音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第102話

「ではあの時の阪神大賞典も?」

「勿論行きました!!」

 

スピカの新メンバーとなったオルフェーヴル、以前からの知り合いという事もあってチェイスが面倒を見る事になっている。他にもスピカの加入希望者はいるのだが、これ以上の人数は沖野の管理能力の限界を越えるので理事長にお願いしてサブトレーナーを探して貰い、決まってからという事になった。

 

「次は天皇賞春ですね、応援します……!!」

「有難う御座います」

 

阪神大賞典では見事に一着をもぎ取ったチェイス、菊花賞のリベンジを果たしたと言っても過言ではない。次はいよいよ天皇賞春になるのだが……その前にスピカからは皐月賞に向けてキタサンブラック、サトノダイヤモンド、オートバジンが出走するので沖野は其方に集中している。特にバジンはかなり気合が入っており、自己ベストを更新する走りを見せ続けている。

 

「それにしても、その蹄鉄凄い重そうです……それでよく走れますね」

「まあ慣れましたから」

 

阪神大賞典を越えて尚、重量蹄鉄は外していない。皐月賞が終わったタイミングで外して更なる成果を試す予定だが……どんな風に走れるのか楽しみにしている。

 

「さて、それじゃあ貴方の走りも見ましょうか。奇遇な事に同じ追い込みな事ですし」

「はい宜しくお願いします!!」

 

オルフェーヴルの脚質は追い込みか差し、チェイスとマッチしているので指導役としてはかなり適している。最初はゴールドシップも候補に挙がったが、流石にそれはまずいという事でチェイスに一任された。そして―――

 

「さあ行くぜぇ……!!もっと、もっとだチェイス!!」

「う~ん……凄い豹変っぷりですねやっぱり……」

 

レースに限った話ではないのだが、ターフで走ろうとすると大人しい気質が一気に豹変して凶暴性が剥き出しになっていく。余りの豹変っぷりにスピカ全員が仰天したのは笑い話。だが、それが剥き出しになった時のオルフェーヴルの走りは凄まじい物があり、これを磨き上げたら何処までの高さまでに行くのかと全員が楽しみにしている。

 

「フフッ元気で宜しい。揉んであげますから全力で来なさい」

「ったりめぇだぁ!!行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」

「(なんかモモみたい……後でプリン奢ってあげようっと)」

 

 

「やぁぁぁぁぁ!!!」

「たぁぁぁぁぁ!!!」

「だぁぁぁぁぁ!!!」

 

同じように練習を重ね続けているキタサンブラック、サトノダイヤモンド、オートバジン。三人同時にクラシック挑戦を行うので沖野も大変な気持ちではあるが、逆にどんなレースになるのかと楽しみな気持ちで一杯。

 

「お~三人とも気合入ってんな~」

「もう直ぐ皐月賞ですもんね、気合も入りますよ」

「にしても三人同時とはね。トレーナーも大変ね」

「全くだ。せめて一人ぐらいティアラ路線に行ってくれたら楽だったのにな」

 

今更に言っても意味がないし本心でもない様なたわごとを吐きながら肩を竦める、それが本人達の意志なのだから致し方ない。自分はそれを手伝ってやるしかない。

 

「フゥッ……今回は私は1着だったね」

「ムゥッ~……トレーナーさんもう一本、もう一本お願いします!!」

「……アタシもやる」

 

一着でゴールしたキタサンブラックに負けてられないと闘志を燃やすサトノダイヤモンド、その意気や良しと沖野も許可を出すのだが……その時に遠くを見つめているバジンに目が留まった。

 

「どしたバジン、疲れたか?」

「……違う」

 

彼女が不愛想なのは普段からの事なのだが、どうにも最近はそれに磨きが掛かってしまっている気がする。ムスッとしており、少し怒っているのかと思うような様子が続いている。そんなバジンにゴールドシップはははぁ~ん?と分かったような顔をする。

 

「分かったぜ~バジン。お前、オルフェにチェイスが取られちまって不機嫌なんだろ~?」

「なっ!?ち、違うし!!何でアタシが新人に嫉妬しなきゃいけないのさ訳分かんないし!!」

「またまた~」

 

指でツンツンしてくるゴールドシップにバジンは顔を真っ赤にしながらも必死に否定しながらも、遂にキレて拳を炸裂させた。

 

「るっさい!!」

「目がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あれは痛いですわね……まあゴールドシップさんなら大丈夫でしょうけど」

「確かに大丈夫だけどそれはねぇだろマックイーン……」

 

何事もなく平然に立ち上がるゴールドシップ、指先の第二間接を突き出した状態の握り拳、所謂カーヴィング・ナックルを顔に喰らって目にもあたっていたのに如何して平然と立ちあがれるのか……まあ彼女の事なのでこれ以上考えるのは無駄なのでやめておこう。

 

「何でもないっつってんだろ!!さっさと走るよキタノサトイモ!!」

「なんか纏められてる!?」

「その言い方やめてってばバジンちゃん!」

 

そんな事を言いながらも走り出して行くのを見ながらもあれは完全にオルフェーヴルに嫉妬している。前に何故かオルフェーヴルの事が気に入らなくて仲良くしなくていいとも言っていたし、その事も関係しているのだろうか。

 

「(見せ付けてやる……見せ付けてやる!!)」

「バジンちゃん、なんか凄い速い!?」

「どんどん、速くなってる……!?」

 

 

 

「バジン調子良さそうですね」

「凄いですね先輩……でもどうして仲良くしなくていいって言われちゃったんでしょうか……」

 

走りも終えて普段の大人しい状態に戻ったオルフェーヴルと共にバジンの走りを見る。矢張り皐月賞を控えている為か凄い気迫を感じる走りだ、あれならラストスパートの出来も酷く期待出来る。だが、どうして彼女はオルフェーヴルが気に入らないのだろうか……。

 

「(何でバジンはオルフェーヴルを……んっ?オルフェーヴル……オルフェ、ヴル……オルフェノク……あれっもしかしてそういう事……?)」

「私、仲良く出来ますか?」

「大丈夫ですよ、多分ですけど後輩が出来て緊張しちゃってるんですよ。待って上げましょうね」

「はいっ……♪」

 

慰めも含めて頭を撫でてあげる。彼女の金色の輝きを放つ栗毛の髪は酷く撫で心地が良い、上質なシルクを思わせる程に素晴らしい肌触りだ。思わず頬が綻んでいるとバジンの走りが更に鋭さを増していく。これは皐月賞が楽しみだ。

 

「負けない、あんな奴に絶対に負けるもんか……!!」

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