音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第45話

訪れた弥生賞当日、この日中山レース場にはGⅡとは思えぬほどの観客が訪れていた。それはサイレンススズカ、エルコンドルパサー、グラスワンダーが激突した毎日王冠を彷彿とさせる。あれほどという訳ではないが、此度激突するのはジュニアクラスを賑わせ、クラシッククラスに乗り込んできたジュニア王者同士の激突と言ってもいい。

勝つのは音速の追跡者(マッハチェイサー)、それとも究極の輝き(ゴルドドライブ)か。

 

「マッハチェイサー、だな」

「そうですが」

 

間もなくゲートインという事でチェイスは声を掛けられた。初めて聞く声に耳が其方には動きながらも振り向いた。そこにいたのは見事なまでに艶やかな金髪を靡かせている長身且つ抜群のプロポーションを持つウマ娘、最も輝いているウマ娘として最優秀ジュニア級ウマ娘に選ばれたゴルドドライブ。究極の輝きとも呼ばれるのに相応しい輝きを放っている。

 

「ゴルドドライブだ。最優秀ジュニア級ウマ娘を争ったという君とは話をしてみたかった、だが今日は言葉ではなく走りで語らせて貰う事にしよう」

「マッハチェイサーです、本日は宜しくお願いいたします」

 

礼儀正しく頭を下げて手を差し出すチェイスにゴルドドライブは一瞬キョトンとした顔を作ったが、直ぐに噴き出しながらもその手を握り返した。

 

「いや済まないな、成程あの三下が気に入る訳の無いタイプだな」

「三下?」

「何、私にも君に取るに足らん屑の三下だ。レース前にその名前で精神汚染を起こす必要もないだろう」

「随分と言いますね」

「それに相応しい人間性を持っているという事だ」

 

初めて会うゴルドドライブにチェイスは内心で警戒感を強めていた。何故ならばその名前は仮面ライダーを知っている身としては無条件で警戒に値する程の者だからだ、自分の名前やハリケーンの事からもしかしたらと思っていたが……まさか此奴がウマ娘として現れるのは予想外にも程があった。

 

「一つだけ聞いてもいいかマッハチェイサー」

「チェイスで結構です」

「そうか、私の事もゴルドかドライブ、好きなように―――お前は何の為に走るのか」

 

何処か真剣な面持ちをしながらゴルドドライブはそれを尋ねて来た。何を目標にしているのか、夢を尋ねているようにも取れるか違う。走っている理由を問われているとチェイスは感じ取る、そして自分が抱いているゴルドドライブの内面(それ)とは大きなギャップを感じつつも応える。

 

「単純です。私は愛に応えたい」

「愛、か……これはまた、私には分からんものを言われてしまったな」

「分からない?」

「いや、済まない余計な事を聞いた。兎も角今日は宜しく頼む」

 

そう言いながらもゴルドドライブは去っていく、自分のゲートの前へと移動していく様を見送りながらもチェイスは改めて深呼吸をして自分の中のざわめきを落ち着けていく。

 

「(あれがゴルドドライブ……蛮野がそのままって訳じゃなさそうだが……シンゴウアックスを衝動的に振るいたくなってきた)」

「(あれは何をやっているんだ……そして何故だ、何故あれを見ると寒気がするんだ……?)」

 

ゲートに入る前、何かを振るうような真似をしている事をしているチェイスを不思議な目で見るゴルドドライブは謎の寒気に襲われていた。

 

 

『抜けるような青空のもと中山レース。芝2000m、15人のウマ娘が走ります。三番人気はリードオン、今日も末脚は冴えるのか』

「今日こそはマッハチェイサーに勝つ……!!」

 

リードオンに続いて次のウマ娘が入る。

 

『そして二番人気は此処まで6戦6勝、ゴルドドライブ!!無敗で最優秀ジュニアウマ娘に選ばれた言わずと知れたジュニア王者、今日も圧倒的な輝きを纏っております!!』

「さあ、今日も私の輝きを御披露だ」

 

そして―――

 

『そして一番人気はこのウマ娘!!無敗のジュニア王者マッハチェイサー!!此処まで無敗、6戦6勝、敗北を知らないウマ娘が今ゲートインしました!!』

『ですが今回は二番人気のゴルドドライブとの人気差はほぼありませんでした、今回は一番人気のウマ娘が二人といるといっても過言ではありません』

 

一番人気マッハチェイサー、二番人気ゴルドドライブ。今回のレース人気はこの二人に集中している、そしてその二人の人気の差はほぼ互角。互いに無敗のジュニア級の王者同士、勝負服と追い込みにも拘らず大逃げも出来るという事の話題性で僅かにチェイスが人気の上では上回ったというだけ。だがその実力は未知数。どうなるのか全く分からない。

 

『各ウマ娘ゲート入り完了。体勢が整いました―――そして今、スタートしました!!先頭を行くのはゴルドドライブ、二番手はリードオンが続きます』

 

先頭を行くはゴルドドライブ、彼女は今まで共に走って来たリードオンよりも先に前へと出た。このレースを引っ張るのは自分だと言わんばかりの走り、そしてその走りは何処かサイレンススズカを想起させる程に風を纏っている。

 

『そして最後尾にはマッハチェイサー、前回の大逃げではなく得意の追込でマイペースに走ります』

 

逃げてよいとは思う、だが自然と身体は馴染んだこの走りを選んでいる。だが―――今回のレースはあまりにもペースが速い。ゴルドドライブの高速に皆が付いて行こうと必死になっているのが自分でも分かる、前のウマ娘に合わせているペースは徐々に上がっている。

 

『さあ逃げる、逃げるぞゴルドドライブ!!リードオンを僅かに引き離していく!!さあ間もなく第三コーナーへと差し掛かる!!』

「マッハチェイスを実行します―――ずっと……チェイサーッ!!!

 

流石にもう仕掛けないと不味い、そう判断したチェイスはマッハチェイスを発動させる。溜め込んできた力を一気に爆発させて次々と順位を上げながら第三コーナーへと入っていく。どんどんどんどん加速していく、身体が風の中に溶けていくような錯覚を感じながらも遂に見えた―――ゴルドドライブ。

 

『リードオンを抜いてマッハチェイサーが上がって来たぁ!!!音速の追跡者、此処でトップ争いに踏み込んできた!!!リードオンは厳しいか、マッハチェイサーとの差がどんどん開いて行く!!』

 

「そん、な、バカな……勝ちたい、勝ちたい、お前に勝ちたいのに―――どうして」

 

そんな言葉はチェイスには届かない、更に差が開いていって最終コーナーへと入っていく二人のウマ娘をリードオンは目に焼きつける事しか出来ない。涙が込み上げながらも―――リードオンは必死に走る、必死になって……。

 

『最終コーナーでマッハチェイサーが捉えた、ゴルドドライブを捉えた!!遂に並んだ、並んだぞ!!正真正銘、ジュニア王者同士の一騎打ちだぁぁ!!!』

 

「矢張りお前だったか、マッハチェイサー!!!」

 

分かっていたぞ、と言わんばかりの笑みを深めるゴルドドライブ。きっと自分の輝きに着いて来られるのはお前だけだと分かっていた、だがその速さは私に通じるのかどうか見せて貰うと言わんばかりに更に加速していく。此処まで大逃げし続けているのにまだ加速する余力があるのかと言わんばかりの加速。

 

『ここでゴルドドライブ抜け出した!マッハチェイサーを完全に置き去りにするか!?』

 

「―――ずっと……マッハッ!!!

 

『いやマッハチェイサーも更に加速する!!再び並び立ったぁ!!!凄いウマ娘の対決だ、中山の急坂で此処までの激戦を繰り広げている!!何方も一歩も譲る事もない!!真のジュニア王者は何方だ、何方が真の王の資格を掴み取るのか!!?王位争奪戦を征するのは何方だぁ!!?』

 

坂を上った両者、一歩も譲らぬ大激戦。だがその時―――ゴルドドライブの身体が輝いたように見えた。同時に笑みを深めるゴルドドライブは挑発するかのように聞こえるように言って見せた。

 

「これで良いのか―――ずっと……マッハッ!!!

「なっ!?」

 

『ゴルドドライブ此処で抜け出た!!真の王者はこの私だと言わんばかりに更に加速した!!!』

 

その走りは正しく自分の走りだ、自分のマッハチェイスだ、何故それが出来る!?お前は私なのか、一瞬で様々な考えが脳裏を過る中でチェイスは思った―――

 

―――勝ちたい、勝ちたい、お前に勝ちたい、お前に負けたくない……ゴルドドライブ!!!

 

「―――ずっと……マッハッチェイサァァァァ!!

 

瞳から二つの光が溢れ出す、絶対的な勝利への渇望が溢れ出しチェイスの身体を更に先へと突き進ませていく。己の走りを会得したと言わんばかりのゴルドドライブにこれは出来るか!!?と言わんばかりの気迫を出しながらも一気に加速する、限界の更に向こう側へと駆け出して行く。

 

『此処でマッハチェイサーも追走!!!信じられません、再び並び立った!!?再びマッハチェイサーとゴルドドライブが並び立た―――いや抜いた抜いたぞマッハチェイサー!!!ゴルドドライブを抜き去ったぁ!!!』

 

「―――私のゴルドランを越える……!!?」

「私は、私は―――マッハチェイサーだぁぁぁぁぁ!!!」

 

完全に抜き去る、音速の追跡者は究極の輝きを置き去りにして速度の頂点を極めようとする。そしてそのまま―――マッハチェイサーはトップでゴールを潜る。

 

『ジュニア王者の王位争奪戦、勝者はマッハチェイサァァァ!!!半身差を付けて無敗のジュニア王者、ゴルドドライブに勝利ぃぃぃ!!』

 

ゴールした時、思わずチェイスは膝に手を置いて全身で息をしてしまった。それはゴルドドライブも同じなのかかなり息を乱している、此処まで無敗だったウマ娘同士の激突は音速の追跡者に軍配が上がった。その勝負に大歓声が上がる中でチェイスは笑みを深めながらふらつく足に力を込めながら、ポーズを取る。

 

「追跡、大逃げ、何れも……マッハッ!!ウマ娘―――マッハチェイサー!!!如何だい皆さん……今回は最高に熱くていい絵だったでしょう……!?」

 

その言葉に同意するかのような大歓声で会場が揺れる。無敗の王者は同じ王者を破り真の王者となった、そしてその王者は栄光の冠を手に入れる為に次のステージへと進むのだ。そんな相手にゴルドドライブは―――ゆっくりと近づきながら声を掛けた。

 

「おいマッハチェイサー……」

「―――ハァハァハァハァハァ……な、なんでしょうか……?」

「……次は、こうはいかんぞ」

 

何処か悔し気にしつつも何処か晴れやかな笑みを作りながらゴルドドライブはチェイスへと握手を求めていた。それを見てチェイスは思わずキョトンとしてしまった、彼女の中にあったゴルドドライブと決定的に乖離したからだろう。

 

「この借りは必ず返す。私は必ずトリプルティアラを得てみせる、だからお前も約束しろ。必ず三冠ウマ娘になれ、そして―――有記念で貴様を下して見せる」

「―――存外に熱い人ですね、良いでしょう……次は互いに冠を得てから」

 

強く強く、互いの手を握りしめる。今度はお前を負かす、今度も自分が勝つ。そんな思いをぶつけ合いつつも両者はお互いをライバルとして認め合いながら再選を誓う。次は―――更なる高みにて。

 

「お前が羨ましい、愛で走る事が出来るお前が」




ゴルドドライブ、思って以上に凄いライバル感になった。

まあ中身が蛮野じゃないからある種当然なんだけどね!!

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