音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第114話

「なあチェイス、お前新しい勝負服一切着ないよな」

「突然ですね」

 

控室に激励しに来てくれた沖野は勝負服姿のチェイスを見てそんな事を口にした。年度最優秀ウマ娘に選出された際に新しい勝負服が贈呈されているのにも拘らず彼女は一切それを纏わない。なのでURAから自分に連絡が来ていたりもする、何か不満があったりするのかと。沖野としては当人が着たい方で良いだろ、と思っているので何も取らなかったが一応聞いてみた。

 

「URAから言われたんだよ、何か気に入らないのかって」

「だってあんな露出の激しいドレスとか着ませんよ。趣味じゃないです」

 

新しい勝負服はドレス系。それだけなら着ていたかもしれないが露出が激しいので着る気にならないのである、あれの為に予備のシフトカーを使ってデータを入力するのもバカらしいとさえ思っている。

 

「後、あんなドレスでどうやってプロテクターを装着しろと?」

「あ~……成程、そっちが主か」

 

当初から安全面などに気を遣って勝負服にプロテクターを標準装備していたチェイスとしては礼服にしか見えず、レースで着るような物に見えない。まあゴルドなどのそれを否定する訳ではないが……警察官志望としてはあんな速度で走ってる訳なのだから身を守る事を考えてしまうのである。

 

「菊花賞での事もあるしな……分かったURAには俺が言っとくわ、そう言う理由だからって」

 

それを聞き終えるとチェイスは控室から出て行った、いよいよ宝塚記念。

 

『票に託されたファンの夢。思いを力にかえて走るグランプリ宝塚記念!!生憎の雨の影響で場は不良の発表となりました』

 

「これ以上強くなるなよぉ……?」

 

そんな言葉が呟かれる程に雨の中のレースとなった宝塚記念。雨は酷いわけではないが風もあるので雨粒が叩きつける様な形で身体に当たってくる、雨によって身体も冷える上に不良の発表、相当にタフなレースになる事が予想される。

 

『人気と実力を兼ね備えたトリプルティアラのゴルドドライブ!!今日は三番人気です。ヴィクトリアマイルを見事に制した女王はこの舞台でも力を見せるのか』

 

手を額に当てて傘代わりのようにしている姿が見えるゴルド。流石にこの雨の中での走りはあまり歓迎したくはないと見える。

 

『二番人気は無敗の三冠ウマ娘、マッハチェイサー!!ゴルドドライブと再度激突しますが、今日はどんな走りを見せてくれるのでしょうか』

 

この雨の中で一番平気そうな顔をしているのがチェイスだろう、何故ならばヘルメット込みでの勝負服なのだから。

 

『今日の主役はこのウマ娘を措いて他にはいない。ゴールドシップ!!一番人気です、このウマ娘が無敗の三冠ウマ娘を抑えつけての一番人気です!!』

『皆の期待が寄せられているのが良く分かりますね』

 

そう、一番人気はゴールドシップ。これ迄の宝塚記念で圧倒的な強さを見せつけているゴールドシップ、このウマ娘ならばチェイスの連勝を止めてくれるのではと期待するファンが後押しした結果が一番人気という結果に表れている。しかも―――彼女には宝塚記念の三連覇という偉業が掛かっている。いるのだが……

 

「おいチェイス、何でサングラスをかけているんだあいつは」

「ゴルシ先輩の行動に一々ツッコんでたら命がいくつあっても足りませんよ」

「そ~そ~。良い感じに受け流すのが長生きのコツ」

「ええっ……」

 

この雨の中で何故かサングラスを掛けて何故か決め顔をしているゴールドシップに困惑するゴルドにチェイスとハリケーンは彼女と接する上での心得を教えてあげる。が、長生きのコツだと言われて困惑の声しか出せないゴルドであった。

 

『さあ、最後にサクラハリケーンがゲートイン。各ウマ娘ゲートに入って体勢が整いました』

 

間もなく開始するレース。だが……妙にゴールドシップが騒いでいる事に気付いたチェイス、チラリと横目で見てみると……

 

「「負ける気がしねぇ!!ンだぁ真似すんな!!」」

 

と左隣と何やら言い合いのような事をしているのが見えた。お互いがお互いに叫んでいるようにも見えるが……取り敢えず自分は自分だと思って準備を整えてスタートに合わせた―――その時

 

『ゴールドシップの連覇かそれとも他のウマ娘が待ったをかけるのかってああっゴールドシップが立ち上がった!?出ない出ないゴールドシップが出ない、大観衆からどよめきが響いております!!』

「やっべっ!?」

 

隣のウマ娘と何やら喧嘩の一歩手前のようなやり取りをしていたせいか、ゴールドシップは思わず興奮して掴み掛ろうと隣のゲートへと乗り込もうとまでしていた。その影響で一気に遅れを取ってしまい、普段から最後方にいるチェイスよりもずっと後ろからスタートする事になってしまった。

 

「何やってんだゴルシィィィィイイイイ!!!?」

 

ゴールドシップと付き合いの長い沖野もこれには大絶叫。もう色んな意味で前代未聞の幕開けである。

 

「「キャアアアアア!!?」」

「ゴールドシップさん貴方何をやってますのぉぉぉぉ!!?」

「いやマジで何やってんだよ!?」

「連覇!?連覇掛かってんのよアンタ!?」

「―――擁護、不能……」

 

スピカからも悲鳴続出。アグネスデジタルと共に様々な活動をしてウマ娘には色々と寛容な精神を身に付けているビルダーも何も言えなくなっている。

 

「やっぱりバカだ、本当にバカだ……」

 

普段は注意されるであろうバジンのそんな言葉も、今回ばっかりは……誰も注意しなかった。




うん、このSS書こうと思ってた時から決めてたんだ、これやろうって。私の初競馬だもん、ゴルシの120億円事件って。

これこそ大事件ってね。

あと和服の会長きました。

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