音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第25話

百日草特別で見事な大逃げを見せ付けて勝利を掴み取ったチェイス。元々幅広い走り方が出来るという片鱗を見せていたが、此処に来て逃げの適性を開花させたことで更に注目が集まる。が、それは逆に如何すればチェイスを捉える事が出来るのかという課題を対戦ウマ娘に投げ掛ける事にもなっている。追い込みと逃げではまるで戦法が真逆で下手にマークをする事は危険。つまり―――自分の走りのみで倒せと言っているような物。

 

「頂きます」

 

そんなエゲツなさを発揮したチェイスはそんな評価を向けられているもお構いなしと言わんばかりにカフェテリアにて食事にしていた。4戦4勝無敗のウマ娘ではあるが、当人的にはあまり気にならないのかあくまで周りが勝手に騒いでいるというだけに捉えている様子。

 

「チェイス此処良いか!?」

「ターボ先輩、はいどうぞ。是非ご一緒しましょう、ネイチャ先輩も」

「悪いね~んじゃお邪魔~っと」

 

食事を楽しんでいるとそこへナイスネイチャを伴ってツインターボがやってきて席に着く。手を合わせて食事に手を付けようとする前に、ツインターボは胸を張ってチェイスの事を鼻高々に褒め称える。

 

「中々に良い走りだったぞチェイス!!まあ流石に私には及ばなかったけどな!!」

「流石にターボ先輩のようには走れませんよ」

「いやいや~走らなくて正解だよ、あれはターボの個性というかなんというか、だけの走りだから」

「ネイチャ、それって褒めてるのか?」

「ん~一応」

 

んじゃエッヘン!!と胸を張る姿を見ながら単純で良いね~と半笑いしながらハンバーグを口にする。実際ツインターボの破滅逃げは誰にも出来る訳じゃない、最後まで全力を維持出来るのかという問題もあるが、体格も小さく体重も少なめなツインターボだからこそあの走りが出来るのではないかとナイスネイチャは思っている。

 

「それにしても、ターボと一緒に走ってるからって逃げまで出来るようになって本当にチェイスってば才能あるよね。キラキラしててちょっと羨ましいかも」

「キラキラ、ですか……私は輝いてませんよ、自分から輝こうとしてるだけです」

「それってどう違うんだ?」

「先輩、口の周りが」

 

同じニンジンハンバーグを食べているが、口周りを汚している先輩にウェットティッシュを差し出しながらチェイスは語る。自分は自分から輝こうとしていると。

 

「そこにいるだけで盛り上げられるような存在ではないんです、自分で工夫して周りを明るくして自分も輝くって思ってます。だから私が輝いているのはスピカの皆さんだけじゃなくてターボ先輩やネイチャ先輩、カノープスの皆さんにも輝かせてもらってると思ってます」

「う~んそう言われるとちょっと照れるねぇ」

 

頬を掻きながらも素直な嬉しさを感じる。何処か斜に構えて真正面から受けない様にするナイスネイチャ、だが此処まで素直に自分は貴方のお陰で頑張れてますなんて言われてしまうと恥ずかしさが嬉しさと共に湧き上がってくる。初戦から勝ち続けているマッハチェイサー、彼女は才能もあるがそれ以上に誰かと共に努力する事で開花するタイプなのだろう。と思いながら一番慕われているツインターボへと目を向けると……

 

「うぅぅぅぅチェイスぅぅぅぅお前、お前は何て良い後輩なんだぁぁぁぁ……」

「ってターボ号泣しすぎ……感動するのは分かるけどさ、ほらっ湿っぽいのは似合わないって」

「先輩……そうだ、先輩たち次のレースに応援に来て貰える事は可能でしょうか」

「あれ、もう決まってるの?」

 

試合に勝ったばかりなのにも次に意識を向けているのか、なんだかトウカイテイオーと戦う為に不知火特別、はづき賞、小倉記念というレースを2週間おきというローテーションで組んだ時の事を思い出してしまう。そして何のレースに出るかと思えば―――それは12月のレース、ホープフルステークスであった。

 

「ホープフルステークス!!絶対に行く!!」

「ってそれってGⅠレースよね?」

「そうかそうか遂にチェイスも―――ってええええっGⅠ!!?」

「意味分かって言ってなかったんかい!!?」

 

主に中長距離路線を目標にしたジュニアクラスのウマ娘が最初に目指すGⅠと言ってもいいホープフルステークス、確かにチェイスがこれに挑むのも道理だろう。何せクラシック三冠を目指すのであれば必然的にGⅠを目指す事になる。

 

「行くっ絶対に応援行く!!だからチェイス絶対に勝つんだぞ!!」

「まあターボがそんだけ気合入れて応援行くならネイチャさんも応援に行きますか~折角だからカノープス全員で応援に行くってのは如何かな」

「おおっそれいい、絶対に良い!!チェイスはカノープスのメンバーって言っても過言じゃないもん!!」

「いや絶対に過言だしチェイスはスピカだし」

 

と言いつつもイクノディクタスもマチカネタンホイザも絶対に応援に行く事は賛成してくれるだろうし、南坂トレーナーだって許可はくれるだろう。何せツインターボの実力向上にチェイスは滅茶苦茶に貢献しているのだから。

 

「でも何で態々応援してほしいって言ったの?いや出るって聞いたら確実に行くだろうけど」

「いえその……恥ずかしい話なのですが、そのレースには私の兄が応援に来るらしいのですが……」

「あ~成程ね」

 

兄が来るからというを聞いて大分察する事が出来た。チェイスからお兄さんの話は聞いているがかなり溺愛しているらしく、中央に来る事にも勝負服云々の事だけで反対したと聞いた。そんなお兄さんに自分はこっちでもうまくやれているという事を示したいのだろう、トレセン近くの商店街の人達に良く応援して貰っているナイスネイチャはそれは良く分かった。

 

「任せといて、ちゃんとカノープス全員で応援しに行くから」

「うんっなんならでっかい応援旗だって作るぞ!!」

「いや流石にそれは恥ずかしいです……」

「まあまあ、こういう風に応援するからさチェイスも頑張んなよ」

「―――はいっ絶対に勝ちます」

 

自分だけでは輝けない、そう言いながらもチェイスは輝いている。輝けていないと思っているのは彼女の周囲には既に多くの星が輝いていて自分の輝きが分からないだけ。何処か自分みたいだとナイスネイチャは思う。自分もトレーナーに自分は輝いていると言われた事があった、見えていないように見えて唯遠いだけであって確りと輝きはある。

 

「よしチェイス、今日はカノープスで一緒に練習するぞ!!」

「分かりました今日こそは勝ちます!!」

「いやいやいや……せめてスピカのトレーナーさんに許可は取りなさいよ」

 

 

「すいません、ターボさんが無理を言ってしまったのに」

「いいっていいって気にすんな、折角だからもう定期的に合同練習やろうぜ。その方があいつらの為になるって」

「……ですね」

 

 

「テイオー、勝負だ!!あの時の挑戦状の貸し、今此処で返してやる!!此処であの時の勝負だぁ!!」

「望む所!!って何か今の可笑しくない?」

「ターボ、そこは借りを返すです」

「あれ、そうだっけ……?」

 

「チェイスちゃん行くよぉ~!!よ~いスタッぶっへぇっ!!?」

「タンホイザ先輩大丈夫ですか!?落ち着いて鼻を確りと摘んで下を向いて下さい、直ぐに冷やせるものを準備しますのでそしたら目の間のおでこを冷やしてください。そうすれば止まりやすいです」

「手慣れてんなぁチェイス」

「なんか、スピカよりカノープスの方に馴染んでない?」

「拉致られて連れて来られたチームよりも尊敬出来る先輩のチームに馴染むのはある種、道理ですわね……」

「ア、アハハハハ……」

 

 

「た、確かにウチのチームの為にもなりますね……本当に、色んな意味で……」

「ウチ的にはなんか、チェイスがどんどんカノープス色に染まっててなんか複雑だな……」




色んな意味でカノープスメンバーっぽくなっていくチェイスであった。

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