音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第11話

雲一つない晴天の空が酷く恨めしい、今の自分はこんなにも悩ましい事態に陥っているというのに何でお前はそんなにも悩みが無い状態なのか……と訴えかけるかのような目線。一先ずスピカへと入る事自体は問題ない、自分をスカウトしてくれた相手が率いるチームだ。其処に文句を言うつもりはない、チームメンバーに文句を言いたいのはグッと我慢しておく。だが―――

 

「中央、いやウマ娘のレースってこんなに唐突に決まるものなんですか」

「普通はないな……レースの日程という物はもっと事前に知る事が出来るし、ウマ娘とトレーナーとの相互の承諾を経て申請される。一部のトレーナーがスランプに陥っているウマ娘に発破をかける為に勝手に申請するというのはあるが……まさか嘗てのスペシャルウィークの焼き直しとは」

「ですよね……」

 

先日の衝撃的な出来事、拉致連行からのスピカ入りの直後知らされた3週間後のデビュー戦決定。もう流れが早すぎて頭が痛くなってきた、昨日は取り敢えず荷物の整理もあるのでそれで解放された。そして今日、改めてトレセン学園を案内してくれているシンボリルドルフに今回の事を相談したのだが……困ったような表情のまま、少し頭を抱えられた。

 

「しかし参ったな、3週間とは……間に合うだろうか、いやスペシャルウィークの事を考えれば大丈夫だろうが……これでは君のお父様に申し訳が立たない……」

「一先ず今日から猛特訓が開始とだけ言われています」

 

シンボリルドルフとしては、学園を案内がてら自分が所属するチームリギルの練習風景を見せてレースについてまでの流れなどを説明してあげようとプランを立てていた。それが音を立てて崩壊してしまった。流石は中央一の問題チーム、スピカだ。チームメンバーがメンバーなら、それを監督するトレーナーもトレーナーだ。

 

「暇さえあればリギルの練習にも見に来ないか、リギルの東条トレーナーも君には興味を示していてね」

「何も知らない田舎者をからかっているだけでは?」

「そう言う事ではないよ、早朝共に走った時の話をしたら是非とも一度見たいから誘いをかけてくれと言われていてね。あれは君をリギルに誘う気があったと思うよ」

 

先を越されてしまった、と内心では思っている。シンボリルドルフとエアグルーヴですらキツいと思う山道を息一つ乱す事もなく走り切るウマ娘、これに興味を示さないトレーナーはいないだろう。その走りを間近で見たいと思うのは道理、出来る事ならば自分の手で育てたいと思うのは教育者としては寧ろ正常。

 

「チェイス、君の走りならばメイクデビューは問題はないだろう。故に基礎は確りとやる事だ、後は……ウイニングライブだな」

「ライブ……?」

「ああ、矢張り知らんか……まあ、沖野トレーナーから話はあるだろうから確りと聞くと良い」

 

当然、チェイスはウイニングライブの事なんてまるで知らなかった。此処はチームに入ったのだからそのトレーナーから聞くのがベストだろうと敢えて詳しくは話さないでおく。

 

「兎も角、トレセン学園は君を歓迎する。何か困ったらすぐに私を訪ねて構わないぞ、エアグルーヴも力になってくれるだろう」

「お手数おかけします、生徒会長様」

「ルドルフで構わないよ」

「分かりましたルドルフさん。そうでした、これをお渡しするの忘れてました」

 

そう言いながらチェイスは持っていた袋から大きめの箱を取り出した、綺麗に梱包されたそれを受け取る。

 

「天倉町名物の源氏巻、天倉巻です。どうぞチームの皆さんにも持って行ってあげてください」

「これはこれはご丁寧に済まない。そう言えば天倉町では確りとしたお土産を買えていなかったな、助かるよこれでチームメイトに言い訳が立つ」

 

 

「ああ、ウイニングライブの練習は確りとさせるつもりだぞ。流石に新聞でこの有様って書かれるのはもうやだしな」

「新聞でそんな風に書かれるって何があったんですかね」

 

会長にトレセン学園の案内をして貰った後、やってきたスピカの部室。其処でこれからの詳しい予定を聞かされることになったチェイス、如何やら過去に新聞でウイニングライブが余りにも散々だったので色々書かれたらしい。寧ろそれだけ書かれるって何があったのか酷く気になった。

 

「まずライブだけど、ウマ娘のレースはレースで勝ったウマ娘はステージでファンへの感謝を込めたウイニングライブを披露するんだよ」

「……いや、感謝の為に歌って踊るって全然意味分かんねぇですよ」

 

改めて聞いてもまるで意味が分からない。だが実際、ウマ娘は唯走れるだけではいけない。歌唱力とダンスのスキルも確りと磨かなければならない、色々と解せないがそういう事になっており、疎かにするとお叱りが飛んでくるらしい。

 

「チェイスってダンスとかって出来るのか?」

「ブレイクダンスなら」

「いやそっちか!?」

 

一時期友達に誘われてブレイクダンスに嵌っていた時期があった。ウマ娘としての運動神経はダンスでも遺憾なく発揮され、メキメキと上達していった。天倉町のお祭りではステージに友達と共に立って盛り上げの為に一役買った事だってある。だがそれはあくまで祭りの催し物としてである。アスリートとして走った後に踊るのは全く以て理解出来ない。

 

「まあそういう事なんだ、諦めてダンスの練習にも勤しんでくれ」

「はぁ……」

「そして、勿論走りについての特訓も並行して行うからぶっちゃけきついから覚悟しとけよ」

「一方的に言う方は楽でいいですね」

「それを言うなよ……」

 

取り敢えずグチグチ言う事はもうやめる事にした、それで事態が好転するならいくらでもするがどうせしないのだから懸命に取り組んでやる。

 

「まず早速、今日はライブの練習だ。テイオーが先生役をやってくれるから確りな、あいつ結構厳しいから頑張れ。チェイスは歌は行けるのか?」

「天倉町では年末年始に年忘れカラオケ大会がありました、それに毎年出場しています」

「……何だかんだでお前さんってレースへの適性凄い高いと思うぞ」




―――何時の間にかお気に入りが1000件突破している件について。

有難う御座います!!

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