音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第103話

「チェイス、一つ尋ねても良いかね。如何して皐月賞を見に行かないのだ?」

「それを聞く為に態々呼んだ、のですか?」

 

その日、チェイスの姿は生徒会室にあった。今日は皐月賞、スピカの面々は出走するメンバーの応援へと向かって行ったがチェイスは学園に残っていた。普通に授業を受けていたのだがエアグルーヴから呼び出しを受けて足を運ぶとシンボリルドルフからそんな問いかけをされた。

 

「私も私で天皇賞が控えてますので其方に集中しろとトレーナーさんから言われましたので」

「成程、道理だが有備無患の君ならば問題はないとも思うのだが」

「理由はそれだけではないと仰りたいのですね」

「そんな所だ」

 

エアグルーヴの言葉に同意しながらも目の前のチェイスを見る。自分以来の無敗の三冠ウマ娘、こうして対面すると本当に大きくなったと同時に末恐ろしさすら感じる。一時期はフロックだと言われていた事もあったが、それら全てを自分の力のみで捻じ伏せて来た、名門の出でもないウマ娘が此処まで大きくなるとはURAの上層部は絶対に考えもつかなかった事だ。

 

「正直な事を言うと、予感があります。それに備える為です」

「どんな予感かな?」

「敗北です」

 

余りにも単純な言葉だったがそれを君が恐れるのかとも思った。此処まで無敗を貫き続けている無敗の三冠ウマ娘が。

 

「随分と弱気だな。それでも三冠か」

 

ナリタブライアンが何処か呆れたようにも聞こえるような声色で言った。

 

「私は別に意識して勝ち続けたわけじゃありません、唯走ってきただけです。次の天皇賞―――私はどうなるか分からない」

 

無敗であるが故に実感している物がある、シニアクラスの闘志だ。トゥインクルシリーズのこのクラスへと登って分かった、阪神大賞典では肌で感じた。クラシックでも感じる事は感じたがそれ以上の凄まじい物が渦巻いているのが分かるのだ―――私がお前を倒すという意志を。

 

「純粋な闘争心、私を打ち破るという意志が私は素直に脅威と感じました」

「それが挑戦される者という事さ、私にも似た経験がある」

 

皇帝シンボリルドルフ。それを破ろうとしたウマ娘は数多い。その挑戦を受け続けながらも絶対と言われた彼女でさえも敗北は存在する、だがその度に皇帝は更に強さを増して行ったという。

 

「私は勝利に拘りはしません、敗北したとしてもそれを受け止める心構えも出来ています」

「では、君を慕うオートバジンの皐月賞を見に行かない理由は」

「―――私は彼女の夢です、その夢を守る為に。胸を張れるウマ娘で居る為に」

 

良い心構えと面構えだとシンボリルドルフは口角を上げた。敗北は怖くはない、寧ろ来るなら来い。だが敗北で揺らぎたくはない、自分は自分の為だけに走っている訳ではない事を既に知っている。如何やら藪蛇だったかもしれない。

 

「無粋だったかもしれないな、済まないなチェイス突然呼び出してしまって」

「いえ、お気になさらず」

 

丁寧に頭を下げてからチェイスは生徒会室から立ち去っていく、そんな姿を見送りながらも紅茶を口にする。

 

「勝ち続けるのもいい、だが敗北というのも存外悪くはない。それを知って強くなるのか、それとも―――それすら必要ないとそのまま強くなるのか、楽しみだ」

 

 

 

ガァンッ!!!

 

外れた重りの音を聞くと何で自分はこんなものを付け続けて走ってんだよ、と思いたくなる。その証拠にそう思っているであろうオルフェーヴルが目を点に、そして口を開けて驚いている。

 

「―――よし。準備は良いですよオルちゃん、オルちゃん?」

「えっあっはい!!すいません凄い音でしたから」

「確かに、大賞典から更に重さを追加して貰いましたから」

 

沖野曰く、これ以上は害になるというギリギリのラインをインベタドリフトしたとの事。インベタドリフトがどういう物かは分からないが、内角ギリギリのストレートという事だろう。

 

「しかし良かったのですか皐月賞に行かなくて」

「興味ありますけど……やっぱり私はメイクデビューに向けて頑張りたいですしチェイスさんのお手伝いしたかったので」

「そうですか、では後で一緒に走りましょうか」

 

そう言うと耳と尻尾を動かしてストレートに喜びを表現する姿に思わず頬が緩む、如何にもバジンのツンデレに慣れていると彼女のそれは少々眩しく映り気味。だがそれが良い、と自分の中で何かが叫ぶ。

 

「さてっ―――マッハチェイスを開始しましょう」

 

天皇賞春、そこが自分にとって初めての敗北後になるのか、それともシンボリルドルフの跡に続くような事になるのかなんてもうどうでもいい。自分は唯、今立っているターフを全力で駆け抜けるのみだ。

 

「それでは開始10秒前!!」

 

自分が走る理由なんて決まっている。天倉町の愛の為、自分を憧れと呼んでくれた人の為に走る。それだけで十分だ。

 

「5、4、3、2、1、スタート!!」

 

さあ―――マッハチェイスを始めよう。

 

チェイスの仕上がりは完璧、これならば天皇賞春も勝ちを十二分に望める。それを確認する事が出来たのでその後はオルフェーヴルと共に軽く走りながらもチェイスはトレーニングに勤しんでいた。そして―――トレーナーたちが帰ってきた、当人達から話を聞こうと思って中継やニュースには手を付けていない。

 

「お帰りなさい、如何でしたか」

「何だチェイス見てなかったのか」

「直接聞きたかったんです」

「そっか……いや、惜しい所まで行ったんだけどな。ダイヤが二着でキタが三着だった」

 

それを聞いて二人は照れたような恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。それでもGⅠレースでニ着と三着ならば十分過ぎる程に立派な戦績だ、これは先輩としても鼻が高い……と思って居たのだがバジンの姿が見当たらない。もしかして……と思ったのだが沖野は静かに首を横に振った。

 

「皐月を勝ったのはリギルのドゥラメンテ、本当に凄かった」

「そうですか、これは大きな目標が出来ましたね」

「「はいっ!!打倒ドゥメちゃんです!!」」

 

本当に仲良しだと分かる異口同音に笑ってしまう。しかしこの二人を越えるとは……ドゥラメンテというウマ娘も相当な強者だと分かる。自分もうかうかしていられないかも……だがそこで気になった、ならばバジンは。

 

「バジンは如何したんですか」

「あいつは……7着だった。その事が相当ショックだったのか、一人で寮に戻っちまったよ」

 

バジンが7着。それを聞いても直ぐには信じられなかったが、嘘を言う訳が無いのでそうなのだろう……と咀嚼する。

 

「様子、見てきます」

「頼むぞチェイス……泣いてたから慰めてやってくれ」




バジン、皐月賞7着。

次回はこの辺りを。
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