音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第112話

控室にて休んでいると扉が大きく開け放たれた。そこにいたのはバジンの両親だった。

 

「お父さん、お母さん―――アタシ、アタシ……やったよぉ!!」

「うん、うん本当によくやったわバジン……本当に、本当に……日本ダービーに勝っちゃうなんてぇ……」

 

入ってきた母、乾 真理は涙を流しながらも力強く抱きしめてくれた。進路をトレセン学園に向かうと決めた時に一番応援してくれたのが母だった、自分のレースには毎回毎回駆けつけて応援までしてくれた。そんな母の前で有終の美を飾る事が出来たのは本当に嬉しい、頭を何度も何度も撫でてくれて本当に心地いい。そんな中で仏頂面をし続ける男が控室に入り、少々乱暴に頭を撫でる。

 

「お父さん……」

「……お疲れさん」

 

如何にも不器用な感じが出まくっているのはバジンの父である乾 巧。普段から不機嫌そうな表情を浮かべていて人との付き合いは得意ではない、故か娘に対しても距離間が分からないのか余り上手く接する事が出来ずにいる。加えてトレセン学園に行くと決めた時に父は母と違って反対だった。

 

『夢もない奴がンな所行っても何も出来ねぇよ』

 

父の言葉は今思えば正しかったのだと思う。でも今は違うと思う、そんな自分の走りを見て父はどう思ったのかどうしても聞きたかった。

 

「お父さん、あの……アタシの走り……」

「まだまだだな。何だ最後の無様な姿、あれでダービーウマ娘とか笑わせるなよ」

「ちょっと巧!!」

 

何て言い草だと食って掛かろうとするが、直ぐにだけどと訂正しながら先程よりも強く強く頭を撫でる。そして少しだけ口角を持ち上げて笑みを作ってくれた。

 

「よく頑張った、本当によく頑張ったなバジン」

 

その言葉が何よりも嬉しかった、本当に嬉しくて……思わず涙ぐみながら強く抱き着いてしまった。

 

「イデデデッ!!?こんのバカ娘、自分の力の強さまだ分かってねぇのか!?」

「いいじゃない今日ぐらい♪」

「良かねぇよ!!」

 

父は怒り、母は笑い、娘は泣いている。そんな光景は酷く輝いているように見えた、そんな様子を開けられていた控室の扉に寄り掛かりながらも見ていたがこのままでは不味いだろうと扉にノックをして自分が来た事を知らせる。誰かが来た事に過敏に反応したのはバジンと巧、その様子はそっくりだった。何だかんだで親子だという事だ。

 

「チェッチェイス何時の間に!!?」

「今来た所です、このまま団らんさせてあげても良かったのですが……ダービーウマ娘への取材班が御待ちかねですよ」

「あっそ、そうだった!?い、今行くから!!」

 

バジンは父と母にまた後で!!と告げてから慌てながらも飛び出して行く、ああいう姿を見ると年頃の娘なんだなと思う。まあ自分とは色々と違うから当たり前か……と勝手に納得する中で此方に色んな視線を投げているバジンのご両親に目を向けるのだが……

 

「(いやうん、クリム父さんとかハーレー博士でもしかしたらと思ってたよ。でもマジでこうだとは思わんでしょ……)」

「あっあの、マッハチェイサーちゃんよね!?無敗の三冠ウマ娘の!!」

「はい。スピカでは一応バジンの先輩をやらせて貰ってます」

「話は娘からよく聞いてる、なんか迷惑かけちゃってるみたいだな」

「(たっくんじゃねえや、たっさんだ。すげぇ声渋い)」

 

「え、えっとサインとか貰える!?」

「おい顔合わせて早々にサインとか失礼だろ」

「喜んで、ファンサービスは私のモットーですから」

「ニュースで言ってたけど、マジでエンターテイナーなんだな」

 

妻のそんな要望にも当たり前のように対応するチェイスに一種の尊敬の眼差しを送りながらも、父親として聞いておきたかった事があったのでちょうどいい機会だから聞いておこうと口を開く。

 

「なあマッハチェイサーさんよ」

「チェイスで結構です」

「んじゃ遠慮なく。アンタから見たバジンはどんな感じなんだ。あのバカ、アンタの事はよく話すけど自分の事は全然喋らない」

 

バジンの性格からして確かに自分の事はあまり語ろうとはしないだろう。例えレースに勝ったとしても大した事無かった、マグレ、とかそんな風に言って誤魔化そうとするのが目に見える。褒められたいのだろうが恥ずかしくて中々言い出せないのだろう、特に父に褒めて貰いたいがこの性格の父には少し言いづらいのだろう。

 

「あいつはこのまま夢がないままでも走れるのか」

「巧……」

 

父として不安だ、自分にて夢を持てずに憧れで走っているあの子はこれからも走る事は出来るのか。夢と憧れを持つウマ娘では大きく違ってくる、日本ダービー制覇は見事だが……この先の世界に進んでも大丈夫なのか。

 

「夢を持つと時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなる……私も夢はありますけどそれはレースとは全く無関係の物です。それなのに私は此処まで来れてます、唯夢を持つ事だけが正しい事ではないと思いますよ」

 

警察官になりたい。そんな夢を持ったチェイスはこの世界に入った、彼女に力を与えているのは夢ではなく応援してくれている人たちの思いに応えようとしたから。だから夢=力とは思わない。

 

「私はレースに掛ける夢は皆無です、ですけどこんな私に夢を重ねてくれているウマ娘がいるから私はその夢を守る為に走ってます」

「夢を守る為に、走るか……あいつもそんな感じで走ってんのか」

「それは直接聞くべきですね、ご心配なのは確かでしょう―――でもバジンはこれからもっと伸びますよ、私もうかうかしてられないかもしれませんね」

 

そう言い残してチェイスはそれでは、と去って行った。後残されながらもその言葉を反芻して天井を見上げた。

 

「なあ、俺心配し過ぎか?」

「そうかもね、巧ってばバジンの事になるとムキになるから。木場さんに懐いちゃった時なんて暫く機嫌悪かったもんね」

「るせえ」

 

そんな事を言いつつも、彼の表情は洗い立ての洗濯物のように綺麗な物だった。




つう訳でうん、バジンのご両親です。

なんか潔癖症の人が迫って来てる気がしますけど、貴方には小説版の沙耶さんがいるでしょう。えっ嫌だって?ヤンデレはね、妥協点見つけて良い感じに受け入れるとね、楽だよ。
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