音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第101話

トレセン学園。日本ウマ娘トレーニングセンター学園スクール・中央校。トゥインクルシリーズの中心地、日本ウマ娘レースにおいての最大のエリート校。季節は春、今年もこのトレセン学園にウマ娘達がやってくる。次の三冠ウマ娘か、次の最速か、次の最強か、どのような夢を描いて此処にやって来るのかは分からないが―――今年もこの季節が来る。

 

「うわぁ~凄い、凄い人だねキタちゃん」

「うん。去年の私達もこんな感じだったんだねダイヤちゃん」

 

スピカの練習を見つめる新入生たちに去年の自分達を重ねてしまうキタサンブラックとサトノダイヤモンド。自分達もあんな感じだったのかなぁと思うと、もう1年が経ったのかと思ってしまう。

 

「キタにサトイモ、今度アンタらとビルダーの番」

「あっうん分かったバジンちゃん」

「んもうその呼び方やめてってば!!」

 

新入生たちの姿を見ている二人にからかいを交えたような口調でバジンは走れという。サトイモというよく分からない略し方に当人は不満、流石にバジンも日常的に使っている訳ではなく注意を促す時のみに使っている。

 

「いやぁ~今年も良い子がいっぱい来てますね~」

「全くだね~中には中々良い物をお持ちになっとりますウマ娘ちゃんも居りますな~」

「ハリケーン、好い加減にしないと殴りますよ」

 

流石に毒牙に掛けさせる訳にはいかないとチェイスがストップをかけておく。まあ流石にいきなり変な事をするとは思わないが、言っておかないと不味いだろう。と思ったのだが、直ぐに新入生たちは凄い声を上げた。突然の大声に吃驚するチェイスだがビルダーは当然ですよと何故か胸を張る。

 

「そりゃ三冠ウマ娘さんが出てきたら大騒ぎになりますってっという事で私はファンクラブ勧誘してきます!!」

「その前に走りなさい」

「ハリケーン先輩に譲ります!!」

「あっマジで!?んじゃ走る~!!」

 

なんてフリーダムな二人なのだろうか……何時の間にファンクラブ会長モードに入っていたビルダーは公認ファンクラブの加入は此方という看板の下で案内をやっているし、ハリケーンはそれを真に受けてキタサンブラック、サトノダイヤモンドに混じって走り出している。本当になんて自由なのだろうか……。

 

「よおっチェイス。人気者で何よりだな」

「何より、なんですかね……顔を出したら突然叫ばれて吃驚したんですか」

「そりゃ今まで雲の上の存在だった有名人が先輩になって会える所に居るんだから騒ぐってものだ」

 

そう言われたら結構納得、後で会長に三冠ウマ娘としての立ち振る舞いとかを聞いて来ようと思うチェイスであった。そんな時、一人のウマ娘がチェイスに近づいていった。畏れ多い、高嶺の花、雲の上の存在とキャアキャアと声を上げるウマ娘達の中で一人だけ、近づいて行く。その表情にあるのは嬉しさと喜び。

 

「あ、あのチェイスさん……!!」

「おや」

 

振り向いた先に居たのは光を受けて金色の光を放つように艶やかで美しい栗毛のウマ娘、あの時よりも大きくなっている気がする。自分よりかは小さいがそれでも大きい部類に入るだろう、それでも表情にあるのは初めて会った時と全く同じ表情に此方も笑みが零れる。

 

「あの時ぶりですね」

「はい、来ました」

 

何処か恥ずかし気にしながらも照れながらの笑みは何処か力を感じさせる、此処に来て再び顔を合わせるの三度目。それもなんだか不思議の巡り会わせのように感じられる。

 

「何だチェイス顔見知りか?」

「ええ。これで三度目になりますかね……」

「え、えっと……新入生のオルフェーヴル、です……よろしくお願いしますっ……!!」

 

恥ずかしそうにしながらも出来る限りの大きな声と誠意を込めた挨拶に応、と返しておく。なんともライスシャワーを思わせるような精神面だと沖野は素直に思った。この子もチェイスに憧れているという所から思わずバジンを連想したがどんな走りを見せてくれるのかと思わず期待せずにはいられない。

 

「オルフェーヴルさん、折角会えた事ですから走りませんか?」

「い、良いんですか!?で、でも私なんかと一緒なんて……」

「いやいやいやそんな事ねぇって」

 

何処か消極的なオルフェーヴルに対して沖野は誰かと走ってくれた方がチェイスの為にもなるし折角来た新入生たちにもいい刺激になるから、と最初にチェイスと一緒に走る様に言う。と言っても軽く、走り込みのような形にはなるが……と明言するが

 

「ご、ご迷惑にならないのなら……!!」

「んじゃ頼むぞチェイス。このオルフェーヴルとが終わったら希望者と一緒に走って貰うからな」

「そういう事ですか……やれやれ、それじゃあ走りますかオルフェーヴルさん」

「さ、さん付けなんてしないでください。えっと、お父さんとお母さんから呼ばれてるオルちゃんって呼んでいただけたら……」

「ではそのように呼びますね、オルちゃん」

 

二人一緒にコースへと入っていく、正直な所彼女の走りが気になるのが素直な所。ハッキリ言えばオルフェーヴルの脚が気になった、触った訳ではないがあの脚は相当なものを秘めているという印象を抱く。その片鱗でも見せてくれれば……と沖野は思ったのだが、そこで見た物は全く違う物の片鱗であった。

 

「ではオルちゃん、行きますよっ」

「はいっご一緒させて頂きます!!」

 

スタートする二人、軽い並走トレーニングになるのでチェイスもそこまで速度は出さない。オルフェーヴルも別にそこに文句はないのかその後に続いて行くのだが―――徐々にフォームがブレているように見えた。

 

「何だ、なんかフォームが……」

 

「―――我慢出来ない……!!」

「お、オルちゃん……?」

 

先程までの大人し気な少女の姿は跡形もなく、口角を持ち上げながらもそこから歯を見せながらも瞳は鋭く獰猛な物へと変貌していった。そして隣を走っていたチェイスを追い抜きながらも挑発的な声をチェイスへとぶつける。

 

「こんなのじゃ満足出来ないなぁ!!もっと、もっとだ。全力で走ろうぜ!!」

「えっ貴方そんなキャラだったんですか?」

「さあ早く、早く早く走ろうぜぇ!!!」

 

そのままチェイスを煽りながらも走り続けているオルフェーヴル、それを見ていた者は驚くが同時にそこで見せつけた彼女の走りのキレはこの時点で目を見張るものがあった。途中からチェイスも本腰を入れ始めて走り出すのだが……

 

「そうだよこの走り!!やっぱり凄いじゃねえか!!」

「この子……」

「こりゃ、またとんでもねぇのが来たな……」

 

それからは一度も追いこす事は出来なかったが、彼女はチェイスに最後まで着いていき離される事がないままゴールするのだった。

 

「え、えっとその……ごめんなさい!!走ってる途中で凄い嬉しくなってというか、なんか途中から凄い暴力的な気分になっちゃったというか……そのえっとえと……今までこんな事無かったんですけどその……!!」

「大丈夫ですよ気にしなくても、とてもいい走りでしたよ」

 

ゴールしてからオルフェーヴルは大慌てでチェイスに謝り始めた。何度も走った事はあるが、こんな興奮は初めてだったらしくああなったしまったと語るが……逆にそれは彼女が持ち合わせている潜在的な能力と闘争心の表われだと沖野は感じ取った。オルフェーヴル。彼女は間違いなく大成すると思った。

 

「チェイス……何そいつ」

「新入生のオルフェーヴルさんです」

「え、えっとオルフェーヴルです」

「……オートバジン、仲良くしてくれなくていいから」

「えっ……」

「ちょっとバジン貴方何を」

「……なんか、気に入らない」


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