音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第109話

「トライドロンか……あの化物の妹か」

「知ってるんですねゴルドは」

「お前が知らなすぎるだけだ、あれらは酷く有名だぞ」

 

行きつけの喫茶店でコーヒーを嗜んでいる所、やって来たゴルド。久しぶりに顔を合わせる事になったのでトライドロンが自分の所に来たという話をしてみると矢張り彼女はトライドロンの事を知っていた。というか自分が全く知らなすぎるという事なのだろう。

 

「少しは知る努力をしたらどうだ」

「だって海外挑戦とか如何でもいいですし」

「ジャパンカップがあるのだからせめて知っておけ……やれやれ」

 

そう言いながらも肩を竦めるゴルド。そんなに自分は物知らずだろうか、別にいいだろうと思うが……せめてエルコンドルパサーが挑戦した年の凱旋門賞位は調べるか、と思った。尚、本当にその年の凱旋門賞しか調べなかったので最近のことは全く調べなかった。

 

「しかし厄介だな……トライドロンがジャパンカップに来るとなると相当に厄介だ……認めなくはないがアメリカにおける最強ウマ娘は紛れもない奴だ、まあ現役という条件を付けるがな」

「一番はライドロンでしょうね」

「ああ。奴の父親もトレーナーらしいが、噂だとマンノウォーのトレーナーだったという話がある」

「誰ですか」

「……面倒だから自分で調べろ」

 

この後調べて分かったが、マンノウォーはアメリカウマ娘界史上最高とされるウマ娘だという事が分かった。既に引退しているとの事だが、これ迄どんなに優秀なウマ娘が出て来てもマンノウォーを越える事は出来ないとされているらしい……ライドロンはそれに肩を並べる事が許されているという評価を受けているとの事。

 

「ライドロンが相手になるよりも遥かにマシだが……それでも厄介だ、極めて厄介だ」

「トレーナーさんも言ってましたよ、マジモンのバケモンだと」

「その評価は正しい。ライドロンが化物を超越した何かだとすればトライドロンはスペックがバケモンだ」

 

随分な評価な気もするが、これが妥当なのである。ライドロンは基礎的なスペックも狂っているが、それらを活かした技術も狂っている。誰が勝てるんだと言われる程の存在だった。トライドロンはまだマシ、基礎的なスペックは一流で技術は超一流。なのでトライドロンはまだ勝ち目は一応残されている。

 

「因みにどうやって勝ちます?」

「あ~……そうだな、私ならゴルドラン……いや無理だな、あのオーバースペック走法を真似るなんて私には無理だ」

 

あのゴルドが一瞬で諦めを浮かべる事にチェイスは衝撃を受ける。曰く、トライドロンの走りは常に何かしらの技術を発動させていると言ってもいい。身体のそれぞれの部位が技術を行使してそれらを全て集約して一つの走りにしているらしい、なので一つの走りに見えて実際は無数の技術を一つにした物なので幾らゴルドでもゴルドランでコピるなんてムリゲーなのである。

 

「そもそもだ、大量の技術を体得するのは分かる。才能あるウマ娘が時間をかけて努力を重ねて行けばいずれその領域にはたどり着ける、だが奴は違う。まだ発展途上にも拘らずに異様な技術を体得し加えて戦場を選ばん」

「何方か一つなら分かるんですけどね……デジタルさんも芝もダートも行けますし」

「ああ、お前の後輩にマシンビルダーがいるだろ。そういうのは偶に居るんだ、だが……」

 

努力する天才なんて生易しい物じゃない、天性の素質と肉体を持った類稀な努力する天才……というべきだろう。この位でないと表現出来ない。

 

「じゃあライドロンは」

「バグだな」

「そこまで言いますか」

「お前も一度レース映像を見て見ろ、私の気持ちが分かる」

 

まあライドロンだからその位の表現があっている……のだろう多分。

 

「しかしトライドロンか……お前も大変だったな」

「私も、と言いますと?」

「私にも来たんだよ、まあ私の場合はフランスからだが」

 

如何やら自分がトライドロンの訪問を受けたのと同じようにゴルドドライブも似たような事をされたらしい。しかもフランスとは……ライダーマシンでフランス関連あったっけ……と真面目に考えるチェイスだがゴルドは気にする事もなく続けた。

 

「お前もとんでもない相手が来ただろうが、私も私でとんでもないのが来た。しかもご丁寧にジャパンカップに来ると言ってな」

「もうトライドロンでお腹いっぱいなんですが」

「奇遇だな、私もだ」

 

ゴルドとしても自分の元に来たウマ娘の事で一杯だったのにトライドロンの事で加減しろバカと言いたくなった。まあチェイスも同じ気持ちだという事に胸を撫で下ろしつつも話し始めた。

 

『Bonjour jeune femme』

『フランス出身者か、ああ私に何の……え"っ』

『フフフッ何、君に対して挑戦状を届けに来たしがない怪盗さ。来たるジャパンカップにて勝利と君のライバル、マッハチェイサーを頂きに参上するというね♪』

『はっ!?何チェイスをだと!?おい待てどういうって何処行った!!?』

 

「えっ何、私狙われてるんですか」

「らしいな……取りあえず周辺には注意しておけ」

 

もう色んな意味で嫌な予感がしてきてしまった。というか怪盗と言われてチェイスは一つだけ、思いついたのだ。ライダーマシンではないのだが、確かに一人だけ該当するのがいると。

 

「そのウマ娘は凱旋門賞の勝利者でな、鮮やかな走りで勝利を奪い去る怪盗―――その名もウルトラルパン。此奴も化物と呼ぶのに相応しいウマ娘だ」

「何なんだ今年のジャパンカップは……修羅場か?」

「激しく同意する」




という訳で、ライダーマシンじゃねえけど怪盗がやって来る。

アルティメットルパン、改めウルトラルパンもジャパンカップにやって来る、しかも狙いはチェイス。

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