音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第39話

「チェイス~!!」

「ゴフッ!?」

 

マイル適応の練習中の事、突然飛びついてきてたツインターボ。最早タックルと言うべきそれはチェイスの脇腹に突き刺さった、が、それを必死に耐えながらも出来るだけ顔に痛みが現れない様に気を付けながら返事をする。

 

「ど、如何しましたターボ先輩……」

「あっごめんつい飛び付いちゃった!!」

「い、いえ今度から気を付けて頂ければ……」

 

「あれぜってぇ我慢してっぞ」

「尊敬してるからってあそこまで出来るなんて」

「どんだけ敬愛してるんだろうな……」

 

 

「それで如何なさいました……?」

「フフンッこれを見よ!!」

 

そう言いながら見せてきたのはトロフィーだった。誇らしげにツインターボはそれを掲げている事からその意図が分かる。

 

「もしかして師匠勝ってきたってこと?」

「流石はテイオーだな!そう、ターボは勝って来たのだ!!6身差でGⅡの日経新春杯を大勝して来たぞ!!」

「おおっターボ先輩おめでとうございます!!」

 

先日行われたGⅡの日経新春杯、それに出場したツインターボはいつも通りの大逃げ戦法に打って出たわけだが今回の彼女は何時も以上に走りにキレがあり、ラストの直前では更に加速して他のウマ娘を置き去りにして大勝利を掴み取った。

 

「でも教えてくだされば応援に行ったのに……」

「何を言ってるんだ、チェイスはクラシックに挑戦するんだから自分の事に集中するのは当たり前だぞ。今だってマイルの練習中なんでしょ、だったらそれに集中!!」

 

チェイスとしてはツインターボのレースならば必ず駆けつけるつもりでいる、ツインターボもそれは分かっていたので敢えて知らせる事はせずにこうしてレースの後に話を持って来た。それはクラシックが一度しか挑戦できない大切な時期である事を理解しているのと、目の前でトウカイテイオーの怪我の事を知ってるからこその気遣い。尊敬してくれるのは嬉しいけど、その為に自分の事を疎かにするのは頂けない。

 

「これからもターボは全力でチェイスを助ける、だからチェイスも自分に出来る事は全力でやる事。そしてターボは絶対にGⅠで勝つ、だから約束!!」

「はい、約束です」

「ウムッそれでこそチェイス!!」

 

硬い握手を結び合っている二人、本当に理想的な関係性を築いているこの二人。先輩後輩というだけではなく本質的にはライバルであり師弟の関係でもある、なんとも面白い関係だ、面白いが故に理想形だ。

 

「チェイス、お前のレースはマイルで良いんだな?その後は弥生賞だ、いよいよ本格的にクラシック挑戦だ。今日もスズカに揉んでもらえ」

「はい、スズカ先輩今日もお願いします!」

「ええっ私を捕まえてみてね」

「スズカと走るの!?ターボも走りたい~!!」

「いやいやいやレース明けなんだから脚を休ませろって」

 

サイレンススズカとの練習を開始したチェイスをベンチに座りながら膝にトロフィーを載せながら観戦するツインターボ。思えばこうやってチェイスの練習を見るのは初めてかもしれない、初めて会った時からずっと一緒に走って来た。だからこうしてみるのは酷く新鮮に映る。

 

「ツインターボさん、日経新春杯勝利おめでとうございます。お隣宜しくて?」

「うんいいよ~」

 

隣に座って来たメジロマックイーン、リハビリも順調で後は調整をしつつ復帰戦に望む段階。

 

「そ~言えばネイチャから聞いたぞ、今度はテイオーの距離で戦って勝つって」

「そうですわね、今度はテイオーの得意な距離で勝ちますわ」

「フフン、だったらターボだってテイオーに勝つぞ!!」

 

トウカイテイオーのライバルとも言うべきメジロマックイーン、あと少しで怪我から復帰し改めてターフを駆ける名優となる。そしてツインターボも自称ではあるが生涯のライバルだと言い張っている、トウカイテイオー自身もそれは否定せずにライバルだという事は認めている。なのでいざという時はメジロマックイーン、トウカイテイオー、ツインターボの激突するレースがあるかもしれないという事になる。

 

「チェイスさんはツインターボさんから見て如何思います?」

「ターボでいいよ、ん~……」

 

異次元の逃亡者を必死に追いかける音速の追跡者。これで何度目の戦いになるのやら分からないが、チェイスは一度もサイレンススズカを捕まえる事が出来ていない。あくまでマイルでの感覚の修得と勝負位置の把握などが目的ではあるが、チェイス的にはサイレンススズカには勝ちたいと強く思っているらしく、普段以上に練習に力を入れている。

 

「凄い奴」

「か、簡潔ですわね」

「んでターボが大好きで大切な後輩!!」

 

ニカッと分かった笑顔は太陽のように明るかった。スピカよりもずっと馴染んでいるカノープス、そして一番慕っているツインターボにマッハチェイサーとはどんなウマ娘なのかと尋ねたかった、ツインターボにとっては本当にそれだけなのだろう、それで十分なのだろう。それ以上に理由なんて必要がない。

 

「ターボはチェイスと走りたい、GⅠのレースで競って競って競い合いたい!!絶対に楽しいし燃えるもん!!それでターボが勝つ!!」

「素敵な目標ですわ、そう言われたら私もチェイスさんと走りたくなってきましたわ」

「うん絶対に走ろう!!有記念で走ろう!!」

「それは―――確かに最高の舞台ですわね」

 

目指すは有記念、果てしない目標だが折角の目標なんだから大きい方が良いとツインターボは胸を張る。こんな風に明るくてハツラツだからこそ一度は引退を決めたトウカイテイオーを奮い立てせ、その走りでもう一度……と決意させる事が出来たのだ。

 

「おおっあとちょっとだ頑張れチェイス~!!!そうそうあとちょっとってあぁ~加速して引き剥がされた~!!」

「フフッ流石にまだスズカさんは捕らえられませんわね」

「ムムムッ~チェイス次こそ行けるぞ~!!」




やっぱりターボ先輩は可愛い。実装はよ。

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