音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第113話

日本ダービーが終了した事で一つの大きな行事が済んだ……と肩の荷を下ろすには早い。何故ならば来月には宝塚記念、そして再来月にはジャパンダートダービーがある。沖野にとってはまだまだのんびりするには早い為に懸命にメニューの作成に勤しんでいるのだが……

 

「沖野さん、スカーレットさん達のメニュー構築終わりましたよ」

「悪い南坂、今度飯奢るわ。俺の行きつけでいいよな?」

「ええ、あそこのチキン南蛮大好きなので。あと取材の電話が来てます、5番です」

「またかよ!!これで何件目だちくしょ~!!」

 

臨時で南坂トレーナーが補佐として仕事を手伝う必要がある程に沖野は多忙になっていた。理由としては矢張り日本ダービーを征したオートバジン、だけではなく二着サトノダイヤモンド、三着キタサンブラックとスピカが日本ダービーの表彰台を独占した事も大きく関係している。その事を合わせての取材申し込みが殺到しており、チームメンバーのメニュー作成も覚束なくなってきている。

 

「しかし、去年のチェイスさんよりすごい事になってますね」

「あんの時はチェイスだけだったからな……」

「沖野さんも名実ともに名トレーナーですもんね、連続でダービーウマ娘を輩出したチームトレーナーとして」

「はいもしもし」

「邪魔しない方が良いですね」

 

加えて沖野個人への取材の申し込みもあったりするので、今までよりもずっと忙しい毎日を過ごしている。彼の机近くのゴミ箱には飲み捨てられた栄養ドリンクの空き瓶が多く捨てられている。

 

「失礼します。差し入れに天倉巻と天倉緑茶、後お弁当を作ってきました。時間を見て食べてください」

「……あっしまった昼飯の時間過ぎてる!?あ~もう駄目だ、一息入れようぜ」

「そうですね、チェイスさん有難く頂きますね」

 

そんな時にチェイスからの差し入れは心と身体を癒してくれた。

 

 

「態々すいませんでしたねビルダー、手間を掛けさせました」

「いえいえいえ寧ろご褒美でした!!」

「そ、そうですか……」

 

2000mのタイムを計って貰うのに協力して貰ったビルダーにお礼を言いつつも去っていく彼女の背中を追っていく。彼女だってジャパンダートが待っているのに済まない事をした、自主的に協力すると言ってくれたが遠慮するべきだったと今更ながらに後悔しながらもドリンクを啜る。

 

「……ハリケーンにゴルシ先輩か、ハリケーンはまだしもゴルシ先輩かぁ……」

 

次の宝塚記念での事を考えると毎回これにぶち当たってしまう自分が居る。ハリケーンは友人という事も会って別段緊張はしないのだが、ゴールドシップ相手だと如何にも緊張というか、不思議と力が籠るというか……頭陀袋で拉致しようと追いかけられた事がトラウマにでもなっているのだろうか……強ち否定出来ないと思いつつもダイワスカーレットとウオッカと共に模擬レースを行っているゴールドシップを観ながら彼女の強みを振り返る。

 

ゴールドシップの強みと言われたら……他のウマ娘と比べて常軌を逸した頑強な肉体の強さを活かした中盤からのロングスパート、通称ゴルシワープ。自分と同じ追い込み型の彼女だが、ワープしたかと見まがうような最後方からの高速の追い込みが圧倒的な強み。徐々にギアを上げてラストで爆発させる自分と長時間のスパートを掛けて一気にごぼう抜きをする彼女。

 

「ハリケーンには悪いけど、間違いなくゴルシ先輩との勝負にもなる筈……」

 

宝塚記念で注意すべき相手はゴールドシップだけではない、ゴルドも出走する。最大の敵が最低でも3人いる事になる。これを破るには……奇策に打って出るのもありだがこのメンバー相手に奇策で勝つなんて自信は毛頭ない。なので―――今まで通りの戦法を取りつつ、実力で捻じ伏せるしかない。

 

「……いや改めて怖いな、ゴルシ先輩怖すぎ」

 

問題なのはゴールドシップの土壇場での爆発力。スピカとして一緒に居て分かる事だが、彼女の爆発力は本当にエゲツないのである。対策として彼女のレース映像を見てそれは再確認させられた。ゴルシワープにどこ迄対抗出来るのかというのも焦点になってくる。

 

「おうおう如何した如何した~チェイス、今度アタシと一緒に走るからって緊張してんのか~」

 

考えこんでいる間に走り終わったのか、首にタオルを掛けながらも指で胸を突いてくるゴールドシップ。本当に抜群のプロポーションと神々しいまでの美貌を持つウマ娘なのに……何でこんな弾けているんだろうか。

 

「胸を突くのやめてください。ある意味では凄い緊張してますよ、ゴルシ先輩が変な事しないかとか」

「何だそんなに期待されちまったらやるしかねぇな~。アタシがウイニングライブで木魚ライブやってやるよ!!」

「やめてください、誰得なんですか。木魚とか他のメンバー何すれば良いんですか、虚無僧の格好でもして笛とか太鼓でも叩けと?」

「良いなそれ採用!!アタシが勝ったらチェイス虚無僧な!!」

「やっべ藪蛇だった」

 

益々負けられなくなってきた宝塚記念。ゴルドとの再戦以上にゴールドシップに負けられなくなってきたとはどういうことなのか。

 

「よ~しチェイス、これから出掛けるから付き合えよ!!」

「何処に行く気ですか?」

「決まってるだろ―――マグロ、ご期待ください」

「一人で行ってください」

「お前も来るんだよ」

「―――脱兎!!」

「逃がすかぁ!!」

 

この後、トレセン内でチェイスとゴールドシップのマグロ漁を賭けた勝負が繰り広げられる事になった。何度も捕まりそうになった結果、生命の危機を感じたのか全力で走り続けて何とか生徒会室に逃げ込む事に成功、偶然遊びに来ていたミスターシービーに泣き着いたという。そしてゴールドシップはというと……

 

「おっと、ゴルシちゃんは女帝に捕まる前にクールに去るでゴルシ。んじゃチェイス今度行こうな、バイビー!!」

「待てゴールドシップ貴様!!!今度という今度は逃がさんぞ!!!」

 

「シービーさぁぁぁん……」

「よしよし怖かったね、胸位は貸してあげるから。もう大丈夫だからね~」




尚、その日就寝していたのに何時の間にかマグロ漁船に乗っていた事に気付いて愕然とするチェイスであった。

「何、だと……!?私は確かに部屋で寝ていた筈なのに……!?」
「残念だったな、トリックだよ」
「うわああああああああああっっっ!!?裏切ったな、私の願いを裏切ったな!?」
「お前はいいチームメイトだけど、君が逃げた上に隙を見せるのがいけないのだよ。ハッハッハ!!」
「謀ったな、謀ったなゴルシ先輩!!?」


というやり取りがマ漁船の上で行われていたと、ゴルシ馴染みの漁師は語った。

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