音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第28話

「(最高の出来だ……流石はベルトさん、いやクリム父さんだ……本当にありがとうございます、これで―――俺はマッハチェイサーだ)」

 

そんな思いを抱きながらチェイスはゲートインを今か今かと待ち続けている。その瞳に燃ゆる炎は今までの物とは比にならない程に大きく強い炎が灯っている。静かに吐き出される息にも力が感じられ、周囲のウマ娘は思わずそれに威圧されるかのようにつばを飲み込んでしまう。ゲートインもまだなのにその集中力は異常の一言。もう既に自分の世界に入ってしまっている。

 

「今日こそと思ったが……何だ、この奴のプレッシャーは……」

「フ、フフフッ……緊張、しますなぁ……」

 

今日こそ借りを返し無敗のウマ娘という称号を奪い取ってやると意気込みを込めていた筈のリードオンとジェットタイガー、彼女らも勝負服を纏い体調は万全、精神も充実しており過去最高の仕上がりを見せている。だがそれでも今のチェイスが放つプレッシャーには僅かに困惑を覚えて息を呑んでしまう。そんな中、遂に鳴り響いたファンファーレ。それらに釣られるようにゲートインが開始されていく。

 

『誰をも魅了し、心を奪う希望の星が誕生する。ホープフルステークスが間もなく開幕致します!!ジュニア王者を決めるこのレースを征するのはどのウマ娘か!!?3番人気は優しい巨人、ジェットタイガー!!この評価は不満か!?2番人気は常に先頭を引っ張るトップバッター、リードオン!!そして全ての観客の視線を独り占めするエンターテイナー!!一番人気、音速の追跡者ことマッハチェイサー!!』

 

上げていたバイザーを降ろす、視界が変わる、意識が切り替わる。

 

『各ウマ娘ゲートに入って、体勢整いました』

 

準備は出来ている、もう何時でもいい、さあ始めよう。この衣装で―――マッハチェイサーの姿を見せてやる。

 

『さあ、ゲートが開いた! 各ウマ娘綺麗なスタートを切りました』

『誰が先頭を導くのか楽しみです』

『その言葉に応えるようにリードオンが先頭に立った!矢張り得意の大逃げで来たぁ!!』

 

先頭に飛び出したリードオン、得意の逃げで今回は誰にも先を譲る気などはないと言わしめるかのようなとんでもない速度を出して行く。メジロパーマーの大逃げ*1やツインターボのそれを思わせるような走りで早くも先頭に立つ。常に先頭を立ち続ける彼女、そしてその背後には巨人が控える。

 

「フフフッ一人だけで行かせはしない」

「ならば付いてきてみろ!!」

 

 

「やっぱりあの二人が流れを作るか……」

 

リードオンとジェットタイガーが流れを作るのは分かっていた、この二人は常に先頭と2番手でレースを作る走りをする。他のレースではその走りで他者を圧倒し、それぞれが一着を取り合うライバル同士。その二人が今日も流れを作る。

 

『そして最後尾にはマッハチェイサー、得意の追い込みでごぼう抜きを狙っています』

『本当に身体のブレが無い美しい走りですね、勝負服がライダースーツのように見えますから余計にそれが際立ってますね』

 

「よし、良いぞチェイス……!」

「いっけ~チェイス~!!ごぼう抜きだぁ!!!」

「チェイスゥゥゥゥ!!!ボディラインがくっきり過ぎてるぞぉぉお!!!だが、無事に育ってくれてて私は嬉しいぞぉぉぉ!!!」

「やめなさいグラハム、凄い変態っぽい」

 

グラハムの奇声は兎も角、得意の追い込み戦法で最後尾でチャンスを伺い続けているチェイス。普段と変わらぬ走り、だが違う物があった。普段以上に走りが力強く足音が重々しく大きく響いている。

 

「(な、なんなのこの音……!?)」

「(爆弾が、破裂してるみたいな―――)」

 

『おっとマッハチェイサー、最後尾から徐々に順位を上げて行きます』

『モニラとハギノジャックがペースを落としていますね』

『マッハチェイサー得意の追い込み、徐々に顔を覗かせようとしているのか。此処まで4戦4勝のウマ娘は何時仕掛けるのか!!?』

 

「まだまだ、もっと、もっともっと疾走ォォォォ!!!」

 

背後から上がってくるチェイス、その気配を強く感じ取ったのかリードオンは更に速度を上げていく。もっともっと逃げないとあのウマ娘には勝てない、同室のライバルであるジェットタイガーも上がって来るが彼女の事は熟知している。何せ幼馴染だ、だが―――あのウマ娘の事は全く分からない、あの剛脚もあの追い込みも何もかもが予想を常に超えてくる……。

 

「今度こそ、今度こそマッハチェイサーに勝ぁぁぁああああつ!!!」

「私を含めないとは―――後悔させてやらぁぁぁぁ!!」

 

リードオンが上がればジェットタイガーも上がっていく。今日こそチェイスしか見ていないお前の目を私に向けさせてやると言いたげな走り。間違いなく最高の走り―――と思った時だ、背後から何かが迫って来たのを感じる。何度も感じて来た怪物が迫るような重圧、遂に来たんだ、あいつがっ―――!!

 

『さあ最後のコーナーに入ったぞっ!!トップは変わらずリードオン、いやジェットタイガーも並んでいる!!ライバル同士のぶつかり合いに挑むウマ娘は―――いたぞ一人いたぁ!!遂に、遂に来たぁぁぁ!!!』

 

「―――ずっと……チェイサーッ!!!

 

『上がって来たぁ!!上がって来たぞ音速の追跡者、マッハチェイサー!!!此処で一気に3番手にまで上がって来たぁ!!ジュニアクラスを盛り上げてきたウマ娘三人の対決、さあホープフルステークスを征するのはどのウマ娘だぁ!!』

 

踏みしめるターフ、その先に広がるコース、走れば走る程に感覚はより鋭敏、より細やかに研ぎ澄まされていく。そう、この感覚は―――あの感覚だ、ミスターシービーと走った時のあれだ。これがゾーンなのかは分からない、だがこの状態ならば自分は、もっともっと先に行けるはずという確信がそこにある。何故ならば―――

 

『並んだ、並んだぞマッハチェイサー!!!既に最後の直線に入っている、リードオンも必死に走る!!ジェットタイガーも凄いスパートだ!!さあどのウマ娘が抜け出すのか、ジュニアの星となって輝くのはどのウマ娘なのかぁ!?』

 

「―――ずっと……マッハッチェイサァァァァ!!

 

その時、誰もがチェイスの姿に見惚れた。バイザー越しでも分かる程に彼女の瞳は輝きを放っていたのだ。青白い光と銀色が混ざった紫の光が左目と右目から溢れ出し、それが複雑に絡み合いながら一つの軌跡となってチェイスを後押しする。それによって生み出される剛脚、それが真の力を発揮し―――二人のライバルを追い抜いてチェイスは先頭へと立った。

 

『マッハチェイサー抜け出た!!先頭だ、先頭はマッハチェイサー!!凄まじいラストスパートだ、リードオン、ジェットタイガー共に懸命に走るが差が全く詰まらない!!完全に先頭、3身、いや5身差を付けているぞ!!最後の坂で此処まで伸びるのか!!?このウマ娘は他とは違う、全く別次元の何かを感じさせる走りをする!!音速の追跡者、マッハチェイサー今トップでゴールイン!!!』

 

ゴール板を駆け抜け、トップでゴールを決めたチェイスは溢れんばかりの大声援を受けながら少しずつ速度を落していく。

 

『一等星の輝きを見せクラシックへと繋がる道へ第1歩を踏みだしたのはマッハチェイサー!!無敗のジュニア王者の誕生だぁぁぁ!!2着ジェットタイガー、3着リードオン!!』

 

普段よりも息がかなり上がっている、身体も重くなっており脚にも力が上手く入らない。それでも身体には充実感で満ち満ちている。バイザーを上げながら放熱するかのように深々と息を吐きながら観客の方へと身体を向ける凄まじい大声援が降り注いでくる。それが酷く心地いい、そして望まれている、ならば答えなければならない、何故ならば……自分はマッハチェイサーだから。

 

「追跡ィ!!大逃げェ!!何れも―――……」

『マッハ!!!』

「ウマ娘―――マッハチェイサー!!!」

 

ポーズを取る時、皆が同じ台詞を言ってくれた。こんな事もあるのかと感動しながらも最高に力を入れながらポーズを取る。これが自分の最高の走りだ。

 

「如何皆さん―――最高の絵だったでしょう?」

 

 

「Nice drive!!」

「チェイスゥゥゥゥゥウウ!!!!お前こそ、お前こそ私の宝だぁぁぁぁ!!!抱きしめたいなああああああ!!!」

*1
当人曰く爆逃げ

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