あたしが魔法の力を得て、まどかやゆまちゃんと一緒に、恭介の治療をするようになってから丁度一週間経った。
まどかの魔力量増加に伴い、恭介の治療は順調に進んでいた。まだまだ完治までは遠いけど、それでも何れ動かせるようになる兆しは出て来ていた。
因みに今日は、ほむらがこの時間軸に来てから十日目でもある。どうやらあいつが転校してくる日らしい。まあ、既に学校外で会いまくってるから今更感はあるけどね……
「でも、学校でほむらちゃんに会えると思うとちょっと嬉しいかな」
そう言って笑うまどかを見ているとこっちまで嬉しくなってくる。うん、最近まどかとあいつが、何か良い感じになってきていることについては、少し複雑な気分になることもあるんだけどさ……やっぱり二人が仲良くなることはいいことだと思うんだよね! それにあいつ、今までずっとまどかの為に頑張ってきたみたいだし……だからその分幸せになって欲しいなって思うんだよ。その為にも打倒ワルプルギスの夜に向けて頑張らないとね!!
………………まあ、あたしはその前に自分を幸せにしないといけないわけだけど、それはつまり仁美との決着をつけるということで……うーん、なんか色々複雑だよぉ〜っ!!! そんな事を考えながら仁美の方を見ると、あたしとは別の理由で複雑そうな顔をしていた。
「お二人とも、既に今日転校してくる方と仲が良ろしいのですね……私だけ仲間外れで寂しいですわ……」
……いかん、すっかり忘れていたよ。そうだよね、あたしたち親友なのに、一人除け者にされちゃったもんね……ごめん仁美! 心の中で謝りながらも、魔女狩りについて話す訳にはいかないので、どうやってフォローしようか考えていると、まどかが口を開いた。
「ご、ごめんね仁美ちゃん! その子も忙しくて、中々仁美ちゃんとは予定が合わなかっただけだから!」
おおぅ、ナイスフォロー! 流石まどか! あたしも負けていられないぞっと!
「そ、そうそう! 良かったら、今度仁美もほむらと一緒に遊ぼうよ! きっと楽しいよ?」
すると仁美の顔がぱぁっと明るくなった。
「本当ですか!? 是非お願いします!!」
よしよし、これで一件落着だね! 良かったぁ〜 恭介との事がどうなるとしても、仁美とは仲良くしていきたいと思っていたからね。こんな所で亀裂が入るなんて嫌だったんだ。それからしばらく雑談をしているうちに、教室に着き授業が始まった。特に問題もなく時間は過ぎていき、いよいよホームルームの時間になった。担任の教師である早乙女先生の話を聞き流し、遂に転校生であるほむらの登場となった。
ガラリと扉が開かれ現れたその姿を見た瞬間、クラス中の男子たちが一斉に騒ぎ出した。それも仕方ないよね。何せほむらは超絶美少女なんだもん! そりゃ騒ぐってもんですよ!
まあ、あいつはそんな事気にせず、いつも通りクールビューティーな雰囲気を醸し出しながら、真っ先にまどかの方を見ていたけどね。
そして、まどかに笑顔を返されたのか、一瞬恥ずかしそうにして俯いた後、再び顔を上げ自己紹介を始めた。
「暁美ほむらと言います。よろしく」
簡潔過ぎる挨拶だったが、それが逆に彼女の美しさを引き立てていた。クラスの女子たちはみんな頬を染めているし、男子たちも見惚れてしまっているようだ。罪作りな奴め……その後、簡単な連絡事項を伝え終えるとすぐに解散となり、休み時間に突入した。早速ほむらの周りに人が集まり質問攻めにしているようだが、あいつは表情を変えずに淡々と受け答えしている。
……だが、流石に鬱陶しいかったようで、唐突に立ち上がったと思ったら、まどかを捕まえて保健室への案内をさせ始めた。あいつの心臓病は、魔法少女になった時点で治っているはずなので、恐らくただまどかと二人きりになりたかっただけのように見える。相変わらず分かりやすいやつだなぁ……と微笑ましく思っていると、仁美が話しかけてきた。
「さやかさん、あの二人はもしや恋人同士なんでしょうか? とても仲睦まじく見えましたけど……」
興味津々といった様子で聞いてくる仁美に、あたしは苦笑しながら答える。
「あー……うん、否定は出来ないかもねぇ……あいつらお互いの事好きすぎるし……」
実際あれってもう付き合ってるんじゃなかろうか。何か週明けくらいから、やけに距離感近くなっていたし……うん、多分間違いないだろうな。
あたしの言葉を聞いた仁美は、何故か顔を赤くしていた。
「い、いけませんわ……まさかまどかさんが、禁断の恋に目覚めてしまうなんて……ああでも、まどかさんが幸せならばそれでいいんですけど……ううっ……私は一体どうすれば……!」
とかなんとかブツブツ呟いている。……うん、とりあえず放っておこう。
と言いたいところだけど、仁美とはまだ話さないといけないことがあるんだよなぁ…… あたしは気を取り直して、仁美に向き合った。
「ねえ仁美……ちょっといいかな?」
あたしの雰囲気が変わったことに気付いたのか、仁美も真剣な面持ちになる。あたしはそのまま言葉を続けた。
「仁美……あんた恭介のこと好きなんでしょ」
仁美の目が大きく開かれた。
「……どうして分かったのですの」
どうしてかと聞かれれば、夢で未来を見たからだ。しかしそれをそのまま言う訳にはいかない。
「……実はさ、あんたはとっくに気付いてるだろうけど、あたしも恭介のことがずっと前から好きでね。だから、仁美の気持ちが痛いほど分かるんだ。応援したい気持ちもあるくらいだけど……やっぱりあたしは、自分の気持ちも大事にしたくて……
だから、正々堂々勝負しようよ! 恭介の怪我もそのうち治りそうだし、そうなったら一緒に告白しよう! そして、あいつ自身に選んでもらうの! 仁美とあたし、どっちと付き合うか!」
あたしが言い終わると、仁美も覚悟を決めたような顔つきになって言った。
「えぇ、その提案、お受けします! 私も、この想いだけは譲れませんから!」
そう言って仁美が差し出してきた手を、しっかりと握った。
「ありがとう仁美! どっちが勝っても恨みっこ無しだよ?」
「もちろんです! 負けても、友達のままでいて下さいね」
仁美は少し涙目になっていた。彼女は過去の時間軸であたしに宣戦布告をして来た時も、かなり緊張した様子だった。それだけあたしとの関係を大切にしてくれているのだと思うと、嬉しくて泣きそうになる。
やっぱり、正々堂々勝負を挑んで良かった。最初は、仁美が自分で決心する日を待って、それまでにあたしだけしっかり準備して戦おうと思っていた。でも、仁美は過去の時間軸で、あたしに先を譲ろうとしてくれたのだ。そんな彼女の優しさに甘んじて、卑怯な手は使いたくなかった。だって、この先ずっと仁美に対して引け目を感じながら生きていくなんて嫌だもん。きっと彼女もそう思っているのだろう。だからこそ、過去の時間軸ではあんなにも堂々とあたしに立ち向かってきたのだ。うん、本当に良い子に出会えたなぁ……
それからしばらく笑い合っていると、突然後ろから話しかけられた。
「さやかちゃん、仁美ちゃん、ただいま! 一緒に屋上でお昼食べない? ほむらちゃんも、仁美ちゃんとお話してみたいって」
振り返るとそこには笑顔のまどかが立っていた。ほむらはと言うと、少し気まずそうな顔をしている。そう言えば、ほむらが仁美と仲良くしようとしたことって、今までの時間軸では一回もなかったらしいからなぁ……元々人見知りらしいし、どう接したらいいのか分からないのだろう。
まあ相手は仁美だし、あたしとまどかも一緒なら大丈夫でしょう。あたしはまどかの誘いに乗り、四人揃って屋上に向かった。
「あの……初めまして、暁美さん。志筑仁美と言います。よろしくお願いいたしますわ」
「……ええ、よろしく」
……うん? なんか、二人とも微妙な空気だなぁ…… あたしは不思議に思いながらも、二人の様子を見守っていた。すると仁美が、意を決したように口を開いた。
「あ、あのっ! ……お二人は付き合ってらっしゃるんですか?」
ちょ!? マジでそれ聞いちゃうのぉ──────!! あたしは心の中で絶叫していた。当事者であるまどかとほむらは、一瞬何を言われたか理解出来ないという顔をしていたが、すぐに我に帰ったようで、慌てて仁美に詰め寄った。
「ひ、仁美ちゃん!? 何言ってるのかなっ?」
「そ、そうだわ。幾らなんでもそれは飛躍しすぎじゃないかしら……」
二人が焦っている姿を見ているうちに、仁美の顔はどんどん真っ赤になっていった。
「す、すみません……! でも、どうしても気になっちゃって……ごめんなさい!」
仁美は頭を下げた。そしてそのまま黙り込んでしまう。気まずい沈黙が流れる中、最初に言葉を発したのは意外にもほむらだった。
「……嘘は付けないわね。……そうよ、私達は付き合っているの。……それがどうかしたかしら?」
その瞬間、再び仁美の顔が赤く染まった。
「……いえ……その、お似合いだと思いましたので……失礼しました」
仁美は恥ずかしくなったらしく、俯きがちに言った。
「ふぅん、お世辞でも嬉しいものね」
ほむらは微笑みながら言った。
いや、あんた絶対思ってないだろう……! あたしには分かるぞ! あんた内心めっちゃニヤけてるだろ!
……しかし、本当に付き合っていたとはね。いや、多分そうだろうとは思っていたけどさ。やっぱり直接聞くとびっくりするよね。だってさ、この時間軸でこいつらが再会してからまだ一週間しか経ってないんだよ? いくら何でも早すぎるよ!
まあ、ほむらが時間遡行してきた回数を考えると、納得出来る話ではあるんだけどね。あたしがそんなことを考えているうちに、屋上に着いたようだ。
そして、二人がお揃いの弁当箱出したのを見て、思わずあたしは突っ込みを入れてしまった。
「ちょっと待った! あんたら最初から隠す気ゼロか! さっき仁美から聞かれて慌ててたのはなんだったのよ!!」
あたしの言葉にまどかとほむらはキョトンとした顔になった。
え? あれ演技だったの? ……本当、こいつらの思考回路が全く分からない。
あたしが呆れていると、まどかが言った。
「えっと、女の子同士でお揃いって、そんなに珍しいことじゃないと思うんだけど……まあ、あんまり隠す気なかったのは事実だけどね。でも、これだけ見て付き合ってるとは思わないんじゃ……?」
そう言って、まどかは自分のおかずの唐揚げを一つ摘んで口に放り込んだ。
「いやまあ、確かにお揃いってだけならそうかもしんないけど……あんた普段はピンクの箸使ってるじゃん! それなのに今日に限って黒い方使うとか怪し過ぎでしょ!」
あたしが言うと、仁美もうんうんと首を縦に振っていた。
「それに、お二人ともやっぱり距離感が近いですわ」
と呟いている。うん、そうだよね! 普通友達同士ってあんなにくっつかないもん! しかし二人は特に問題ないといった様子だ。いや、だからさぁ……それなら何でさっきはあんなに慌ててたんですかねぇ……
「まどかを好きな気持ちを恥ずかしがる必要なんてないもの。でも、流石にあの流れでそんな事を聞かれるとは思わなかったから驚いたけれど」
ああ、うん。納得したけど、よくそんな事を堂々と言えるなぁ…… あたしは心の中でため息をつくと、まどかの方を見た。流石に今のほむらの発言は恥ずかしかったのか、まどかは顔を真っ赤にして固まっていた。
うん……なんかもういいや。
あたしは考えるのをやめた。初っ端から色々ありすぎて疲れちゃったけど、そのお陰でほむらと仁美の距離が縮まったみたいだし、結果オーライかな。
それよりあたしは、さっき仁美に勝負を挑んだ時から、提案してみようと思っていたことがあったのだ。
「あのさ仁美。実はあたし、まどかやゆまちゃんって子と一緒に、恭介の怪我が治るようにお祈りしてるんだ。それでさ、仁美も一緒にやってみないかなって思ったんだけど……」
そう。恭介本人にこの事を知られた今の状態で、仁美に隠したまま治療を続けるのは、あたしだけ恭介に恩を着せてるみたいで嫌だった。
だから仁美にも協力して貰おうと思ったのだ。実際には魔法を使えない仁美が祈っても意味はないかもしれないけど、そんなことは言わなければ分からないことだし、気にする必要もない。すると仁美は、少し考えた後答えた。
「そうですね……私も協力したいと思いますわ……でも、私は何時も放課後は稽古ばかりで、上条君のお見舞いさえ行けていません。なので、さやかさん達のように毎日お邪魔することは出来ませんわ」
しまった……言い方が悪かった……
別に直接恭介に会いに行く必要はないんだよ!
「い、いや、あたし達の祈りはお見舞い品の、CDとかに込めてあるんだよ」
あたしは慌てて訂正した。そして、まどかもフォローしてくれた。
「そうそう! 今日さやかちゃんが持っていく分のお見舞い品は、もう用意してあるから、後で仁美ちゃんも一緒にお祈りしようよ! 稽古の前だと大変だろうし、無理にとは言わないけど」
ナイスだまどか! 忙しい仁美でも、これなら参加出来るはずだ。仁美も、あたし達の提案を聞いて、嬉しそうな表情になった。
「分かりました! では、今日から早速お手伝いさせて頂きますわ!」
良かった……これで心置き無く恭介にアタック出来るぞ……! まあ、あたしと仁美には、まだ使える時間に差があるんだけどね。でも、あたしが使えるものを使わないなんて選択肢は無い! そんな事は仁美も望んでいないはず! あたし達は、仁美の返事を聞くと、笑顔になった。こうして、この日から仁美も加わり、恭介の治療の仕上げが始まったのだった。
……そして放課後。お見舞い用のCDに改めて祈りを込めた後、仁美と別れたあたしは、恭介の病室に来ていた。
「そんな訳で、今日からは仁美もお見舞い品に祈りを込めることになったよ。今度あいつに会ったら、よろしく言っといてね」
あたしが言うと、恭介は笑って言った。
「そうか……それは助かるな。ありがとう。皆のお陰で、僕の左腕はまた動くようになるかも知れない……本当に感謝しているよ。まさか、医者からも無理だと言われ続けていたことが、こんなにあっさり解決するなんて……夢でも見てる気分だよ」
そう言って、恭介は左手を見つめた。気持ちは分かる。あたしも、まさかここまで上手くいくと思わなかったもん。まあ、殆どまどかとゆまちゃんの力だけど、あたしだって頑張ったし! そうだ。無茶してみんなに迷惑を掛けたあの時から、もう無駄に自分を卑下するのはやめようって決めたんだ。恭介が喜んでくれているなら、それでいいのよ! あたしは恭介に微笑むと言った。
「うん……でもさ、あんたが諦めなかったからこそ、奇跡が起きたんじゃない? だから、もっと自信持ってよね」
あたしの言葉に、恭介は一瞬驚いたような顔をした後、照れ臭そうに笑った。
「ははっ、そうかもね。でも、そうだとしても。僕が頑張れたのは、やっぱり君達が居てくれたからだと思う。君や、志筑さんや鹿目さん、他にも沢山の人が、ずっと支えてくれてたんでしょ? 僕はその人達に感謝してもしきれる気がしないな……」
えへっ、そっかぁ……なんか嬉しいなぁ…… あたしは思わずニヤけてしまった。すると恭介は、真剣な顔になって続けた。
「だから、僕は決めたよ。これからも、今まで以上に努力して、立派な音楽家になる。そしていつか必ず、恩返しをするよ。それが今の僕に出来る精一杯のことだから」
そう言いながら、恭介は真っ直ぐにあたしの目を見た。その瞳の奥にある決意を見て、あたしは恭介が本気なんだって分かった。
そういえば恭介は、昔からそうだった。自分のことより、他人のことを優先させる性格だったんだ。故に過去の時間軸では、溜め込み過ぎて爆発してしまったりすることもあったけど……これについてはあたしも人のことは言えない。だから、あたしは恭介を応援したいと思った。
「……そっか。じゃあ期待してるね。でも、無理だけはしないようにね? あたしはあんたの演奏が好きなんであって、別に上手い演奏を聴きたいわけじゃないし……」
あたしがそう言うと、恭介は嬉しそうな表情になった。
「うん、約束するよ。皆が治してくれたこの腕を、粗末に扱う訳にはいかないし」
恭介のその言葉を聞いて、あたしは安心した。まあ、元々こいつは身体のケアへの意識は高かったし、そうそう無茶なんてする気はなかっただろうけどね。でも、ブランクを取り戻すために、焦ったりしないか心配だった。そんな事にはならなさそうで良かったよ!
そして、あたしは病室を出た後、まどか、マミさんの2人と合流して、いつものように談笑しながらパトロールをしていた。まあ、いつものようにとは言っても、実はこのメンバーでの活動は初めてなんだけど。何せ、まどかの火力と、ほむらの時間停止能力の組み合わせが強すぎて、片方はその二人で組んで貰うことが多かったし。それに、あたしの教育って意味でも、あたしがいる方のチームには、杏子が居た方が良かったからね。
でも、最近ではまどかの補助魔法が強力になって、持続時間も伸びたから、事前にまどかがみんなに強化を掛けておけば、どんな組み合わせだろうと問題なく因果魔女を倒すことが出来るようになったんだ。それに、あたしだって最近はかなり強くなったしね!
だから、最近組み分けで気を付けていることと言えば、三人一組で分かれる場合は、経験が浅いあたしとゆまちゃんを、同じチームにはしないことくらいかな。魔女って奴は、ただ強いだけじゃ対処出来ない相手も多いからねー。まあ、そういう事情なので、今日ようやくこの三人で一緒に活動出来るって訳だ。正直かなり楽しみにしていた。まどかとマミさんの組み合わせは、いつも楽しそうで羨ましいと思っていたし。ただ、それ故に少し問題もあった。それが何かと言うと……
「ダメよ、美樹さん! 魔法少女なのだから、ちゃんと技名を口に出して言わないと!」
「いや、何でですか! 普通に攻撃するだけでいいでしょ!」
今、あたし達は、新しく現れた魔女と戦っていたのだが、どうにも上手くいかなくて困っていた。というのも、マミさんが技名を叫ばせようとしてくるのだ。今までは技名言わない派の杏子と一緒だったから、気にならなかったんだけど、今回はねぇ。
「スプレットアロー!!」
「ほら! 鹿目さんはちゃんと言ってるわよ?」
少し離れた所から、使い魔を処理してくれているまどかを見ながら、マミさんが言ってくる。そう。まどかも普通に技名を叫ぶから、この場だとあたしが少数派なのだ。しかも、その叫び声は何故か無駄に大きくて、とても恥ずかしかった。
「えぇ……でもさ、技名なんて言う必要あります? 威力が変わるわけでもないし……」
あたしは不満げに言った。すると、マミさんは首を横に振った。
「いいえ、あるわ。魔女狩りは常に命懸けの戦いなの。少しでも気を強く持てるように、心の中で念じるんじゃなくて、口に出すことで、自分を鼓舞することが出来るのよ! 昔テレビで見た魔法少女達も、皆そうやって戦っていたもの」
うーん、そりゃ確かにテレビとかで見る魔法少女は、大体必殺技みたいなの叫んでるけど……あれって自分を鼓舞するためなのかなぁ……
「確かに、彼女達にそんな意図は無いかも知れないわ。でも、私達が戦う上で、その気持ちはとても大事なことなのよ。少なくとも、怯えながら戦うよりはずっとマシだと思うの」
あたしは、マミさんのその言葉を聞いて、ハッとした。そうだ。あたしだって過去の時間軸では、正義の味方になるとか言っていたじゃないか。そう思うことで、不安や恐怖を払拭しようとしていたんじゃないのか? あたしにはもう、世界を守ろうだなんて考えは無いけど……それでも、あたしはあたしなりに、誰かのために戦いたいって思ってるんじゃないか? だったら……
「……分かりました。やってみます。でも、テンションのあまりあたしが変な事しないか見張っててくださいね? 先輩」
あたしはそう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。すると、マミさんは笑顔で応えてくれた。
「ふふ、任せて頂戴。鹿目さん! 今回は美樹さんにトドメを任せましょう! サポートお願いね」
まどかは、その言葉を聞くと、あたし達の元に駆け寄って来てこう言った。
「分かりました! さやかちゃん、頑張ってね!」
満面の笑みで応援してくれるまどかを見て、あたしも自然と笑みをこぼした。そうだよ。童心に帰って良いんだ。例えかつてのあたしが思う程、この世界が綺麗なものじゃないとしても。あたしの大切な人達が幸せに暮らすために強くなるって決めたのは、紛れもないあたし自身なんだから。だったら、それを貫いてやるだけだ!
あたしは気合いを入れ直すと、目の前の魔女を見据えた。
相手は、大量の蜜蜂型の使い魔を従えた女王様のような姿をしている。使い魔の数が多い上に、魔女本体も素早く動ける厄介者だ。でも、あたしだって強くなったんだ。二人の援護があれば、負ける気がしない!
あたしは、剣を構えると、魔女に向かって駆け出した。当然使い魔達が妨害してくるが、その殆どがまどかとマミさんによって撃ち落とされていく。多少弾幕をすり抜けてくる奴が居ても、この程度なら斬り伏せられる! そのままあたしが魔女に肉薄すると、奴は羽を使って飛び上がった。
「ふふん! 空中戦ならこっちだって負けないよ!」
あたしは、空中に幾つもの魔法陣を展開して、それらを足場にしながら魔女を追いかけ始めた。魔女は、最初は驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻し、無数の針を飛ばしてきた。だが、残念! 高速で跳び回る今のあたしには当たらないよ!
それからも奴は、あたしから逃げ回り続けた。しかし、その逃走ルートは、まどかとマミさんの弾幕により徐々に狭められていき、やがて魔女は追い詰められていった。そして遂にその時が訪れる。
壁際まで追い込まれた魔女は、最後の足掻きとして、今までとは比べ物にならない量の針を撃ち出してきた。でも、気にすることはない。何故ならば、あたしのことは二人が魔法で守ってくれているからだ! あたしは、その事に安心感を覚えつつ、魔法陣を思いっきり蹴って、一直線に魔女へと向かっていった。
「これで終わりだ! 『スクワルタトーレ』!!」
あたしの叫びと共に、魔女の体は縦真っ二つに引き裂かれた。魔女の断末魔の悲鳴を聞きながら、あたしは地面に着地した。
「よっしゃー!! これもう完璧じゃね!? あたしだってやれば出来るじゃんかー!!!」
あたしは喜びのあまりガッツポーズをして叫んだ。その様子を見ていたマミさんとまどかも嬉しそうに拍手してくれた。
「お疲れさま、美樹さん」
「うん、凄かったよさやかちゃん」
二人とも、まるで自分のことのように喜んでくれている。それがとても嬉しいけど……ちょっと照れ臭いなぁ……後、冷静に考えてみると、やっぱり技名叫ぶのは恥ずいわ。マミさんが技名言う理由は分かったけど、恥ずかしいもんは恥ずかしいし……
「あー……えっと……ありがとうございます。でも、うう……うがああーっ!!!」
あたしは、頭をガシガシ掻くと、雄たけびを上げて誤魔化した。そんなあたしを見て、マミさんとまどかは楽しげに笑っていた。
うん、やっぱりこの二人と居ると楽しいなぁ…… 恥ずいけど、まあいっか。複雑な思いはあれど、あたしの魔法はこの日から更に磨きがかかっていくのであった。
勿論それは、恭介の治療にも役立っていた。まだ後一週間は掛かるだろうと思われていたが、あたしがまともに戦力になるようになってからは、日に日に傷口が塞がっていくスピードが上がり、なんと四日で完治してしまったのだ。これには、もしかしたら仁美の参戦も関係しているかも知れない。結局魔法って奴は、心の持ち方次第だってまどかも言ってたしね。
だから、思った以上に早く仁美と決着をつける時が来てしまった訳だ。
「うう……今日の夕方恭介に告白するのか……緊張すんな……」
「なんだよさやか、あんたらしくねえぞ? いつもみたいにドカンとぶつかれよ」
恭介の怪我が治って五日が経過した今日。魔法少女達が集まり、あたしを鼓舞してくれていた。杏子は、相変わらずの調子であたしの背中を押してくれるが、正直今はそれどころじゃない。
「だってさ~あたしさっきから心臓バクバクだし、手汗ヤバいし、顔超熱いんだってば! てかあたしらしくないって何よ!」
あたしは、顔を赤くしながら抗議した。すると、ゆまちゃんが、あたしの手を握り締めてくれた。
「大丈夫だよ! さやかお姉ちゃんならきっと上手く行くから! キョーコも応援してるだけだし、心配しないで?」
ゆまちゃんは、天使のような笑顔を浮かべると、あたしの事を励ましてくれている。その優しさが心に染み渡ると同時に、少しだけ心が軽くなった気がする。
「ありがとね、ゆまちゃん。そうだよね、ここでビビッちゃったら駄目だよね! よし! そろそろ行ってくるよ!」
あたしが立ち上がると、みんなは優しく微笑んでくれた。
「頑張ってねさやかちゃん!」
「ファイトよ、美樹さん」
「さやかお姉ちゃん頑張って!」
まどかと、マミさんと、ゆまちゃんはストレートにあたしを激励してくれる。
「もう、ウジウジするあなたを見るのは懲り懲りよ。さっさと行ってきなさい」
とほむらは相変わらずだけど、なんだかんだであたしの事を心配してるんだろう。
そして、最後にあたしをじっと見つめる少女がいた。
「……頑張れよ、さやか。あんたなら絶対出来る。あたしは信じてるぜ」
杏子だ。彼女は、普段あたしには見せないような真剣な表情をしていた。
「うん、任せてよ! 絶対に勝ってみせるよ!!」
あたしは、力強く答えると、病院に向かって駆け出した。
「骨はひろってやるからなー! 当たって砕けちまえよぉー!!」
後ろの方で、杏子が何やら叫んでいる。いや、縁起でもない事言わないで欲しいんだけど……でも、ありがとう!!
こうしてあたしは、無事に仁美と合流を果たして、恭介と待ち合わせしている公園へとやってきた。
「もうすぐ上条君が来る時間ですわね。さやかさん、準備はいいですか?」
仁美は、ベンチに腰掛けながら、落ち着いた様子で言う。どうやら彼女も覚悟を決めてきたようだ。
「うん、バッチリ」
そう言いながら、あたしも隣に座って、恭介を待つことにした。暫くの間沈黙が流れるが、不思議と気まずくはない。むしろ心地よいくらいだった。
そして、それから数分後、ついにその時が訪れる。遠くの方に、見慣れた姿が見えたのだ。恭介だ。彼は、あたし達の姿を見て、こちらに走ってきた。
「ごめんね遅くなって。待ったかな? それで、話って一体なんだい?」
息を整えつつ、恭介はあたし達に話しかけてくる。あたしと仁美は、互いに目配せをして、話し始めた。
「恭介……あたし、恭介の事が好きなんです。だから、付き合って下さい!」
「私も、あなたのことがずっと好きでした。どうか、私の彼氏になってくれませんか?」
あたし達は同時に告白をした。さあ、恭介はあたしと仁美のどちらを選ぶのか……それとも恋なんかしないで、バイオリンに生きる道を選んでしまうのだろうか。あたし達は固唾を飲み込み、彼の答えを待っていた。恭介は一瞬驚いように目を丸くした後、少し考え込んでしまった。
まあ、いきなりこんなこと言われたらそうなっちゃうよね……それも二人同時なんて、混乱しても仕方がない。しかし、意外にもはっきりとした口調で恭介が口を開いた。
「実は、僕も最近さやかの事が、好きになってきてたんだ。だから、嬉しいよ。これからよろしくお願いします」
え? 今、恭介は何て言った? あたしの事を好きだって? 嘘でしょ? いつの間に!? あたしが呆然と立ち尽くしていると、仁美がどこか納得したような顔をしながら、
「やっぱり、負けてしまいましたか……」
と言って、あたしの方をチラッと見る。
「さやかさん、おめでとうございます。これで、私は諦める事が出来ます。本当にお幸せに」
そして、あたしの手をギュッと握ると、そのまま走り去って行ってしまった。
「ちょ、仁美!?」
あたしは慌てて追いかけようとするが、その前に恭介があたしの手を握ってきた。
「さやか、ちょっと二人で話がしたいんだ。もう少し付き合ってくれるかい?」
恭介があたしの目を見つめて言う。ああ……そうだよね。折角仁美が気を利かせてくれたわけだし、ここは素直に従うべきだろう。それに、今は恭介と一緒にいたいし。
「うん、わかったよ。じゃあ、少しだけ散歩しよう」
あたしがそういうと、恭介は嬉しそうに微笑んでくれた。
あたしと恭介は、近くの喫茶店に入ると、適当に飲み物を注文して、席に着いた。
「ねえ、恭介。本当にあたしの事が好きになったの?」
先に口を開けたのはあたしの方だった。どうしても確認せずにはいられなかったからだ。
だって、過去の時間軸では、恭介は恋愛の事など全く興味がなかったはずだし、仁美と付き合う事になっても、あまりよく分かっていなかったのでは無いかと、今なら思う。
そんな彼が、どうして急に? すると、恭介は照れくさそうに頬を掻きながら、ゆっくりと語り始めた。
「うん、正直自分でもよく分からないんだ。こんな気持ちは生まれて初めてだったから。僕はずっと、音楽の事しか頭に無かったからさ」
知ってるよ。あんたはいつも音楽の事ばかり考えてた。そんなあんただからこそ、あたしは惹かれたんだと思う。まあ、あまりにあたし達の事意識してくれなさ過ぎで、時々イラっとする事もあったけどね。
「でも、この前君から、『あたしはあんたの演奏が好きなんであって、上手い演奏が聞きたい訳じゃない』って言われた時、凄く胸の奥に響いてね。僕の演奏が好きってどう言うことなのかな? とか色々考えたら、さやかの事が頭から離れなくなって。それから、さやかの事ばっかり考えるようになってたんだ」
そういえば、そんな事言ったっけ。でも、あれは単にあたしの本心だったんだけど。まさかそれが恭介の心を動かすきっかけになるとは思わなかった。
「そんなことも考えなくちゃ分からない時点で、僕は音楽家としても、男としても失格かもしれないね。でも、今ならはっきりと言えるよ。僕は、さやかの事が好きだ。だから、これからよろしくね」
そう言って、恭介は手を差し出してきた。あたしは、恭介の言葉を聞いて、思わず泣き出しそうになったが、何とか堪えて恭介と握手をする。
「こちらこそ、不束者ですが、末永く宜しくお願いします」
こうして、あたしと恭介は付き合う事になった。まあ、放っとくと音楽の事ばっかなのは変わらないと思うけどね。それでも、恭介なりにあたしの事も頑張ろうとしてくれるみたいだしさ。それだけでも、奇跡みたいなものじゃないか。みんな、ありがとう。あたしは、幸せになります!
読んでいただき、ありがとうございます。一応番外編なので、あまり長くするつもりは無かったのですが、話を脱線させまくった結果、過去一の長さとなってしまいました。本編にねじ込んでも良いくらいですね。
それはさておき、さやかと恭介が本当の意味で結ばれるルートと言うのは、難しいものだと改めて思いました。
「上条恭介は恋愛より音楽を取る人間」と言う前提がある故に、付き合ったとしても、幸せになれるかどうか怪しいものだと、虚淵先生も仰っていましたしね
このSSは、ご都合主義100%で出来ているようなものですので、ふとした切っ掛けでその前提が覆ったりした訳ですが、原作時空では中々こうはいきません。まあ、実際どうなのかは分かりませんが。
さて、一応まだ番外編のネタは幾つかあるので、その内また書くかもしれません。前書きにも書いた通り、リアルが少しドタバタしているので、すぐには無理かも知れませんが……
それではまた機会があればお会いしましょう。