音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第107話

天皇賞春の終了によってスピカは次の事へと切り替わっていく。当然、クラシック路線を走っているメンバーの次の目標、即ち日本ダービーに向けての調整である。

 

「調子良さそうですね」

「ああ、お前とマックイーンの天皇賞がマジでいい刺激になってるみたいでな」

 

ターフを走り続けているキタサンブラック、サトノダイヤモンド、そしてオートバジンの走りには気合が漲っており期待を寄せるには十分な走りを見せ付けている。皐月賞でも十分に力を見せる事が出来た二人は今度こそと、打倒ドゥラメンテを掲げてダービー制覇を目指すバジン。チーム内でのライバル故にいい影響を与え合っている。

 

「ビルダーだって順調だからなぁ、いやぁ改めて前年度はすげぇ豊作だ」

「NHKマイルカップで一着ですからね」

 

そう、我が道を行くと言わんばかりにクラシック路線にティアラ路線をガン無視して出たいレースにのみ出る事を貫いているビルダーもビルダーで絶好調なのである。しかも次はジャパンダートダービーを狙っているとの事で本格的にアグネスデジタルの後継者を名乗る気が満々らしい。

 

「オルちゃんは如何します?」

「オルフェなぁ~……ぶっちゃけ、チェイスお前から見て如何思う?」

「二重人格者です」

「そうじゃねえよ!!」

 

「おうチェイス、なんか呼んだか!?」

「いいえ頑張ってと言ったんです」

「応あんがとな!!んじゃそれに応えてやるか、行くぜ行くぜ行くぜぇ~!!」

 

沖野のツッコミに反応しつつも応援されていると分かると直ぐに更に元気になって走り込みを再開するオルフェーヴル。二重人格と言いたくなるのも納得な変貌ぶりだが聞きたい事はそういう事ではない。まあチェイスも分かっているのか、素直に確りと答える事にした。

 

「真面目な話をしますとあの性格は一長一短かな、と思います。潜在的な物を全開にして走ってこそオルちゃんはフルスペックを活かせます。でもそこを上手く補強してあげないと崩れます、例え走っている最中でも」

「やっぱりか……ガッツもあるしパワーも相当な物、それを全開にし過ぎるの問題になる……ぜいたくな悩みだ」

 

別の意味での性格難というべきだろうか、普段は大人しい分スイッチが入ると潜在的な物が一気に爆発する。その爆発の方向性によっては思わぬ大崩れをするかもしれない。

 

「取り敢えずチェイス、お前も出来るだけ一緒に走ってやってくれ。経験を積ませてその方向がブレないようにしてやらねぇと」

「分かってますよ、可愛い後輩の為ですから一肌脱ぎますよ」

 

正直、彼女の為に一肌脱ぐのは悪い気分はしない。自分のファンというのもあるが、同じく追い込み型というの親近感が湧くし教える側としてもやりやすいのである。後趣味が同じというのもポイントが高い。

 

「……チェイス、キタノサトイモに勝ったから撫でて」

「その前にタオルとドリンクですよ」

「……撫でて」

「はいはい」

 

そんな内心が読んだと言わんばかりにやって来たバジンは頭を撫でて来る事を要求してきた、例えチームメンバーの前だろうが甘えるようになってきたバジン。シンボリルドルフに甘えるトウカイテイオーはこんな感じなんだろうな……と思いつつも撫でてやる事にする。

 

「にしてもバジン、お前変わったな……前はそんなことしてなかったろ」

「気にするな、私は気にしない」

「なんか清々しくなってるし……」

 

まあこれはこれで良いのかもしれないが……余りにも対応が変わりすぎているので戸惑いが止まらないのは致し方ない……そう思っていると遠くから此方を見つめているウマ娘が見えた。まるで宝石なように輝く美しい真紅の髪を靡かせているスタイル抜群のウマ娘、トレセン学園では一度も見かけた事がない。

 

「トレーナーさん、あの方見た事ありますか?」

「んっ……いや見た事ってマジかよ……」

 

沖野に話を振ってみると顔を強張らせて頬を痙攣させたようにピクつかせた。知っているのか?と思ったが沖野は硬直から解除されない、しかし視線を送っているとこっちに来てよ、的なハンドサインをして来た。

 

「どうやら私を御所望なようで、ちょっと行ってきます」

 

バジンは不満げな顔をするが、一度強く撫でてあげてからそちらへと向かって行く。バジンは不機嫌そうに鼻息を鳴らしてから硬直し続けている沖野の脛を蹴る。

 

「てぇなおい!!?」

「っるさい、何時までもアホ面晒し続けるよりマシでしょ」

「あたたた……ったくチェイスに向ける素直さを少しは他人に向けてくれ頼むから……」

「断る」

 

変わったのはチェイスに対する態度だけでそれ以外は全く変わっていないのだから……と思っていると視線で質問を投げてくる。

 

「あのウマ娘、知ってんの?」

「ああ、まあな……にしてもマジか……直接来るってこたぁ割かしマジって事だぜこりゃ」

 

 

「何か御用ですか?」

「先ずはお礼を言わセて貰ウね、突然のお誘イニ応えてくれテ」

 

自分へと掛けてくる言葉、日本語はやや片言だった。十二分に聞き取れるし流暢に喋れていると言ってもいいレベルのそれだが、どうやら海外からやって来たウマ娘である事が分かった。

 

「興味があっテ一度、話してみたかっンだ―――無敗の三冠ウマ娘とネ」

「成程……それでご感想は?」

「Amazing!!天皇賞春も見させて貰ったけど、最高ノレースダったワ。是非とも去年のジャパンカップでも貴方と走りたかったわ」

「もしかして、私と戦えないと言っていたウマ娘とは……」

 

微かに覚えている記憶、トウカイテイオーが会長からこういった話があったという事を聞いているがその本人が目の前の彼女という事になるのか。彼女は肩を竦めながらも鋭い瞳で此方を見つめながらも朗らかに笑う。

 

「だからこそ、今年ハ確リ戦いタイ。ジャパンカップには出る?」

「そのつもりです」

「Good!!楽シくナってキタワネ!!」

 

テンションが上がるのは結構だが、あくまで予定に過ぎない事を出来れば留意してほしい。菊花賞での怪我もあるし予期せぬトラブルが起こる事も十分にあり得るのだから。

 

「それで、貴方のお名前は?」

「Oh!!名乗って無かッタわね……My nane is―――トライドロン、宜しくねマッハチェイサー」

 

 

「ハイパービークルって異名を持つウマ娘だ。あらゆる距離を走破する奇跡の脚質と数多の技術(スキル)を駆使するアメリカ屈指の実力者だ」


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