音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第118話

「到着っ~此処が天倉町だ」

 

そんな言葉と共に窓の外へと目を向ける面々。其処に映るのは典型的な田舎の風景、田んぼが広がっている中を通る道路には走る車は非常に少なく5分に1台ぐらいだろうか。農作業するお爺さんお婆さんの姿も多く見受けられるし都会の喧騒なんて存在しないと言わんばかりの穏やかで済んだ空気が広がっている。

 

「見てみてキタちゃん!!あそこあそこ、凄い綺麗な川あるよ!!」

「本当!!日本一綺麗な清流にも選ばれたっていうのもホントだね!!」

「素晴らしい空気のおいしさ……メジロ家の別荘を思い出しますわ」

 

お嬢様組にとっては何処か物珍しいのか、天倉町の景色に興味が尽きないらしい。普通の田舎の景色も楽しく映っている。

 

「此処が天倉町、チェイスちゃんの故郷。なんだか実家思い出しちゃうな~」

「そっかスペ先輩って北海道出身でしたもんね」

「でもなんかいい雰囲気よね。なんだかトレセン学園に帰ったらうるさく感じちゃうんじゃないかしら?」

「おっ~あそこに鮎がいるじゃねぇか!!塩で食うと上手いんだよな~」

「此処で合宿するんだね~凄い楽しみ!!」

 

スペシャルウィークを始めたとしたメンバーは純粋にトレセン学園との環境の差に既に順応しているのか、これからの合宿についての楽しみを浮かべつつも此処を楽しみたいと願っている。

 

「本当に静かでいい場所……此処で走ったらどんなに気持ちいいのかしら」

 

その中で相変わらずなのは矢張りサイレンススズカ。この環境で思いっきり走ったらどんなに気持ちいいんだろうな、という想像に胸を躍らせている。そして―――

 

「此処がチェイスさんの故郷……やっばっ聖地だ、拝んでおこう……」

「いや拝むか普通……?」

「チェイスさんが走ってた道、ワクワク……!!」

 

チェイスに憧れ、様々な感情を向けているウマ娘三人娘は純粋に天倉町に来れた事を喜んでいた。走っていたコースを走れるという事もあるが、それ以上に何かもあるだろう。そんな彼女らの声を聴きつつもチェイスは久しぶりの天倉町の空気を肺一杯に吸い込んでいた。

 

「やっぱ久しぶりだから気分いいか?」

「ええ。やっぱり此処が私の魂の場所です、私の走るべき場所は此処です」

 

そんな風に晴れやかな表情で言うチェイスに沖野は笑う。無敗の三冠ウマ娘がこんな表情でこんな事を言ったと世間に公表したらどんな反応が来るだろうか、そんなくだらない事を思いながらも車を走らせ続ける。取り敢えず向かうのチェイスの家、メンバーを分けるにしても取り敢えず天倉町でのお世話は任せてしまっているので挨拶は必要だろうと思って行くのだが……

 

「あれっ……なあチェイス、此処……だったよな」

「此処ですけど……あれ、なんかデカくなってる……?」

 

チェイスの案内で辿り着いた民宿をやっているチェイスの家、普通の家としても考えても広い筈の家なのだが……以前来た時よりも大きくなっている。広い一階部分から二部屋分のニ階があるのが特徴だったのだが……一階も二階も広くなっている、案内を間違えたかと思ってしまう程度には見違えていた。だがそれが杞憂だったと直ぐに思い知ったのは玄関から甚平を羽織ったクリムが現れたからだった。

 

「Hello there!!ようこそ、そしてお帰りチェイス」

「ただいまクリム父さんってそうじゃないですよ、なんですかこれ」

「ああ。改築したんだよ」

 

あっけからんと言ってのけるクリムにチェイスは何故に?と質問で返す、理由は単純―――ドライバーのせいだと。

 

「マッハドライバーの事でURAが色々突いてくるんだ、だからいっそと思ってハーレー博士と一緒に研究所を起こして此処をその本部にしたんだ」

「あ~……」

 

URAとしてもマッハドライバーの変身機能は異常の一言。長年勝負服を作って来たURA傘下の企業も再現不可能と言わざるを得ない、故かクリムを丸め込もうとする動きが多かったのでハーレー博士と共に研究所を起こしてしまったとの事。

 

「と言っても実質的な研究所の施設は私の部屋とハーレー博士専用オフィスだけで他は民宿で使う大部屋とかさ。それに、実は前から民宿としてのグレードを上げたいとずっと思っていてね」

「という事は……」

「Yes.スピカの皆様全員、受け入れる準備はとっくに出来ているよ」

 

お茶目にウィンクしながら笑うクリムの言葉に全員から喜びの声が上がった。致し方ないとはいえ別れる事は覚悟していたが、全員揃って泊まれるのは矢張り嬉しい物だ。

 

「そっかそりゃウチで面倒見れますよって言ってくれる訳だ。紹介をしてくれるって思ってたけど文字通り面倒見てくれるって意味だったのか」

「Exactly!さあスピカの皆さん、どうぞ中へ。我が家でどうぞごゆっくりと寛いでくれたまえ」

『宜しくお願いしま~す!!』

 

そんな声とともに荷物を降ろして入っていく皆を見つつもチェイスはすっかり大きくなった我が家を見つつ思わずこの改築にどの位掛かったのだろうか……とひっそりと考えていた。料理長として民宿の看板娘としてやっていた時は家計簿も付けていたので、其方も気になってしまった。

 

「ああ、お金のことについてはNo problem.これでも私は特許とかの使用料が結構入って来るからね♪」

「流石クリム父さん……でも一言言ってくださいよ……私の獲得賞金とかも出したのに」

「フフフッ娘の収入を当てにするほど、まだ落ちぶれていないよ」

「いえ改築するなら檜風呂を着けて欲しかったですから、その分自分で出そうと思って」

「着けてあるよ」

「父さんマジ最高愛してる」

 

娘の欲しい物を察せてこそ父親さ、と胸を張るクリムに沖野は流石だな……と素直に感心した。そして浮かれているメンバーに気を引き締めるように促す。

 

「ほらお前ら、荷物置いたらジャージに着替えろ。ストレッチと軽く動いたら早速チェイスのランニングコースに走りに行くぞ!!」

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