音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第30話

父の上司という仁良 光秀。余りにも突然すぎる出会いにチェイスは驚くというよりも何処か怒りを感じていた。だが、それも直ぐに皆からの祝福で消え失せていた。と言ってもやる事は確りやるのがチェイス、今回の事は確りとトレーナーから理事長に報告して貰ったとの事、如何やら仁良自身は警備責任者の仲介でこの会場に来ていたらしく、警備の手伝いのような事をしていたらしい。実際は謎だが。

 

厳重な注意と幾らかの罰則が適応されるという話を後々聞かされた。出来ればもう会いたくないような男だともう忘れる事は出来ない。兎も角、チェイスはGⅠレースを征した。そして無敗のまま、ジュニアクラスを終えていよいよクラシックへと挑戦する事になる。そんな彼女がすべきこと、それは―――

 

 

「もう間もなく仕上がります」

「まだかよ~チェイス、もうスペが待ちきれねぇって顔してるぞ」

「し、してません!!まだ、まだ何とか待てます!!」

「何とかなのね……」

「でもターボもお腹ペコペコだぞぉ~……」

「あと少しですので」

 

それは忘年会兼新年会の準備であった。今回はカノープスの面々も参加しており、かなり賑やかなパーティになる。その分、食材やらの準備も大変で沖野トレーナーは酷く財布の心配をしていたのだが―――そこに嬉しい知らせがあった。

 

『ヂェイズゥゥゥゥよくぞやったぞぉぉぉ……これは私いや、天倉町からの細やかな贈り物だ、皆で食べてくれぇぇぇ……』

『いや全然細やかじゃないんですけど……』

 

グラハムがGⅠ勝利を祝して大量の食材を送って来たのである。グラハムの武士道米を筆頭に近所から野菜に山菜、イノシシの肉や卵に牛乳etc……もう使い切れないほどの量が送られて来た。これには沖野も嬉しい悲鳴であり今回は財布が薄く軽くならずに済んだ……が、今度は逆に量が多すぎたのでカノープスを招待したという側面もあった。

 

「しかし良いんですかね、今回はチェイスさんのGⅠ勝利のお祝いでもあるのにその主役にお食事の準備をさせてしまって……」

「細かい事なんて気にしちゃだめだってトレーナー、チェイスが自分でやるって言ってるんだから。でもネイチャも手伝ったんだよな!!」

「ま~私もちょっと手伝ったけど、基本全部一人でやってたね。手元を一切見ずにあんだけ細かく千切りやるとか信じられなかったわ」

 

料理上手でも知られるナイスネイチャすら褒めるしかない料理の腕前、これでも民宿では看板ウマ娘兼料理長だったのだから料理には相当に自信がある。トレセン学園にいる間に増えたレパートリーもフル活用して忘年会と新年会に相応しいメニューを作り上げている。

 

「お待たせしました、最後の料理のローストビーフが完成しました」

「おっ~!!!凄い、ターボもう食べたい!」

「駄目だってターボせめて頂きますしてから!!」

「このまま齧り付きたい~!!」

「あげません!!」

「ってスペのもんじゃねぇだろ!!」

 

と巨大なローストビーフを巡るツインターボとスペシャルウィークの小さな激闘があったりもしながらも、漸く出揃った料理の数々。部屋に大きく広げられたテーブルが完全に埋め尽くされる程の料理に食いしん坊でもあるウマ娘達の食欲はストレートに刺激されていく。

 

「んじゃまあ皆さっさと食いたそうだから……今年は皆お疲れ!!来年はもっと頑張ろう!!んじゃ頂きます!!」

『いただきま~す!!』

 

次々と伸ばされていく手が料理を取っていく、健啖家であるウマ娘がこれだけ集まっているのだからこの料理の山もそこまでもたないだろうなぁと思いつつもチェイスはジュースを口にする。一応お代わりの準備でもしておくか……とキッチンに立って料理の続きをすることにする。

 

「チェイスなんでまた台所に立ってんの?」

「追加の料理を作ろうと思いまして、スペ先輩は特に健啖家ですからきっと直ぐに足りなくなります」

「あ~……既にコロッケが無くなってるもんね……」

 

視線を向ければコロッケの山をあっという間に平らげているスペシャルウィーク、そんな彼女はツインターボ達が食べているローストビーフに目を付けて其方へと向かって行き、それを阻止するためにツインターボ、イクノディクタス、メジロマックイーン、ウオッカ、ダイワスカーレットと言った防衛線と戦いを繰り広げている。

 

「んじゃアタシも手伝うよ。ネイチャさんはこういう時は裏方をやるの好きだし」

「すいません、では少し早いですが年越しうどんを茹でましょう。それとお雑煮で稼げるはずです」

「おおっ既に仕込み済みとは準備万端だね」

「毎年天倉町の新年会で仕込みをしてましたから」

 

ナイスネイチャも地元の商店街のイベントには参加して様々な経験をしているが、料理の一点においてはチェイスの方が上を行っているらしい。既に数多くの仕込みがされている鍋を温め直しながら、他の料理も作っていく動きに全く無駄がない。

 

「んでジュニアを無敗で勝ったウマ娘であるチェイスさんは来年の抱負とかあるの?」

「抱負、ですか」

「三冠ウマ娘になる!!とかだったりなんかあるでしょ」

 

うどんを鍋に放り込みながら少し考えてみる。ウマ娘としてレースに出た初めての年、そしてレースに勝ち、尊敬出来る先輩に出会って、三冠ウマ娘に走りを見て貰って、本当に今までの人生としてはあり得ない様な展開ばかりだった。今までの抱負と言えば……家内安全とかそんな感じだった気がする。だが来年からは別の物にすべきなのだろうと言われたような感じがした。

 

「……友達に負けない、ですかね」

「友達ってどういうこと?」

「実は……島根のトレセンに居た友人が来年の4月から中央に来る事になったらしいんです。ですからそれに負けない、ですかね」

「おおっそりゃ凄いね」

 

地方トレセンから中央トレセンへの転入、それは実力が無ければできない事。それだけの力を見せ付けてスカウトされて中央へと行く、それだけの力があるという事に他ならない。そんな友人と同じ世界に入ったのだから今度は同じ世界で戦うライバルとして負けないという意志が感じられる。

 

「因みにその友達って何ていうの?」

「サクラハリケーンです」




やっぱりなんかカノープスの方が動かしやすいというか、くっそ馴染んでる。

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