音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第37話

「お待たせしました、これが天倉巻です」

「やっと……やっと食べられますわ!!」

 

この日を待ち望んでいたのだ!と言わんばかりに眩い光を散らせるような笑みを作るメジロマックイーン、漸くスピカの部室へとやって来た天倉巻。だが問題なのはその量、部室の机を簡単に埋め尽くすほどの量が用意されていたのであった。

 

「な、なんつぅ量だ……もしかして、この量を作る為に時間掛かってたとか……」

「流石にそれはないですけど……スペ先輩の事を踏まえると相当な量は必要だと思ってましたので」

「凄いですチェイスちゃん、これ全部食べて良いんですよね!!?」

「ちょっとスペ先輩独りで食べようとしないで!?」

 

もう既に手を付けているスペシャルウィークは本当に凄い勢いで天倉巻を食べていく、このままだと本当に一人で食べ尽くしてしまいそうな勢いなので他のメンバーも手を伸ばしていく。

 

「んっ本当に美味しいわこれ!甘さも控えめだからいっぱい食べられちゃうわ!!」

「う~んこれ美味しい~!!あっしかもこれ蜂蜜入りだ!」

「色々と味を揃えたつもりですので」

「いやぁ悪いなチェイス、なんか催促しちまったみたいで!!」

 

実際催促してたじゃねぇか……と内心で想いながらも珈琲と一緒に天倉巻を食べる沖野。まあ確かにツインターボが絶賛するのも分かる、これはチェイスの料理の腕が良いからなのか、それとも天倉巻というお菓子自体が優れているのがどちらなのだろうか。まあ恐らく両者ともに正解なのだろう。

 

「本当に美味しいですわ!中身が二つに分かれていて味に飽きが来ない上に甘さも控えめですからパクパク行けてしまいますわ!!」

「ホントすごい勢いで食べるわねぇ……」

「マックイーンってスイーツ系に限ってはスペ先輩並に喰うもんな……」

 

美味しいです!!最高ですわ!!という声がダブって聞こえてくる、一方はスペシャルウィークで一方はメジロマックイーン。大食漢で有名なスペシャルウィークだが、甘いものに限ってはメジロマックイーンも同じと言えるだろう。

 

「また太るぞパックちゃん」

「なっ!?ま、またとは何ですの!?というかパックちゃんって何なんですの!!?」

「お前の事だぞ、メジロマックイーンことメジロパックイーン」

「失礼ですわね!?本当に失礼ですわ!!」

 

ゴールドシップの言葉にお冠なメジロマックイーンだが、周囲はその言葉を否定出来ない。実際甘いものをこんなに食べたら本当に太るだろう。

 

「一応、カロリーと糖質の計算はしましたのでカフェテリアのスイーツ類よりは抑えられてます」

「えっ本当なの!?」

「はい。先輩の食べる量は把握してますので、カロリー計算をした物を新しく開発しました。まあお陰でお届けするのが遅れましたが……それについては本当に申し訳ありませんでした」

「まさか、私の為に……!?」

 

天倉巻を渡すのが遅れたのは渡しづらかったのもあるがそれ以上に量の準備とその他諸々があった為である。それを聞くとメジロマックイーンは思わず涙ぐみながら心から嬉しくなってきたのであった。

 

「チェイスさん、心から感謝致しますわ……これからは何時でも私を頼って下さいませ、メジロ家の誇りに掛けて力になりますわ!!」

「あ、有難う御座います……まさかそこまで言われるのは予想外だったんですが……」

「まあうん……マックイーンは色々と苦労してるしな」

 

他のウマ娘に比べて太りやすい体質にある為か、カロリー計算やら糖質管理に苦心しているメジロマックイーン。当人自体は甘いものは大好きなので特に大変との事、偶にスイーツを我慢しているのに目の前の席にスイーツをもって座ってくるトウカイテイオーが来た時は本当に辛かったとの事。

 

「後そうでした、他のメジロの皆さんにも作りましたのでどうぞ」

「まぁっ!!これはご丁寧に……今度のお茶会にはこれですわね♪」

「おっそれじゃあゴルシちゃんからは特製のドクダミ茶を贈呈してやるぞ♪」

「ドクダミって雑草じゃない!?」

「何を飲ませようとしているんですか貴方は!!?」

「お前はドクダミの凄さを分かってねぇな!!すげぇんだぞテロとかに使えるんだぞ!!」

 

ギャアギャアと一気に騒がしくなる部室内だが、スピカとしてはこれは日常茶判事。本当に賑やかなチームだと思いつつもチェイスはこの空気が最近になって漸く好きになれてきたような気がして来た。今までは何方かと言えば一人でいる方が多かったし友達も静かなタイプが多かったからか、スピカの空気には中々馴染めなかった。

 

「いいもんですね……こういうのも」

「だろ、だからもうあんなこと冗談でも勘弁してくれよ?」

「分かってますって。珈琲お代わり淹れます?」

「頼むわ」

 

そう言いながら沖野に新しいコーヒーを淹れる。時間はかかったが、漸くチェイスはスピカメンバーになれたと沖野は感じるのであった。

 

「あのトレーナーさん、私の次のレースっというかクラシック初戦はどうなるんですか?」

「そうだな……今回の走りでマイルも練習すれば行けるって実感は持てただろ、だからその練習を織り交ぜようとは思うけど基本は中距離メインで行く。中距離を初戦に据えるなら2月のすみれステークス、マイルを組み込んでもいいならきさらぎ賞か共同通信杯が狙い目だな」

 

何故マイルはその二つと言われたら、マイルの練習を踏まえつつも距離が中距離に近い1800mなのが理由。今から練習すれば行けるかもしれないが、それでも中距離路線がメインだったチェイスには出来るだけ長い距離の方が良いだろうという意図がある。

 

「長距離の練習は良いんですか?」

「そっちは勿論するけど、優先度は低めだな。長距離のレースが少ないのもある、その辺りはマックイーンやテイオーにコーチについて貰って徹底的にやるから安心してくれ」

「成程……実はブルボンさんから今度一緒に走りましょうというお誘いを受けたんです」

 

それを聞いて思ったのは他のウマ娘が困惑しそうという感想だった。ミホノブルボンの戦法は逃げ、そしてチェイスは追込。仮に他のウマ娘も参加するレースだと仮定すると瓜二つと言っても過言ではない二人に前と後ろに挟まれる事になる。分かっていたとしても頭がバグりそうだと思う。

 

「そういう話があるなら、俺の方からブルボンのトレーナーに話を通してやるよ。あっちも興味あるらしいしな」

「すいませんお願いします」

「チェイスちゃ~ん、この抹茶味ってもうないんですか~?」

「えっもうないんですか!?」

「スペシャルウィークさん、一人で食べ過ぎですわ!!私は抹茶入りはまだ15個しか食べてませんわ!!」

『十分食べてるじゃん!!』




ドクダミとささげとミントテロはマジでやめて……トラウマなの……。

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