間もなく夏休み、そこでは恒例の合宿が行われるのだが幾らトゥインクル・シリーズに挑戦しているとはいえ学生でいる限り逃れる事が出来ない試練がある。期末試験。流石に赤点を取れば補習を受けなければ合宿参加は認められない。
「―――良し、今年赤点無し!!補習無しで合宿行けるな」
沖野の言葉に思わず全員がホッと胸を撫で下ろした。今回も何とか赤点を避ける事に成功したメンバーは特に胸を撫で下ろしている。
「因みにトップは―――テイオーとマックイーン、流石だな」
「フフン!!会長みたいになる為にはレースだけじゃ駄目だからね!!」
「メジロ家としては当たり前の事ですわ」
と胸を張っている二人はほぼ満点だった。流石の二人―――なのだが此処で抗議の声を上げるのはゴールドシップ。
「なんでだよ~ゴルシちゃんが一番だろ」
「普通は120点の答案なんか存在しねぇんだよ、何でプラス20点なってんだよ」
ゴールドシップは100点満点の試験で何故か120点のモノがあった。其処は普通に100点として処理されているが……それでもゴールドシップは3番手の成績な辺り流石である。
「チェイスも流石だな」
「有難う御座います」
チェイスもチェイスで普通に優秀な成績を修めている、警察官志望するだけあって其方も優秀で沖野としても一安心。まあ成績の悪い者に一言言いたい気持ちもあるのだが、苦しい試験を終える事が出来たのだから勘弁してあげる事にする。
「ンでお前ら、今回の合宿先なんだが―――今回はちょっと分ける事にした」
「分ける、ですの?」
「ああ、前半と後半にな。最初は山、後は海って感じにする」
今回も結構きつめのメニューになると前置きされながらの二段階形式の合宿にやる気をみなぎらせていく面々だが―――そんな時にチェイスを見る沖野。
「んで前半では―――チェイスの故郷の天倉町に行きます!!」
「えっ初耳なんですが」
まさかの合宿の舞台に選ばれる事になった天倉町に戸惑いの声が出てしまう。
「チェイスさんの故郷!?絶対に行きます、というか行かないと死んでも死にきれない!!」
「天倉町―――チェイスさんの故郷……」
「ゴクリ……」
とビルダー、オルフェーヴル、バジンは何やら興奮しているのだが、何故そこを選んだのかと疑問の声も上がる。寧ろそれは当然の事だろう。
「何だチームの予算ねえのか?」
「寧ろ余ってるレベルだわ」
「んじゃ如何してなのトレーナー?」
「普段通りに海での合宿も考えたけど、ワンパターンだし変化が欲しかったのも一つだ。んでまあこれは前以て言っとくか、天倉町での合宿ではチェイスの走ってるコースを走って貰う」
それを聞いて面々は少しばかり顔色を変えた。チェイスがトレセン学園に来るまでずっと走り続けて来た道の事は聞いている、初挑戦とはいえあのシンボリルドルフとエアグルーヴが苦戦したという山道、それを自分達も走るという事に様々な色が浮かび上がっていく。
「特に菊花賞を控えてるキタ達は気合入れとけよ」
そんな風に視線を向けられたクラシック挑戦中の三人は真剣な面持ちで頷いた。三冠を達成した先輩が走り続けていたという道を走る事で大幅なレベルアップが見込めるかもしれない。それを考えたら早く合宿に行きたい気持ちが生まれて来てしまう。
「オルフェーヴルは初めての合宿でキツいかもしれないけど……お前も三冠を狙ってるなら此処で張り切らない選択肢はないぞ?」
「はい、えっとチェイスさんみたいに頑張ります!!」
特にオルフェーヴルについては合宿中の出来上がり次第ではレースに出す事も考えている。今の状態でデビューさせても勝ちを狙う事も出来るだけの仕上がり具合だが、折角チェイスに憧れているのだから天倉町で特訓してモチベーションアップを図るのも悪くはないだろう。
「宿泊先については俺の方でチェイスの親父さんと相談してるからそこは安心してくれ。場合によっては寝る場所だけ別れるかもって事は了承してくれな」
「何だったらキャンプ形式なのも楽しそうだよね!!皆でカレー作って、テントを張るとか!!」
「あっそれ楽しそうですね!!」
とワイワイと楽し気な話になっていくが、沖野はそれはそれでありだな……と考えたりする中でミーティングを切り上げて皆にコースに行くように指示を出す。
「天倉町で合宿……楽しみではありますが少しばかり心配な気もしますね」
個人的には大いに楽しみではあるのだが、どんな風になるのか心配な面でもある。お嬢様であるメジロマックイーンやサトノダイヤモンドを連れて行ってもいいのだろうかというのもあるが……それ以上に自分の知っている良くも悪くも個性がスピカメンバーに負けず劣らずな先輩方が変な事をしないかという不安もある。
「ねぇねぇチェイスちゃん、天倉町にも天倉巻以外にも何か美味しい名物ってあるの!?」
「結構ありますよ。私の兄が作ってるお米もそうですし、天倉巻以外のお菓子もあります」
「どんなものがありますの!?」
「おうおうマックちゃんすげぇ食い付きぶりだな」
そんな不安は抱えているだけ無駄だ、と言わんばかりに先輩や後輩達から天倉町への質問攻めで考えている暇なんてなくなっていったのだった。