「バクシンオーさぁぁぁぁんッッッ!!」
「ハリケーンさぁぁぁぁあん!!!」
「「ヒシッ!!!」」
チェイスの友人こと、サクラハリケーンが中央トレセンにやってきた翌日。改めて学園内を案内している時に突如、ハリケーンは走り出した。何故ならばと問えば彼女にとっての大恩人とも言うべきウマ娘、サクラバクシンオーがいたからである。それは相手も同じなのか同時に駆け出すとMAXスピードに近い速度で向かい合いながらも同時に互いを抱きしめた。あの速度をどうやって殺したのか、同じ速度でぶつかって速度を相殺したというのか、だったら衝撃とか色々問題になるだろうに……。
「バクシンオーさんお久しぶり~!!会いたかった~!!!」
「私もですよ~!!島根の方に行くと聞いてたのにまたこうしてお会いできるのが嬉しいですよ~!!」
「「バクシン的に感動~!!」」
……何とも騒がしい二人組だ。言うなればチェイスにとってのツインターボのような存在がサクラバクシンオーという事になる。なので自分もツインターボと一緒に居る時は基本的にテンションが高めなので何も言えない。
「本当にお会いしたかった~!!」
「アハハハッ本当にお元気そうで何より、さあ私の胸を存分にお貸ししますから!!」
「それじゃあ遠慮なく―――」
「ハリケーン?」
「ア、アハハハ!!何時までもバクシンオーの御胸を借りる私じゃないですよ~これでも成長してるですってば~!!」
「なんと、ハリケーンさんも大きくなったという事ですね!!」
ハリケーンの悪癖というなんというか……これは抑制するほかない。彼女は貧乳、当人はそれを気にはしていないが自分にはない大きな胸というものに憧れているのか、そういう趣味がある。尚、そっち系ではない、単純にデカい胸が好きなだけというだけらしい。
「おおっマッハチェイサーさん!!先日のレースの勝利おめでとうございます!!あのレースは素晴らしかったですね、実にバクシン的な勝利でした!!」
「あ、有難う御座います。バクシン的勝利……って何だろう」
「バクシン的はバクシン的勝利だよ!!ねえバクシンオーさん」
「そうです、バクシン的勝利です!!」
「「バクシンバクシーン!!!」」
「ああはい、そうですねバクシンですね」
取り敢えずもうツッコむ事を放棄してそういうものなのだな、という事にしておこう。
「それで今は学園の案内という事ですね、では委員長である私が委員長として相応しい案内をしてあげましょう!!」
「ああでも今チェイスにして貰ってるんですけど……」
「ああいや、私の事は気になさらず。バクシンオーさんお願いします、バクシン的な案内を」
「勿論ですとも!!それじゃあハリケーンさんついてきて下さいね、行きますよバクシン的に!!」
「応勿論です!!」
「「バクシンバクシーン!!!」」
そのまま大声を張り上げたまま、怒られない程度の駆け足で去っていく二人を見送ったチェイス。特に疲れた事をしたわけでもないのに酷く疲れたような気がしてならない。
「何でこうも疲れてんだろうなぁ……飯、喰いにでも行くか……」
何処か疲れたように重い足取りでカフェテリアへと向かって行くチェイス、それを見た生徒達はきっと三冠に向けて特訓をしてるから疲れてるんだろうなぁ……という解釈をして応援をしたり、励ましの言葉を掛けたりをするのであった。肝心の当人は何で疲れているのかも分からない故に居たたまれない気持ちになりながらも辿り着いた先でお気に入りの鯖味噌定食を頼むのだが……
「此処がカフェテリアです!!さあ次なるバクシンの為にいっぱい食べましょう!!」
「はい!ってチェイスじゃん、折角だから一緒に食べようぜ~!!」
「良いですね~!!」
「……ああそうか、騒がしさに疲れてんだな俺……」
漸く分かった疲労感の正体、だが喜ぶ処か分かってしまったが故に更に増したそれに深い深い溜息を漏らすのであった。
「ど、如何したのチェイスさん。疲れてない?」
「ああライスさん……いえ、少し……私って賑やかなのは好きだけど騒がしいのって嫌いなんだってのが漸く分かったと思いまして……」
「……?よ、よく分からないけど元気出して、ねっ?」
偶然出くわしたライスシャワーに手を握られて励まされた時、衝動的に彼女が天使のように見えたのは恐らく幻覚などではないのだろう。
「……ライスさん、貴方は天使か、それとも幸運と癒しを運ぶ遣いか」
「ふえっ?」
「このゴルシちゃんに着いて来られるかなぁ!?」
「此処からは私のステージだァァァァァ!!!!」
そんな風に雄叫びにも似た勇ましい叫びを上げながらもターフの上を疾走する嵐。自信があると言っていたフィジカルに偽りはなく、5勝を挙げたという戦績にも納得がいく。寧ろ彼女を負かしたというウマ娘にも興味が沸く。
「如何ですのハリケーンさんは」
「いやぁこりゃまた逸材。スカウトされるだけあるわ」
沖野としても納得の強さ。ローカルシリーズからトゥインクルシリーズの移籍は基本的に結果を出したウマ娘でないとあり得ない。故に彼女の実力は保証されているような物だったがそれを改めて目にするとその凄味が更に明白なる。
「あんなハイペースでスタミナが持つってのは中々だな」
新人を歓迎する兼実力判断の為の模擬レース。対戦相手はゴールドシップ、スピカの中でもその肉体的な頑強さはワントップでスタミナも凄まじい。フィジカル面を自慢していたのでゴールドシップとの対決になった。当人の希望で2500mの長距離でのレースとなったが、その距離をハイペースで駆け抜けているのにも拘らず、ハリケーンの脚質は衰えずにスパートを掛け始めたゴールドシップに食い付いている。
「ぬおおおおおおっ追い抜かれたけど追い抜かしてやるぅぅぅ!!!」
「やってみなっこのゴルシちゃん相手になぁ!!」
完全に追い抜いたゴールドシップ、完全な独走態勢が出来上がっていると言っても過言ではないのにハリケーンは鋭い末脚を発揮してゴールドシップを追走する。超が付きそうな程のハイペースだったが故にスタミナ切れを起こし始めているのか、フォームが崩れ始めているがそれを根性のみで支えながらもスパートを掛ける。
「私のステージィィィィ!!!」
「いい根性してるじゃねぇか!!んじゃアタシも―――抜錨ぉぉぉ!!!」
「うっそだろ更に!?」
ゴールドシップに喰らいつくという根性を見せ付けるが、此処で本気で走り始めたゴールドシップは一気に加速してハリケーンを置いてけぼりにしていく。それに驚いたのか、それも限界が来たのか走りが乱れていき最終的に7馬身差でハリケーンは敗北してしまうのだが……それでも十二分なポテンシャルは見せつけた。
「だあああああくそぉ、負けたぁ……」
「いやはやちょっと本気になっちまったぜ」
「先輩お疲れ様です」
「サンキュチェイス」
ドリンクを渡しながらもチェイスは此処までゴールドシップに追い迫るだけで凄まじいと感じられる。
「一対一の勝負だからって力入り過ぎだな、意地になってただろ」
「……うっす。チェイスに私の走りを見て欲しかったし、中央に来てからの初走りだったので勝ちたくてつい……」
「だろうな、お前さんの脚質は差しだろ。あれじゃあほぼ先行か逃げだ、自分の走りをしろよ、そうすればゴルシにだって勝てたかもしれないのに」
「……すいません」
沖野の言葉を確りと受け止めながらもハリケーンは内心で少しだけショックだった。これでも島根のトレセンではトップクラス、№1とも言われるぐらいには強かった。なので中央でも絶対に行けると思った、だがそんな見通しはあまりにも甘かったと実感した。自分などまだまだヒヨッコなんだ、それ所か焦って自分の走りすら出来なかった。なんて無様な姿だ。だが同時に思う、自分はまだまだ強くなれる。そう思うだけで嬉しくなってきた。
「トレーナーさん、俺―――クラシック三冠にチャレンジしたいんです。それまでにもっともっと練習します、だから―――このチームで頑張らせてください!!」
「おう、その意気込み気に入った。改めてようこそスピカへ」
「うっす!!―――でも、流石にちょっと休憩を……チェイス~胸貸して~」
「そこは膝でしょ」
バクシンオーは書いてると不思議と元気になる。これが、バクシン……!?
後、バクシンって書いててバクシン的に鎮圧せよってフレーズが脳裏を異常な程に過る。何を鎮圧する気だ。
個人的にはファイヤーよりもフォース派でした。尚、曲的にはファイアー。だってジャムプロだし。