「如何なってんだぁ……」
思わず苛立ちの籠った声を出しながら珈琲を啜る、好きな豆の筈なのに何時も以上に苦く、そして酸味も強く感じられる。心持次第で味が大きく変わるのも頷ける。それ程までに今の自分は気分が宜しくないらしい。
「そのような生徒は日本ウマ娘トレーニングセンター学園島根校には在学しておりません、あのレベルのウマ娘が在学してないって事はねぇだろうに……でも実際そうなんだよな……」
代理として赴いた島根、そこで出会った一人のウマ娘。元々の目的だったウマ娘の走りよりもその走りは素晴らしかった、せめてあの時の礼をしたいと名前ぐらいは調べたかったのだが……島根校には在学していないと返されてしまった。自分でも島根校のデータベースの閲覧許可を取って生徒の確認をしてみてもあのミホノブルボンに似た少女は何処にも見当たらなかった。
「もしかしてまだ中等部ですらねぇとかか……いやそれならあり得るがそれだと一からのやり直しになるな……あの言い方からしてあの町が地元ってことには間違いないとは思うんだが」
「何を唸ってるのよ」
ブツブツと言いながらもキーボードを叩き続けていた沖野に対して眼鏡を掛けたバリバリのキャリアウーマンのような同僚、東条トレーナーが声を掛けて来た。如何やら近くで聞いていてうるさかったのかもしれない。
「悪いおハナさん、俺が辰っさんの代わりに島根行ったの知ってるよな」
「ええ、貧乏くじ引いたって嘆いてたわね」
「それを言わないでくれよ、貧乏くじどころか一等当選確実な人材見つけたんだから」
「―――へぇっ」
その言葉に眼鏡を光らせながらも瞳を鋭くする、少々性格面に問題こそある沖野トレーナーだが中央トレセンでトレーナーが出来るだけの優秀な人材ではあるしその観察眼は確かな物。実際問題として彼が率いるチームスピカは自分のチームリギルと拮抗すると言われる程の強豪チームへとなっている。そんな彼が一等当選という程の人材を見つけられたというのは興味が沸く。
「ちょっと道に迷った時に案内してくれたんだけどさ、最後に別れる時に凄いスピードで走っていったんだ。ありゃとんでもなかったな……体幹にフォームも確りしてたがそれ以上に速い」
「興味が沸くわね、なんて子なの?」
「それが名前聞く前に急用出来たって言われちまってさ、あんだけフォームも確りしてるならトレーニングも万全だと思ったから島根のトレセンに問い合わせしたんだが……梨の礫だ」
口ぶりからして誇張などは一切していないと分かる、
「もう一回ダメ元で行くしかねぇかなぁ……多分あそこの町には居ると思うんだけど……」
「何でそう思うの」
「今度はこの町を楽しむ為に来てくれって言ったんだよ、島根を楽しみに来てくれじゃなくてこの町をだからそんだけ地元が好きって事だと思うんだ」
「確かにそうかもしれないわね……」
オグリキャップに倣うならば地元愛が強い名の無き怪物だろう。あれだけのポテンシャルがありながら完全に無名、一応島根内のレースにも目を通して見たが全く姿が見えなかった。それ故に沖野は溜息しか出なかった、何故名前を聞けなかったのか……と。
「もうミホノブルボンに似てるって事ぐらいの情報量しかねぇ……」
沖野もまさか此処まで情報が出ないなんて思っても見なかった、学園に通っていないにしてもレースには出ているだろうという安易な考えをしていた自分を殴り付けたくなっていた。だがあの走りは本当に素晴らしかった、出来る事ならばターフを駆ける姿を間近で見たいと欲求が沸き上がる。そんな思いに蓋をしながらも取り敢えず以前行った町のホームページにアクセスする事にする。
「あの町になんか宿とかあったかなぁ……民宿とか……あっ」
「如何したのよ」
ホームページにアクセスした時、思わず沖野が静止した。口元からはトレードマークとも言える飴が零れ落ちる。それを受け止めつつも口へと突っ込みなおして上げながら東条は画面を見てみた。そこには以前行われた町の夏祭りの写真がホームページに映し出されていた、小さな町の小さなお祭りだが皆が笑顔でカメラにピースやポーズを取っている中に一人のウマ娘がいた、他にもウマ娘はいるがそのウマ娘はミホノブルボンに似ていた。まさか……と思っていると沖野が小さく、いた……と呟いた。
「そう、そうそうそうっこの子だよおハナさん!!俺が探してたの!!マジかこんな所に手がかりがあったなんて!!!」
「灯台下暗しとはこの事ね……でも流石にこれはしょうがないかも」
レースに名を残す訳でも無ければトレセンに在籍している訳でも無い、トレセン関係者ならばまず探す場所には一切名前が無い。逆に旅行者などならば見るであろう滞在先のホームページには乗っていたのだから。しかもご丁寧な事にホームページには民宿のご案内というのもあって、そこをクリックすれば先程のウマ娘が家族と思われる人たちと一緒に大きな看板を持っていた。
「―――……俺の苦労って一体……」
「まあいいじゃない、無駄な努力よりも無駄になる努力よ」
「そ、そうだな……」
笑顔でピースサインを作っている彼女の近くには兄だろうか、金髪だが和服を纏いながら腰に刀を差した外国人っぽい男性が後ろにやたら達筆な歓迎!!という看板の前で仁王立ちしている。そしてそんな二人と肩を組むようにしている眼鏡を掛けている温和そうな男性が映っている。兎も角で大きな手掛かりを得た、これでスカウトに行けると沖野は肩の荷を下ろしながら珈琲を啜る。今度は美味く感じられる。
「……この子のスカウト、ルドルフにも行かせて良いかしら。休養も兼ねて、という事で」
「俺は構わないぞ。俺が行った方が話は円滑だと思うから俺は行くけど、まあマジで顔合わせ位しかねぇから何とも言えないが」
「それでもないよりマシではあると思うわ」
リフレッシュを兼ねて沖野の同行者を決める東条の言葉を聞きながらも改めて彼女の名前を見てみた。民宿を開いている家の一人娘で自慢の手料理でお出迎えと書かれている。そんな彼女の名前は―――
「マッハチェイサー、そうかあの子はマッハチェイサーっていうのか。愛称はチェイス……良い名前だな」
主人公が全然出ねぇ。
あと、無料10連でバレンタインのエイシンフラッシュをお迎え出来ました。
それとハロウィンのクリークも来ました。なんか、季節限定に好かれてる感。