『さあ百日草特別、間もなくスタートです!!各ウマ娘、ゲートインを終えておりますが彼女らの熱気は此処にまで届くかのようです!!会場は既に揺れております!!3戦3勝無敗のウマ娘マッハチェイサー、彼女は今日も勝利を捉えるのか、それとも他のウマ娘が先に捕まえるのか!!?緊張の一瞬が間もなく幕を開けようとしています!!』
4勝目が掛かった百日草特別、だがその熱気は何処か異常な物だとチェイスは何処かで分かっていた。ほぼ全てのウマ娘から視線を集めている、つまり―――そう言う事なのだろう。
「(沖野さんの予想通りって事か……)」
「徹底したマーク、ですか」
「ああ、そういう戦法自体は別に珍しくはない」
レースの1週間ほど前、沖野からある話を受けた。それはマーク戦法について。
「簡単に言えば狙いを絞ってそのウマ娘との戦いだ、外れれば負けも濃厚になって来るが当たりさえすれば勝ちウマ娘との勝負に持っていける」
「今回、私がその対象になるって事ですか」
「無敗で此処まで来てるからな、その可能性は十二分にある。基本的にはそのレースでの一番人気を狙って来る事が多い」
恐らくほぼ確実にマークされるだろう、此処で潰そうとするウマ娘はいる、此処で絶対に勝つと思うウマ娘もいる。故にマークは絶対にされる。だから今のうちに伝えておく必要がある。
「チェイス、マークに対抗するには如何すれば良いと思う?」
「偏差射撃されるなら予想外の動きで回避する、ですよね」
「そう言うことだ」
幸いな事もある、それは―――チェイスが尊敬するウマ娘が全面的に協力してくれるという事だろう。
「チェイス―――徹底的にターボと走れ、それが対応策だ」
「成程、分かりました―――先輩の後継者になります」
「そうだけどなんか違うからな!?」
『今、百日草特別の
絶好のスタートダッシュを切ったチェイス、いきなり集団から抜け出して先頭へと躍り出るとそのまま突き放しにかかる。まさかの展開に観客からも動揺の声が出始める、何より共に走っているウマ娘達の顔も面白い位に歪んでいる。だったら―――それをもっと強めてやる。
「さあマッハチェイスを実行します、ずっと―――マッハッ!!!!」
『マッハチェイサー更に加速したぁ!!なんという展開でしょうか、音速の追跡者まさかまさかの逃げ戦法だぁ!!!』
『これは、驚きです。しかもこの逃げ方は……まるでツインターボのような大逃げです』
「な、なんですってぇぇ!!?」
「嘘でしょ!?」
「マッハチェイサーって追い込みじゃないの!!?」
チェイスへのマークを行おうとしていたウマ娘達はそれに驚愕させられた、常に最後尾に居ながらも不気味な程に足並みを備えて走ってくる追跡者がまさか自分達を完全に振り切らんばかりの大逃げ、半数以上のウマ娘がチェイスの事をマークしていたのにそのマークが一瞬で完全に振り切られたのだ。
百日草特別で行う戦法は逃げ、それもツインターボと同じ逃げを使えという指示を受けた。流石にチェイスも出来るのかと不安だったが、そんな事は完全に杞憂だったのだ。何故ならば彼女はその目に焼き付けているのだから、自分の前を走り続けるウマ娘を。それと共に走り続けているのだから。ならば出来ない事なんてない。
『マッハチェイサー既に10馬身以上差を付けて独走状態、追い込みをせずに大逃げ、このまま2000mを一人で逃げ切るつもりかマッハチェイサー。このまま逃げ切られるのか、第三コーナーへ最初に入るマッハチェイサー、全く勢いが衰えない!!このウマ娘は逃げる事も出来るのか!!!』
『二番人気のシルバーアカシアも必死に走りますが、彼女も逃げるウマ娘ですが全く追い付けていません』
『さあ大ケヤキを越えたマッハチェイサー、此処から最後の直線に入るぞ。他のウマ娘達もラストスパートに入ろうかという所、マッハチェイサーの独走を此処で阻止できるか!!?』
「追い込み型の癖にぃ……!!!」
「マークの対策のつもりだろうけど!!」
「付け焼き刃なんかにぃ!!!」
シルバーアカシアを筆頭にどんどん後方のウマ娘がラストスパートを掛ける。本来の戦法とは真逆の戦法、それで自分達の意表をついてそのまま逃げ切るつもりなのだろうがそんな事をさせて堪るか、自分達が、本来出来ない脚質の走りをするウマ娘に負けるなんてプライドが許さない!!!と最後の力を振り絞った、そして距離が縮まった時、行ける、矢張り付け焼き刃だ!!と歓喜しようと思った時だった―――
「チェイサーは追いかけるだけが芸じゃない―――とても、速いッッ!!!」
ツインターボを思わせるほぼ全力での走り、既に息は上がり脚は重くなり始めているがチェイスは笑みを深くしながら重くなる脚に更に力を込めて地面を蹴った。彼女もラストスパートを掛けた、流石にツインターボの常に全力での走りは出来ない。故にある程度の余力は残していた、そしてそれを最後の最後で大爆発させた最終加速を掛けた。
『マッハチェイサーもラストスパートを掛ける!?何というウマ娘だ、シルバーアカシア、レッドバースト、ラストバトルも懸命に追いかける。だが逃げる逃げる!!マッハチェイサーが逃げる、音速の追跡者、今トップで勝利を捕まえたぁぁぁぁ!!!』
追い込みである筈のウマ娘が逃げで勝ち切った、誰もが思いもしなかった展開に観客はもう賑わいが沸騰しきっている。このウマ娘はそれ程までに幅広い脚質で勝負出来るのか!?それをマジマジとレースを見ている人たちに見せ付けた。そして、普段よりバテてはいるが、笑みを作りながら彼女の定番ポーズを取る。
「追跡、大逃げ、何れも……マッハッ!!ウマ娘―――マッハチェイサー!!!どう皆さん、予想を裏切った中々にパンチの利いたいい絵だったでしょう?」
例えマークしようがそれすら振り切られる可能性もあるという事。追跡者は追いかけるだけが能ではないと深く刻まれた。
そんな大逃げを見せ付けたレースをたった一人だけ、面白くなさそうにしながら見つめていた男がいた。
「―――あれが泊 進之介の娘……生意気な、必ず潰す……あの時のようにはいかない……ヒッヒッヒ……」
「なあ、警察に通報した方が良いかな」
「如何した急に」
「だってあのおっさん、マッハチェイサー見ながらすっげぇ気持ち悪い顔しながらキモい笑い方してるぞ」
「う~ん……ちょっと差別っぽいけどあれは流石になぁ……ってあっこっち見た。なんか凄い勢いで逃げた」
「何だったんだあのおっさん……」