音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第104話

「ヒシアマ姐さん、バジンはどんな様子でした」

「なんていうかねぇ……気の毒な位に落ち込んでた」

 

バジンに会う為に寮まで戻って来たチェイス。其処で偶然出くわしたヒシアマゾンに物を尋ねると何とも言いにくそうにバジンの様子について答えてくれた。

 

「顔面蒼白になっちまってさ、今にも泣きだしそうなのを必死に我慢してて……なんというか、何とも言えない感じだったね」

「そうですか……ビルダー隠れてないで出て来なさい」

「ひゃ、ひゃい!!」

 

廊下の角で隠れるように此方の様子を伺っていたビルダーに声を掛ける。同室の彼女にも話を聞いておきたい。

 

「今のバジンは」

「えっと……あんまり、良くはないです……泣いてますから」

「あんだけ気合入れて7着だったんだ、悔しくて当然だよ」

 

本当に悔しいとは思っているだろうがそれだけではないのだろうとチェイスは分かっている、だからこそ自分が行かなければいけない。

 

「ヒシアマ姐さん、少し行ってきます」

「あいよ。後で食堂に来なよ」

「あっ私も手伝います」

 

ビルダーはヒシアマゾンについて行く、そして自分はバジンの部屋へと行く。部屋の前に着くと耳を澄ませてみる、誰もいない様な静かさ。ウマ娘としての聴覚でも聞こえない、部屋に居るのかと思うが気配は感じられる。間違いなくいる。ならば……きっと彼女の精神はグチャグチャだという事になってしまう。

 

「バジン、入りますよ」

 

扉を開ける。部屋の中は真っ暗だった、その中でベットの上で膝と一緒に枕を抱えながらもそこに顔を埋めて声を殺すようにして泣き続けている姿があった。その姿は自分が知っている物よりも酷く小さく、弱弱しい物だった。

 

「……」

 

チェイスが入ってきた事に気付いたのか、僅かに肩を震わせた。それでも顔を上げる事は無かった、無言の姿からは如何して来たんだ、こんな姿は見て欲しくなかったというメッセージが伝わってくるのが分かる。それでもチェイスは来た、そのまま隣に座ると静かにバジンの頭を撫でる。

 

「……」

「……」

 

何も言わず、何も聞かずに唯々隣に座って時間が経つのを待つ。唯静かにずっとずっと……どれだけの時間が経ったのか分からない、唯少しずつ時間が経つたびに押し殺していた声が漏れるようになっていった。そして、遂に声を聞く事が出来た。

 

「勝て、なかった……それどころか……」

「貴方は頑張ったんでしょう、それで私は十分満たされてますよ」

「違う……違うっ……」

 

貴方のようになりたかった、貴方のように走りたかった。そう思って走ってきたんだ、だから皐月賞は勝ちたかったんだ……それなのに負けてしまった。唯の負けではなかった―――

 

 

《さあオートバジンがスパートを掛ける!!このまま皐月の栄冠を手にするのか!?》

 

『行けるっ……!?』

 

《ドゥラメンテ、ドゥラメンテが一気に抜き返す!!オートバジン、限界なのか、ズルズルと後退していく!!後方からはキタサンブラック、サトノダイヤモンドがドゥラメンテを追走する!射程距離に収めた!!》

 

功を焦ってしまった。掛けるべき場所ではない地点で掛けてしまった、その結果はツインターボのような逆噴射までとはいわないが大幅な減速。此処まで無敗だったバジンはチェイスに続くどころか、その後を追う資格がないと言われたような7着だった。

 

「チェイスみたいになるなんて、唯の夢だったんだ……私なんかが、見ちゃいけない夢だったんだ……」

 

彼女の背中を追う資格なんて自分にはないと激しく自分を責め立てる、此処まで自罰的になるバジンは見た事がない。それ程までにチェイスはバジンにとって特別な存在だった、そんな人の為に走ろうと思っていたのにその結果がこれだ。だからもう走りたくないとさえ思ってしまった。

 

「見てはいけない夢なんて存在しません、貴方が私のようになりたいのならば好きにすればいい。私もそうします」

 

だがチェイスはそれを強く否定する。人は誰しも夢を見る、それは生きる力にもなる。それはチェイス自身が証明している。彼女は天倉町から愛を受けた、その愛に応える為に恩返しの為、憧れた父と母のようになりたくて警察官になりたいと望む。だがそれはURAやファンからしたら理解出来ないかもしれないが、この夢を曲げるつもりなどはない。

 

「私のようになりたいならば、私はその道を作りましょう。その道を走りなさい」

「道……?」

「日本ダービー、菊花賞、有馬記念。私が走ったレースで貴方は勝利を目指しなさい、そこで私を越えてみせなさい。一度負けた程度で燻るような性格じゃないでしょう貴方は」

 

皐月賞で負けたからなんだ、自分の走りはそれだけじゃないのは知っているだろうと叱咤する。だったら他で証明しろと力強く言うチェイスにバジンは漸く顔を上げた。泣き続けた故に目は真っ赤に充血している、そんなバジンの瞳から零れた雫を拭ってあげる。

 

「こんな所で泣くんじゃありません、泣くんだったら胸位貸して上げます。その後特訓にも付き合います、さあ行きますよオートバジン。私のようになりたいなら立ちなさい」

「―――無敗の癖に負けたからとかよく言う……よね」

「ターボ先輩とかシービーさんには良く負けてるから負けは経験しまくってます」

「そーじゃないでしょうが……」

 

ぶっきら棒に悪態をつきながらも、バジンは漸く涙を止めて笑いを浮かべた。この後、一緒に食堂へと行ってヒシアマゾンとビルダーが用意してくれた食事をお腹がいっぱいになるまで食べるとバジンはチェイスにお願いして寝るまでの添い寝とおまじないを要求した。

 

「あの時、起きてたんですか?」

「凄い恥ずかしかったけどもう良い、隠さないから。これからは甘えるから、覚悟しといて」

「なぁんか……思ってもない方向に着地したような……」




バジン、吹っ切れる。色んな意味で。
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