音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第23話

『強いっ強すぎるぞマッハチェイサー!!今ッ7身差を付けて今ゴールイン!!芙蓉ステークスに続き紫菊賞を征しましたぁ!!これにて3戦3勝、敗北を知らない音速の追跡者、マッハチェイサー!!彼女が追い掛けるのは果てしない勝利のみなのか!?彼女の追跡を振り切るウマ娘は現れるのか!?』

 

「マッハチェイサー、音速の追跡者更なる躍進か……」

 

新聞を広げてみれば、先日のチェイスの勝利が大きく取り上げられている。彼女の象徴となっている印象的な台詞とポーズ、その瞬間を切り取った写真がデカデカと掲載されている様は正しく彼女の成長と飛躍を見せ付けている。ミスターシービーに走りを見て貰ってから更にキレが増しているのか、チェイスは正しく快進撃を続けている。これならクラシック三冠も夢ではないというところまで来ている―――が

 

「好い加減、徹底マークされるころだな」

 

チェイスはこれまで勝ち続けている、最初は最後尾に居ながらも最後のスパートになればチェイスは全てを抜き去って先頭へと立ち華麗にゴールする。見る者の視線を釘付けにする戦い方をする彼女に周囲もその力を危険視する。此処まで無敗で勝ち上がり続けているチェイスを許しておく筈がない、これまでも勝ち続けて来たウマ娘に対する徹底したマークというのはあった。その中でも一番有名なのはテイエムオペラオーの包囲網だろうか。

 

記念に置いて、本来ライバル同士である筈のウマ娘達が結託し、打倒テイエム連合を結成し徹底したマーク戦法を複数人で展開した。それ程までにテイエムオペラオーというウマ娘の実力はエゲツなかった。それでも彼女は下り坂にて壁が綻んだ隙を突いて一気に包囲網を突破、先頭を行くメイショウドトウをハナ差で捉えて勝利をもぎ取った。

 

「あれほどって事はないだろうが……十二分にあり得る話だな」

 

チェイスは追い込み型、基本は最後尾でチャンスを伺い続けて最後に全てを追い抜いて行くスタイル。故に前を行くウマ娘に結託されたら確実に前に行けなくなる。今の内から対策を考えて置く必要があるかもしれない、一先ずこの事をチェイスに話すかと思いながら新聞を置いてコースへと向かう。

 

「今日こそ勝ぁぁぁぁぁあああああつ!!!」

「今日も勝つぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

先日のレースの熱も冷めていないだろうに、チェイスは今日も今日とてツインターボとの何時ものレース勝負を行っていた。レースを終えてそこまで日が経っていないのにあそこまで走れるまで回復する辺りを見るに別の意味でサイボーグのように見える。故にミホノブルボンの妹説が出るのも無理はないだろうな……と内心で思ってしまう。

 

「あっトレーナーさん、やっほ~いやぁ今日もウチのターボが悪いね」

「構わねぇって。もう日課みたいなもんだし、やってた方がチェイスだって調子がいい」

「チェイスちゃんと走るとターボも調子いいみたいだもんね」

「走る日と走らない日を比べるとターボの逆噴射が起らない確率が50%ほど違います」

 

こうしてスピカの練習中に顔を出すのが当たり前になって来たカノープスの面々、ナイスネイチャに、マチカネタンホイザ、イクノディクタス。ツインターボの付き添いなのではあるが、当人達としてはチェイスにも会いに来ている。如何にもチームメイトよりもライバルチームであるカノープスの方に馴染んでいる感が否めない。これはあれだろうか、ゴールドシップに拉致られてきた事をまだ根に持っている事への裏返しなのだろうか。

 

「なんというかなぁ……本当にツインターボみてぇな走りをするんだよなぁ……」

 

序盤のロケットスタートもそうだが、最初から最後までほぼ全力で駆け抜けていってラストにもう一度ブーストを掛けて走る姿は如何にもツインターボに被るのである。最初こそ普通に追い込みの走りだったのに、先輩と慕うウマ娘と走る時に限っては同じような戦法になる。一体如何なっているのだろうか……。

 

「「貰ったぁぁぁぁぁっっっ!!!」」

「ゴール!!テイオー今のどっちっ!?」

「―――師匠の勝ち!!」

「よっしゃああ!!!今日もターボが勝ったぁぁ!!」

「ま、また負けた……」

 

これで通算何度目の勝利かなんて数えた事もないが、今回のレースもまたツインターボが勝ったらしい。偶にはチェイスが勝つ事もあるが、それはあくまで逆噴射が起きた場合の話であって最高の状態のツインターボには一切勝った事が無いチェイスは悔しそうに溜息をつくのであった。

 

「フフンッ!!チェイス今回はだいぶ惜しかったぞ、今度はターボに勝てると良いな!!」

「こ、今度こそ勝ちます……って言いたい所ですけどターボ先輩、滅茶苦茶脚プルップルですけど大丈夫ですか」

「―――じ、実は限界だったりしちゃうんだなぁこれが……」

 

そのまま崩れ落ちるかのように倒れこんだツインターボ。限界を出し尽くしたのか、生まれたての小鹿のように脚が震えまくっている、何とかそれを抑えようとしても全く止まらないのか逆に置いて手どころか腕までもが震えてしまっている。

 

「膝、使います?」

「ごめんお願いしてもいい……?」

「勿論です。でもここだと危ないですし移動してからもしましょうか」

「世話を掛けるねぇ……」

「お気になさらず」

 

慣れた手つきでツインターボをお姫様抱っこするとそのままターフから退く、チェイスだって脚は震えている筈なのに彼女を抱き抱えた瞬間にそれを抑え込んでそこから退いた。そしてそこでお決まりの膝枕をツインターボへと差し出すのであった。

 

「にしてもチェイスの膝枕も本当に見慣れたわね……」

「最初は驚いたけどな」

 

恒例行事と成り果てたチェイスの膝枕、そしてその上で呼吸を整えるツインターボ。レースをする度にやっていれば驚きも慣れへと変わる物。最早何とも思わなくなってきた。

 

「でもそれだけ気持ちいいって事なのか、チェイスの膝枕」

「アタシ一回借りたけどあれやべぇぞ、気抜いたら熟睡出来っぞ」

「そうなんだ……って何でゴールドシップさん何時借りたんですか!!?」

「この前」


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