音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第12話

スピカに加入して初の本格的なウマ娘トレーニングを開始したチェイス。レースの技術はないとの事だが、元から走り込みを続けていただけあって走りのフォームはかなりの出来、それを行っている最中にリギルの東条トレーナーがシンボリルドルフを伴ってやって来た。

 

「本当にミホノブルボンにそっくりね……」

「だろ?俺も天倉町で顔合わせた時にマジで吃驚したんだよ」

「それにしても……貴方、好い加減あの勧誘方法やめときなさい」

「今回ばっかりはマジで事故なんだよ……」

 

東条トレーナーは後悔していた。理事長の所に連れて行った後は寮で荷物の整理もあるから帰らせたと聞いたので、後日勧誘、最低でも走りを見せて貰おうと思っていたら既にスピカに勧誘されていた。実際スカウトしたのは沖野なのでそこはまあ……納得出来るが、問題はスピカ伝統と言っていいのか、ほぼほぼ拉致な勧誘方法で連れて行かれたと聞かされて本気で頭を抱えた。

 

「あの子、警察志望なんでしょ。マジで通報されるわよ」

「される寸前だったよ。まあ今回の一件でゴルシも止めてくれるって言ったから多分大丈夫、だと思う」

「信用がないわよ、付き合い長いんだから確りと手綱を握りなさい」

「分かってる」

 

本当に分かっているのか極めて謎。だが一先ずはトレーニング中のチェイスへと目を向ける、が、今行っている坂路トレーニング。ウマ娘のトレーニングの中でも最もキツい部類に入るトレーニングで彼女が似ているミホノブルボンはこれをし続ける事でスタミナを克服したと言われる。そんなキツい坂を―――軽快な走りであっさりと登ってしまった。一緒に走っていたスペシャルウィークを遥か後方に抜き去って。

 

「あれがルドルフが言ってた山道を抜けた走りか……ピッチ走法も既に身に付いてる、しかも足の回転がかなり速い」

「チェイスは毎朝山道を走っていたからか、坂道は慣れっこだそうです。しかもその山道はかなり路面状態が悪いのにも拘らず」

「息一つ乱してないってどんな山道なんだよ」

「私とエアグルーヴもきついと思う山道、としか言えませんね」

 

改めてその言葉の意味を実感する。普通坂道であれば負担が大きく加速は難しい筈なのに、チェイスは問題なく加速していく。彼女にとってレースの坂道なんて平坦な道と何も変わらない。この程度で坂道なんて認めないと言いたげな程に凛とした立ち姿でスペシャルウィークが登り切るのを待っている。

 

「む、無理ぃ……チェ、チェイスちゃん何でそんなに平気そうなの……?」

「地元では山道を走ってました、これ以上に傾斜がありましたので」

「う、うそぉ……」

「沖野トレーナー、坂路はあと何本走ればいいですか?」

「何本!?」

 

信じられない!と言いたげなスペシャルウィークの声が木霊する、それはまだやれるのかというよりもそれに付き合わなければいけない事への物なのだろう。まるで藁にも縋るような瞳を投げかけてくる、元々これ以上坂路を走らせるつもりはなかったので別のメニューを当てておく。

 

「いや坂路はいいぞチェイス。チェイス、今度はスペと走ってくれ。レースまでにレースの技術やらを叩きこむ」

「分かりました、スペ先輩歩けます?」

「も、もう少し待ってぇ……」

 

一先ずスペが回復するのを待ってから並走トレーニングに入る事になった。どんな身体をしているのか、と沖野と一緒にされたくはないが東条も気になって来た。

 

「あの子、マッハチェイサーの脚質は?」

「差しか追い込み……だと思う、一応走り方を一通りやらせてみたけど追い掛ける走りかたが一番合ってるな」

 

如何にもハッキリしないが、チェイスは他の走り方も出来ている。なのでやろうと思えば逃げも先行だって出来る、だが追い込みか差しが本人的には走りやすかったとの事なので脚質はこの二つだと思っている。

 

「かなり素質があるって事ね」

 

全ての戦法に適応を見せるウマ娘はそうはいない、思い当たるのはマヤノトップガン位だろうか。レース向けの技術を教え込めば彼女はそれをどんどんと吸収していって更に大きく成長する。現状でもまだ触りしか教えていないが、十分な見込みがある。

 

「話を聞けば、元から警察志望だったから誰かを追いかける練習位はしてたらしい。犯人を追いかけてワッパを掛ける為って言ってたな」

 

成程とある程度の納得が出来る。レース向けではないが、誰かを追いかける練習はしていたならば差しや追い込みに適性が高いのは頷ける。名前がまるでそれを物語っているかのようだ、後方でチャンスを伺い続けてその時が来たら一気に相手を追い詰める追跡を開始する。

 

「沖野トレーナー、チェイスの練習なら私も付き合いましょう。彼女のお父様に任せてくれと言った手前何もしないというのは……」

「そうね、目の前でそのやり取りを見ていて何もさせないというのは随分とあれね」

「なんか凄い棘あるな……まあおハナさんが良いならいいけど」

 

少々言い方があれだが、シンボリルドルフの協力を仰げるのは相当にデカい。技術で言えば最高峰のウマ娘の手を借りられるのであれば、ほぼ知識皆無のチェイスに必要な事や駆け引きの事も教える事が出来る。それに走っている状態でなければ理解出来ない物も多々ある。

 

「おいチェイス、喜べ皇帝様がお前のトレーニング手伝ってくれるってよ!!」

「えっか、会長さんも走るんですか!?」

「ああ、折角の機会だ。スペシャルウィークも宜しく頼むよ」

「お手数おかけします」

 

相変わらずな挨拶、ある程度情報収集はしたがまだシンボリルドルフの偉大さという物はまだ理解出来ていない。野球をした事のない者が野球の三冠を理解出来るかと言われたらそこまで分からないのと同じだろう。同じ世界に入り、理解を深めるからこそ分かるものもある。だが自分を一人のウマ娘として接してくれるチェイスとの会話は彼女としては何処か心が軽い物だった。

 

「そうだチェイス、君から貰った天倉巻だがリギルの皆からも大好評だったぞ。通販など出来るのか?」

「出来ますよ、何だったら私が作りますので」

「えっ会長さん天倉巻って何ですか凄い気になるんですけど!?」

「チェイスの地元の名物のお菓子だよ、しっとりとした生地に柔らかな甘みのある二種類の餡が入っていて実に美味しかった」

「チェイスさん私も食べたいです!!」

「では後日御作りします」




チェイスの脚質
逃げ:C 先行:B 差し:A 追い込み:A

逃げだけは少し苦手っぽい。警察志望だから追う事には慣れてるけど、逃げる事は不得手?
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