音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第32話

忘年会は気づけば新年会へと化け、チェイス特製の年越しうどんはあっという間に消費されていった。これでもかなりの量のうどんを打ったつもりだったのだが……健啖家なウマ娘の中でも特に大食漢なスペシャルウィークに次々と消費されていき、後日リギルに渡しに行こうと思っていた分まで食べられてしまう所だった。あんだけ食べてまるで妊婦のように膨れたお腹が少しすれば直ぐに引っ込むのだから、同じウマ娘ではあるが生命の神秘というかウマ娘の神秘を垣間見た瞬間であった。

 

「さてと……お前らそろそろ参拝に行くぞ~。スぺ、お前はもう食うなよ」

「食べてませんよ、でもチェイスちゃんの天倉巻は食べたいです!!」

「今度作ってもらえよ」

「なんだ、スピカはまだ食べてないのか?天倉巻凄い美味しいぞ!!」

「何で知ってるんですか!?」

「フフンッこの前にチェイスが持ってきてくれたからな!!」

「何、ですって……!?」

 

ツインターボが如何に天倉巻が美味しかったを語って見せるとスピカの食いしん坊代表であるとスペシャルウィークと甘い物好き代表のメジロパックイーンことメジロマックイーンが強く反応した。名前だけは知っていたが、まだ食べた事が無いのに何故カノープスは食べた事があるのか!?と強く思う中でナイスネイチャが何処か呆れたように口にする。

 

「スピカに誘われた時に無理矢理拉致られた時の事をまだ気にしてるんじゃない?」

「くぅぅぅなぜあの時に、わたくしはゴールドシップを止めなかったのか……!!!」

「私も食べてみたいのにぃ……」

「やっぱり、チェイスはカノープス寄りなのか」

「あははは……」

 

それを見てやはりファーストコンタクトが最悪すぎた事を嘆く。あの時にしっかりとゴールドシップを止められていたらチェイスはもっとスピカに馴染めていただろうに……これはカノープスへの移籍をしたいと言われたら素直に認めることも考えておかなければならないだろう……出来ればスピカに留まってほしいのだが、チェイスの事を考えたら……何とも言えない。溜息をついていると着替えが終わったチェイスが部屋へと入ってきた。

 

「お待たせしました」

「お~!!!チェイス凄いカッコいい!!」

「そこは奇麗って言ってあげなさいよ、いやでも、本当に雰囲気がガラリと変わった……」

 

部屋に入ってきたチェイスを見て見惚れる一同、ツインターボはキラキラと輝いているチェイスを見て騒いでいるがそれにはナイスネイチャも同感だった。黒を基調しながらも金色の花と龍が入っている着物は気品と凛々しさに溢れている、そして軽く化粧もしているのか薄く紅が唇に引かれており艶っぽい大人の雰囲気を醸し出している。

 

「すいません、久しぶりだったので手間取りました」

「い、いや全然待ってないけど……すげぇなチェイス、お前着物なんて持ってたのか……というか一人で着付けできるのか」

「大和撫子の嗜みだと兄から教わりました」

「グラハムさんからか」

 

チェイスは色々と日本被れなグラハムからいろいろと仕込まれている、着物の着こなしから生け花……何なら剣術まで仕込まれている。剣術は役に立つか不明だが、それでも本人的には楽しかったので良いと思っている。尚、グラハムは国家資格である1級着付け技能士という資格を持っている。別に米農家なんてやらなくても生計はばっちりと立てられるハイスペックな男なのである。

 

「でも友人は着物の上に革ジャンを着るのが好きだと言ってました」

「なんかごちゃごちゃしてねぇかそれ」

 

そんなやり取りをしながらも到着した神社。まだ日の出前というのもあってまだ薄暗いが、新年に合わせて出店なども多く出揃っており境内は賑わいを見せている。

 

「甘酒とかもありますね!!」

「おいおい、せめてお参りしてからにしろって」

「は~い」

「というか、あんだけ食べたのにまだ入るってどんだけよ……」

 

チェイス特製の料理を一番食べたといっても過言ではないスペシャルウィーク。それなのに出店の焼きニンジンやら甘酒やらに興味を示している姿にややげんなりとするナイスネイチャ、チェイスの調理を手伝った身としては彼女を本当の意味で満腹させるにはどうしたらいいのだろうかと考えてしまう。これがオグリキャップとタッグを組まれたらもうギブアップしかないだろう。改めて、カフェテリアの料理スタッフの皆さんに感謝を捧げるのであった。

 

「今年も大逃げする……!!」

 

と隣のツインターボがお参りをする隣で同じように手を合わせて自分の願い事、目標を捧げる。

 

「(……私の夢、目標、天倉町の愛に応えられる走りが出来ますように……)」

 

やはりチェイスの目標といえばそこしかない。元々天倉町に居たいという想いは皆が自分にくれた愛情故、そして自分は中央でその愛に応えられるだけの走りをしたいと町を出るときに強く思ったのだ。ならば矢張り目標はそれしかない、マッハチェイスでブッチギル……それを体現し、最速で勝利を捕まえる。それだけだと。

 

「チェイスおみくじ引こうおみくじ!!」

「新年の運試しですね、お付き合いします」

 

お参りの後は自由行動。ツインターボと共におみくじを引きに向かう。ターボはかなりの力を込めて振って中身を出した後にチェイスが引く。一緒に見ようということでいっせ~の~っせ!!で中身をあけてみると……

 

「おおっ大吉だ!!!チェイスは!?」

「―――やりました」

 

Vサインを作りながら見せ付けた中身は同じく大吉であった。仲良しな先輩後輩コンビ、此処でも仲の良さを発揮するのであった。

 

「よ~し今年はGⅠで勝ぁぁぁぁぁつ!!!」

「私もクラシック頑張ります」

 

そう言いながら改めて中身へと目を向けてみる、基本的に占いには興味を示さないチェイスだが、折角ツインターボと同じ大吉だったので詳しく見てみようと思った。その中で気になったのは―――待ち人だろうか。

 

「(連絡もせずに、急に訪れる人に幸運のチャンスがあります)……ハリケーンじゃない、よねメールくれたし……」

「チェイス甘酒!!甘酒買いに行こ!!」

「アッハイ、わかりました。参りましょうか」

 

待ち人の欄で僅かに首を傾げるが、すぐに切り替えて一緒に甘酒を買いに行く。が、甘酒を受け取ったときに複数人の人に声をかけられた。

 

「あ、あの間違ってたらごめんなさい。マッハチェイサーさんじゃないですか!?」

「はい、私はマッハチェイサーですが……」

「あ、あの大ファンなんです!!握手お願いできますか!!!?」

「握手、ですか?私なんかの……」

 

思わず目を白黒させながらも大きく頭を下げながら手を差し出してくる幼いウマ娘、エンターテイナーとしての一面を持つチェイスだが自分個人へ此処まで強い感情を一対一でぶつけられた事は余り無い。自分が話題性が強いのは分かっていたが、こうして握手を求められるとそうなのかと強く認識し始めた。

 

「私なんかでいいのなら……」

「あっ有難う御座います!!感動だぁぁ……最高だぁ……!!って隣の方ってツインターボさん!?すごい、あ、あのサインとか!!?」

「おおっ勿論良いぞ!!ターボのサインが欲しいなんて見どころがあるな!!」

「ああもうなんて最高な日なんだろう!!新年一発目から最っ高すぎる!!」

 

その声につられて多くの人が此方を見れるのだが、自分がマッハチェイサーとは気づかれていなかったのか続々と人が集まってきてしまった。

 

「メイクデビューからのファンなんです!!」

「クラシック期待してるぜ!!」

「マッハチェイスってやつで頑張ってくれよな!!」

「ねぇ~ねぇ~お姉ちゃん、あの変身ってやつやって見せて~!!」

 

その中には変身を見たいという声も一定数存在していた。やはり今までにない勝負服の披露だったのでインパクトは抜群、ニュースでも取り上げられていてクリムの元にはURAから正式なオファーが来ているという話を聞いた。

 

「おっ~ターボも見たいぞ!!でも流石に無理かな?」

「フッフッフッ……ご安心ください、こんな事もあろうかと―――抜かりなく、マッハドライバーは持ってきております」

 

持ってきたいたバックの中に忍ばせていたマッハドライバー、それを見た瞬間に周囲の人々のテンションは一気に上がっていく。一旦甘酒とバックをターボに預けてドライバーを装着すると―――チェイスはノリノリで変身して見せた。

 

「Let’s ―――変身!!!」

 

マッハ!チェイサー!

 

「追跡、大逃げ、何れも……マッハッ!!ウマ娘―――マッハチェイサー!!!如何皆さん、良い絵だったでしょう?」

 

新年早々、ファンサービスを欠かさないチェイスに境内は大盛り上がりになったという。




「でも着てた着物とかってどうなってるんだ?」
「解除すればまた着物に戻りますよ」
「やっぱりターボも欲しい!!」

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