無数の弾丸が放たれており、それが次々と魔女に命中していく。凄い物量だ……あれだけの数の銃弾を同時に放つなんて……

 物量だけではない。マミさんの動きは洗練されており、無駄が無い動きをしていた。まるで踊っているかのように優雅でありながら力強い戦い方をしている。そんなマミさんの動きに、高速移動しながら合わせている杏子の槍捌きにも驚かされるばかりだ。

 二人のコンビネーションの前に、魔女は徐々に崩され始めていた。このまま一気にいけるかと思ったのだが……

 突然、魔女の姿が変わった。全身を覆う鎧のような姿になったのだ。どう見ても防御力が上がりそうだ。これはちょっとまずいかも……。

 案の定と言うべきか、二人の攻撃は弾かれてしまい、あまりダメージを与えられていないようだった。ゆまのメイスなら、鎧ごとすり潰すことも出来るかもしれないけど、あたしの護衛もあるし、そもそも、あんな巨大な武器で、あの高速戦闘について行くのは無理があると思う。それに、あの魔女の強さはそれだけではなさそうな雰囲気を感じる。

 

「ッチ! やっぱこいつも、めんどくせーな……」

「そうね。鹿目さんがいれば、鎧の上からでもダメージを与えられるんだけど……仕方が無いわ。一旦引きましょう」

 

 どうやら、まどか達の加勢を待つことにしたようだ。確かにそれが最善策かもしれない。

 しかし、今日のあたしは、少し違った。色々あり過ぎてもう疲れていたのだ。悪夢を見て、恭介のことを信じられなくなって、まどかがあたしの知らないところで戦ってて……

 あたしはもうまともな思考が出来ないくらいに疲れ切っていたんだ。

 まどか達が来るまでの間の時間稼ぎくらいは出来るんじゃないかと思ってしまったのだ。

 そして、まどか達に気を使わせるよりは、あたしが囮になった方がいいだろうと勝手に判断してしまった。だから、

 

「マミさん、杏子、ゆまちゃん、下がってください!」

「美樹さん!?」

「おいバカ、死にたいのか!?」

「ダメだよ! さやかお姉ちゃん!」

 

 三人が驚くのも無理は無いと思う。だってあたしは今、三人から離れて、使い魔の大群の前にいるのだ。普通ならば自殺行為である。

 だけど、あたしには考えがあった。それは、さっきまでの戦いで、あたしに攻撃してくる使い魔が少なかったこと。つまり、あたしのことは無視していいと思われてる可能性があるということだ。

 それなら、あたしから攻撃仕掛けるまでは、割と簡単に通してくれるはず。そして、思いっきり暴れてやる。そのために力は、今引き出してやる。

 今朝、まどかは言っていた。魔女との戦いで、追い込まれたことで、魔法の力を引き出したと。今のあたしにも、できるはずだ。……そう信じよう。

 

「ふぅーっ……」

 

 深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 そして、両手を広げて、使い魔に向かって叫んだ。

 

「来い! お前ら全員、まとめて相手になってやる!!」

 

 すると、今まで大人しかった使い魔達が一斉に襲い掛かってきた。

 

「うぉりゃあああっ!!!」

 

 あたしはその瞬間に、魔法少女としての姿に変わった。そして、剣を作り出し、それを思い切り振り回した。使い魔達は、一瞬怯むものの、すぐにまた向かってくる。

 あたしはそれを迎え撃つように、再び剣を振り回す。だが、数が多すぎるため、全てを斬り捨てることは出来ない。

 次第にあたしの手数よりも、使い魔の攻撃の方が上回り始めた。

 

「くっそおおおっ!!」

「バカヤロウ! 無茶すんなっていっただろうが!」

 

 と、後ろから、杏子の声が聞こえてくる。

 それでも、あたしは剣を振るうことを止めなかった。少しでも使い魔の数を減らすために。しかしそんなあたしを、あの騎士風の魔女が見逃してくれるはずがなかった。

 

「グォオオオッッ!!!」

 

 雄たけびを上げながら突進してきた。ダメだ避けられない……! 

 ああ……あたしなんでこんなことしちゃったんだろ……あたしがこんな無茶しなくても、あの三人ならまどか達が来るまで持ち堪えられたはずなのに……きっとあたしは焦ってたんだ。

 自分の弱さを実感させられて……自分が情けなくて……恭介のことを信じたくても信じられなくって……不安でしょうがなくって…… そのせいで、冷静な判断ができなくなっていたんだ。

 ごめんなさい……まどか……みんな……

 

「馬鹿なことをしたものね。美樹さやか」

 

 次の瞬間、あたしの周辺の時間が停止した。

 

「な……」

 

 気が付けばあたしは、黒髪ロングの女の子に抱き抱えられていた。多分、今日まどかと一緒にパトロールしていたほむらって子だろう。

 

「あなたは何時もそうよ。勝手に自分を追い込んで、勝手に絶望して、勝手にまどかの前から居なくなって……!」

 

 彼女はそう言って、あたしの頬を引っ叩いた。変身中なので痛みはないが、衝撃だけは伝わってくる。そして、あたしを抱き抱える腕に力が籠められる。

 どうやら、本気で怒ってるようだった。

 

「何度言えば分かるの? あなたの行動はいつも私の予想を超えていく。本当に迷惑ばかりかけてくれるわ」

 

「……」

 

 何も言い返せなかった。だって、彼女の言う通りなんだもん。

 あの夢の中で、あたしは何度もこの子に怒られてきた。だからだろうか、彼女が言っている言葉の意味が、少しだけ分かったような気がする。この子はずっと、まどかを護るために戦ってきて、そして今もこうして戦い続けているんだ。

 なのに、あたしときたら…… でも、今は後悔している場合じゃない。あたしは彼女に言った。助けて欲しいと。すると、彼女は大きく溜息をつくと

 

「当然でしょう。直にまどかも来るわ。風見野の使い魔処理を彼女に任せたから、少し遅れているけど」

 

 と言ってくれた。

 良かった……。きっとこれで何とかなる。そう思って安堵していたあたしに、杏子とゆまが呼びかけてきた。

 

「さやか! 大丈夫か!? このバカが! 死ぬ気かお前!?」

「さやかお姉ちゃん大丈夫……?」

 

 あはは……なんか心配かけてばかりで申し訳ないなぁ…… そう思っていたら、今度はマミさんが声をかけてきた

 

「ふぅ、私も色々言いたいことはあるけれど、既に暁美さんからこってり絞られた見たいだから、説教は控えておくわ。でもね美樹さん、これだけは覚えて置いて。あなたに何かあったら、鹿目さんの心に傷が残ることになるのよ。それは、彼女の一番の親友であるあなたが一番分かっていることでしょう?」

 

 その通りだ。あたしのせいでまどかの心を傷つけてしまうなんて嫌だ。そんなことは分かっていたはずなのに、つい頭に血が上ってしまった。

 でも、もう大丈夫。二度とあんな無茶はしない。

 

「さやかちゃん!」

 

 と、そこへまどかの声が聞こえてきた。

 見ると、まどかは急いでこちらへ走ってくるところだった。

 あたしはまどかを見て安心したのか、緊張が解けてしまったみたいで、意識が薄れていった……

 

 

 

***

 

 目が覚めると、見覚えのある天井があった。

 ここ……まどかの部屋だ……あたしはベッドの上で寝転んでいた。

 横を見ると、まどかが椅子に座って、あたしの方を見ていた。

 あたしが目を開けたことに気が付いたまどかは、ほっとした表情を浮かべると、あたしの手を握ってきた。

 ああ……温かい…… その温もりを感じながら、あたしは自分の不甲斐なさを感じていた。あたしは弱いなぁ…… 今更だけど、自分が情けないと思ってしまう。

 あたしはこの子を護るって誓ったのに……結局、まどかに護られてばっかりだ…… あたしはまどかに謝った。ごめんね、ごめんね、と。すると、まどかは首を横に振った後、あたしの頭を撫でてくれた。

 

「ううん、いいんだよさやかちゃん。わたしこそごめんね。わたしがあんなこと言ったから、焦っちゃったんだよね? わたしね、本当はさやかちゃんのこと止めたかったの。危ないことして欲しくなかったから。でも、わたしにはさやかちゃんを止める資格が無いんじゃないかなって思っちゃって、それで……」

 

 そう言って、涙を流す。……そっか。やっぱりそうだよね。

 あたしは改めて思った。この子は本当に優しい子なんだって。だからこそ、あたしはもっとしっかりしないと。

 

「まどか」

 

 あたしはまどかに声をかけた。

 彼女は泣き顔のままあたしの方を見る。

 

「ありがとう」

 

 あたしがそう言うと、まどかはきょとんとしていた。

 あたしは続ける。

 

「あたしのことを心配してくれてありがと。嬉しかった」

 

 まどかはあたしの言葉を聞いて、また涙を流し始めた。

 そして、あたしに抱き付いてくる。

 あたしも、まどかを抱きしめ返した。

 すると、部屋のドアが開いて、ほむらが入ってきた。

 彼女は、あたし達の様子を確認すると、頭を下げた。

 

「叩いてしまってごめんなさい」

 

 どうやら、さっきあたしを叩いたことを気にしてくれていたらしい。

 あたしは笑いながら答える。いいよ、と。そして、今までまどかを護ってくれたことに対してお礼を言う。

 すると、彼女は驚いた顔をした後、少しだけ微笑んだように見えた。

 

「あの、ところで、魔女は……?」

 

 あたしが尋ねると、ほむらがさも当然のことのように答えた。

 

「勿論まどかが仕留めたわよ?」

 

 えっへん! という感じで胸を張るまどか。ああ……良かった……本当に助かってよかった…… そう思うと、あたしの目からも自然と涙が出てきた。

 もう二度と、みんなをこんな形で心配させたりしない。そのためにも、あたしは決めた。やっぱりちゃんと、恭介に想いを伝えるんだ。

 今はまだ脈は無いみたいだし、仁美から宣戦布告される日も近いけど。それまでに、あいつを惚れさせてみせる!

 だから待っててね、恭介。あたし頑張るから!!

 




読んでいただきありがとうございます。
今回は、さやかが前を向く為のお話でした。
魔法の力を得るのは、予定外でしたが……

次回は、この日の出来事をまどか視点でかいたお話となります。
第5話 『わたしの憂鬱』
お楽しみに!
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