コースに到達前にガス欠になった処かまるで逆噴射が起きたかのような失速を見せ付けたツインターボ。後で知った事だが、ツインターボは最初っから全力全開でぶっ飛ばす、破滅型とも称される大逃げスタイルを取っている。故に勝つときは圧勝するが負ける時には本当に逆噴射とも形容される減速して惨敗するらしい。
「プハァッ!!お陰で生き返った、いやぁ悪いね態々買って来て貰っちゃって。おまけに此処まで連れて来て貰っちゃって」
「ツインターボ先輩は軽かったので全然大丈夫でしたよ」
「せ、先輩……!!」
それでもチェイスからしたら先輩である事には変わりないので普通に敬意を払って先輩と呼ぶ、態々自分のトレーニングの為に来てくれたのだから精一杯の敬意を持とうという気持ちでいるのだが、何やらツインターボは先輩という響きに感動しているような姿を見せた。
「フフンッ!!チェイス、お前には見込みがあるぞ!!何か困った事があったらこのツインターボ先輩に遠慮なく言うんだぞ、練習の手伝いから模擬レースまで全部引き受けたげる!!」
「頼もしいです先輩。これからよろしくお願いしますツインターボ先輩」
「タ、ターボで良いってば!!」
彼女自身は小柄なウマ娘、チェイスの身長は173㎝でツインターボの身長は146㎝で20㎝以上の身長差がある。彼女自身、身長の低さもあって気軽に仲良くしてくれるウマ娘は数多いが敬意をもって接してくれるという相手は希少だったらしい。特に先輩呼び且つ名前を間違えずに呼んでくれる相手は特に珍しく、かなりチェイスの事が気に入った模様。
「よ~しそれじゃあターボのスタートダッシュを伝授してあげよう!!これさえあれば大逃げで大勝確実だ!!」
「それは是非知りたいんですけど……私、追い込みか差しがメインなので」
「ま~細かい事は気にしない気にしない!!さあ早くトレーニング行くよトレーニング!!」
手を引っ張るターボに導かれてコースへと入るチェイス、少々強引な所はあるが彼女からはまるで悪意を感じないし頼ってくれているからそれに全力で応えようとしているのだろうというのが分かる。
「よ~しまずは軽く走ってウォーミングアップだ!!チェイス着いて来い~!!」
「はい分かりま……ってツインターボ先輩待ってくださいそれ絶対ウォーミングアップのペースじゃないですって!!完全にエンジン全開じゃないですかぁ!!」
先にトレーニングを始めた二人に追いついた沖野が見たのは……ターフの上で息絶え絶えになったツインターボを膝枕しながら団扇で扇いでいるチェイスの姿だった。
「ぅぅぅっ……ゴメンチェイスまた面倒掛けた……」
「この位大丈夫です、先輩のお役に立てるのならば私も誇らしいです」
「うううっお前はなんていい後輩なんだ……」
「いや、お前ら何があったんだよ」
「という訳でして私が膝枕をしていたという事です」
「噂には聞いたけど、ホントに毎回全力なんだな……」
「ターボは何時でも全力が良い、だってずっと一番が気持ちいいもん!」
「まあウチにはスズカがいるから気持ちは分かるけどな」
事情を説明している間に何とか回復したツインターボ、破滅逃げも当人の意志による物らしい。まあずっと一番で居られているかは余り言及しない方が良いだろう。実際それで勝っているレースもあるのだから、負けているレースも多いが。
「という訳でチェイスとの並走を頼みたかったんだが……ターボお前さん走れるのか?」
「勿論!!チェイスの膝枕でもう元気いっぱいだぞ、程よい硬さの上に柔らかさがあって普通にいい寝心地だった!!」
「ほほう、やっぱりいいトモをしてるとその辺りの性能も良いのか」
「いや流石に分かりません」
それを聞いて矢張り一度触って確かめてみたいなぁと思いつつも自重しておく。流石にもう勝手に触るつもりはないが、チェイスの場合は許可を得るのも恐怖を感じる。
「んじゃまずは軽い並走トレーニングだ、早速始めてくれ」
「分かった!!行くぞチェイス、もう一周だ!!」
「はい先輩」
「先輩……!!」
先輩という言葉に何やら悦を感じているツインターボと共にコースへと入る。そして沖野の言葉と共にスタートが切られる―――のだが
「ターボエンジン全開だぁぁぁ!!!」
「ってツインターボ先輩またですかぁ!?」
「並走トレーニングだっつの!!」
又もやロケットスタートを決めて一気に離れていくツインターボを追いかけるようにチェイスも一気にギアを上げて追いかけていく。これでは唯の模擬レースだと沖野がため息を吐きながらも追いかけるチェイスを見つめる。既に15馬身も離れているツインターボ、だが途中でその差は一切開かなくなった。チェイスも本気を出すかのようにその後を追い掛けるからだ。
「なんて速さだ……!!」
これがターボエンジンだと言わんばかりの完全な独走状態。最初から全力全開も頷けるほどの超スピードでの疾走、今使っているコースは2000m。それを短距離で走るような速度を維持したままで走り続けている、これが本当に先程力を使い果たしたかのような逆噴射を見せたあの先輩か!?と思わずチェイスは驚愕の中にあった。
「チェイスの膝枕で絶好調だぁぁ!!さぁらにぃ~……ドッカァァァァアアアン!!!」
「マジ!!?」
ラストのコーナーからの直線、チェイスも此処で全ての力を出し切る為に溜めていた力を解放する。それによってツインターボとの差を5馬身にまで詰めた所でなんとツインターボが更なる加速を行ったのである。もう完全に逃げ切られる、もう捕縛どころか追跡も出来ない。完全に逃げ切られた、そのままターボはチェイスに10馬身の大差を付けてゴールを決めたのであった。
「やっぱり気持ちいい~!!ターボはこうじゃないとね!!」
「いやあのな、並走トレーニングを頼むって言ったじゃないか。完全に逃げ切ってどうすんだよ」
「……あっ」
「いや忘れないでくれよ……」
これは彼女が所属しているチーム・カノープスの南坂トレーナーも大変なんだろうなと内心で彼への同情を浮かべつつも漸くゴールしたチェイスを出迎える。
「如何だったチェイス、ツインターボのターボエンジンは」
「……御見それしました。そしてツインターボ先輩、もっとお願いします!!!私は絶対に先輩の大逃げを私の走りで確保して見せます!!」
「おおっその意気や良し!!それじゃあもう一本行こうか!!」
「はい!!」
「待て待て待てっ!!だから並走トレーニングをやれって言ってるだろうがお前ら!!!」
この時、チェイスはツインターボを心から先輩と呼ぶことを決め、彼女を絶対に自分の走りで捕まえてみせると誓うのであった。