音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

33 / 120
第33話

「あけましておめでとうございます、遅ればせながら新年のご挨拶をさせて頂きます。此方、天倉巻です。以前ルドルフ会長よりご好評だったとお聞きしたのでお持ちしました。珈琲にも合いますのでどうぞお受け取り下さい。勿論、リギルの皆さんの分も沢山御作りしましたのでご安心を」

「……思ってた以上に確りとした子なのね貴方。いえ、何でもないわ。明けましておめでとう、此方こそ宜しく」

「いえ、スピカのメンバーならば当然の評判かと」

 

新年の挨拶をリギルの東条トレーナーにしつつ持参した天倉巻をお土産に姿を見せたチェイス。チェイスの事はそこまで知っている訳ではない、いや能力面では理解は深いつもりではいる。何せ無敗でクラシック挑戦をするジュニア王者、マークは欠かさなかった。だが性格面はあまり……スピカの勧誘に困惑し、理事長に通報しようとする程度には常識的という事ぐらい。如何やら相当に真面目な子らしい、尚更スピカには合わない……と思ってしまう、いやストッパーとして考えると適任かもしれない。

 

「個人的にも、貴方はリギルに入って欲しかったと思ってるわ。はぁ……あの時にルドルフに連れて来て欲しいというべきだったかしら……」

「いえ恐らく言ったとしてもゴールドシップ先輩に途中で拉致されてたのがオチだと思います」

「容易に想像できてしまうのが嫌ね」

 

あの破天荒っぷりはもう誰にも止められないだろう、チェイスという警察官志望のウマ娘というある種のワイルドカードの存在の影響で少なくとも拉致による勧誘はやめてくれたので大分マシにはなっている。まあそれ以外で未だに破天荒さは健在なのだが……彼女についてはもう諦めた方がいいのかもしれない。

 

「本日はどんなご用件でしょうか?移籍のお話でしたら何方かと言ったらカノープスにしたいのですが」

「いえそういう話じゃ―――って……カノープスに馴染んでる話はマジなのね」

「冗談です。流石にスカウトして下さって恩もありますのでスピカに在籍するつもりです」

「それならリギルに来ても良いと思うけど」

「……」

「真面目に考えなくていいから」

 

ちょっとした意地悪で何方かと言えばスカウトを行ったシンボリルドルフとエアグルーヴの事を引き合いに出してリギルに来てくれてもいいのよ?と言ってみるが確かに……と言わんばかりに本気で思案する顔になったので止めておく。ミホノブルボンよりもずっと話は通じるが、何処か天然っぽいので注意は必要だろう。

 

「まあ、いいわ。兎も角私からも遅くなったけどジュニア王者おめでとう。クラシック挑戦は言っておくけど並大抵の事じゃないわよ」

「理解しているつもりです、テイオー先輩にブルボンさん、そしてライスさんからもお話は聞いています」

 

クラシック三冠。幾人ものウマ娘がその栄光を掴もうとした、だが夢半ばで断念したウマ娘の数知れず。そこにまた一人、挑戦しようとするウマ娘がいる、奇しくもトウカイテイオーとミホノブルボンと同じく、無敗のままでクラシックへと挑むマッハチェイサー。そんな彼女にはある意味今回の要件の本題は相応しいかもしれない。

 

「それで取材の話をする為に今日は呼んだのよ」

「取材、ですか……?」

「ジュニア王者になった貴方は年度代表ウマ娘のジュニア部門の最優秀ウマ娘候補にも選ばれてたんだから当然……まさかこれも分からないのかしら……?」

「全く」

 

シンボリルドルフやエアグルーヴ、そして沖野から全く以てウマ娘の世界に付いての知識はないと聞いていたがまさか此処までとは……TVもあまり見ないタイプだったのだろうか。いや最近の子はTV離れも多いと聞くから可笑しくはないのだろうか……。

 

「URAが選ぶそれぞれのクラスで活躍したウマ娘を表彰するのよ、此処まで良いかしら」

「取り敢えず」

「宜しい。それで貴方が候補として選ばれてたって事、それでまあ最優秀は別のウマ娘にはなっちゃったけど、貴方にも取材来るって事を知らせる為に呼んだのよ」

「……あの、何でそれを東条トレーナーが私にお話しするので?」

 

色々と突っ込みたい事もあるが、お参りの時に色々とファンの人たちに囲まれてその辺りの自覚がぼんやりとしながらも芽生え始めているチェイスは少しばかり恥ずかしそうに頬を赤くするのだが……それならなんでスピカのトレーナーである沖野が自分に教えてくれないのだろうかという疑問をぶつけた。

 

「取材の了承とかが全然来ないから私から聞いて欲しいって言われたのよ、ついでに取材に付いて色々アドバイスもしてあげて欲しいってね」

「それは……お手数をお掛けします」

「いいのよ、正直彼の尻拭いには慣れちゃってるわ」

「……肩、お揉みしますか?」

「……有難う、気持ちだけ受け取って置くわ」

 

重々しい溜息に思わず本当に苦労しているんだなぁ……と心から同情が沸いてしまいそんな事を口走ってしまった。それをやんわりと遠慮する東条だが、素直に彼女の顔には疲れが滲んでいる気がする。

 

「それで取材についてだけど、貴方の素の状態を見せればいいわ。特に緊張はせずに普段通りにしておきなさい、月並みだけどこれが秘訣よ」

「成程……」

「後、貴方のドライバー……でいいのかしら、勝負服関連で絶対質問が来るからそれに対する答え位は考えておいた方が良いかもしれないわね」

「やっぱり、ですか」

 

周囲の反応から分かってはいたが、矢張りマッハドライバーは相当に衝撃的だったらしい。ホープフルステークスの後のネット記事では自分の勝負服の事が随分と派手に書かれていたのは印象的だった。

 

「東条トレーナーから見たらマッハドライバーってどう思います?」

「マッハドライバーっていうのねそれ。普通に欲しいわね、瞬時に勝負服への変化も出来るっていうのは色々と活用できるわ。例えばそうね……それをウイニングライブで活用してライブ衣装と勝負服をチェンジしたら盛り上がると思わないかしら?」

「超盛り上がります、走り抜けながらコスチュームチェンジとか超いいと思います」

「でしょ。だからURAもそれには凄い興味惹かれてるわ、当然ウチのチームも興味津々よ。折角だからこの後変身だったかしら、近くで見せて貰う事って可能かしら」

「勿論。というか今も持って来てます」

 

 

 

 

「やっと日本に着いた~……」

「Hey!!あそこを見てごらん、チェイスが映ってるぞ!!」

「おっマジじゃん!!?すっげぇな話には聞いたけど、流石俺の姪っ子だ。んじゃ早速行こうぜ博士!!」

「OK!!愛しのチェイスちゃんに会いに行こうか!!」




チェイスが最優秀に選ばれなかった理由。

チェイスは基本中距離のみで走っていたが、最優秀に選ばれたウマ娘はマイルも含めて走っていた、マイルのGⅢやGⅠにも出て活躍したからその差で選ばれなかった。

「私の輝きをもってすれば当然だ」

最優秀ウマ娘のコメントより一部抜粋。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。