「流石に、無理をし過ぎたか……脚がもうフラフラだ……」
ゴルドと再戦の約束をしたチェイス、三冠を取ってから有馬記念でのリベンジマッチ。それを快諾したのだが、如何にも流石に疲労し切っているのかウイニングライブが始まるまでは控室で大人しくしている事にしていろと沖野からも厳命され、それに逆らうつもりもなかった。それ程までに疲れている。
「それにしてもゴルドドライブ……ある程度予想はしてたけど、あそこまでなんて……」
ゴルドドライブ。大基になっているであろう存在からある程度は能力や得意な物を想定はしていたがあそこまでの物は予想していなかった。
―――これで良いのか、ずっと……マッハッ!!!
「ゴルドドライブのゴルドコンバージョン……間違いない、マッハチェイスの一部を
途轍もない才能だと言わざるを得ない。ウマ娘にはそれぞれ得意な戦術、戦い方や個性がある。ゴルドはそれを自らの物にする事が出来る、しかもそれを自らの力にプラスする事が出来るとしたら……彼女は経験を積めば積むほどに強くなることになる。再現にも限界や自分との相性もあるだろうが……それでも異常。事実上、ゴルドドライブは全ての距離、脚質を出来ると言っても良い。
「とんでもないのと再戦の約束しちゃったなぁ……次、勝てるんだろうか」
素直にクラシック路線と被らなくて良かったと安堵せざるを得ない。あれならばトリプルティアラは夢ではない、逆を言えば問題は自分になるのだが……何とかするしかないだろう。兎も角、次のレースも勝つだけ―――
「(コンコンッ)チェイス、私だ。ゴルドドライブだ、入っても良いか」
「はい、構いません」
そんな事を想っていると丁寧なノックと共に聞こえて来た声、それは先程まで戦ったゴルドだった。入室を認めると彼女はゆっくりと入って来たが椅子に座っている自分を見ると直ぐに謝罪してきた。
「済まん休息中だったか」
「いえ、座っていれば大丈夫です」
「そうか……話をしたい、レース前に聞いた事を詳しくな」
ゲートインの時の話になる、なぜ走るのか。と尋ねられた事に対してだった。
「私はなぜ走るのかと聞いた、そしてお前は愛だと答えた。その意味を知りたい」
「意味、と言われましても……そのままですが」
「……詳しく頼む」
どういう事なのかは分からないがゴルドは詳しく話を聞きたがる、隠す事でもないので素直に話す事にしたチェイス。両親の事、そして天倉町の事、その愛に応える為に走っている。それをゴルドは唯静かに聞き耳を立て続けていた。そして全てを聞き終えると―――
「そうか……愛とはそういう事だったか、済まない辛い事を聞いた」
「いえ、私は別に……逆に聞いてしまいますが貴方はあの時、分からないといっていましたがそれは何故」
「……そのままの意味さ、私の親は如何しようもない屑だった」
何処か羨まし気な瞳を作りながらも思わず歯軋りをしながらも父の事を思い浮かべたゴルドは不愉快そうな顔をした。思い出したくもない、あれの血が自分に流れていると思うと吐き気がする。
「蛮野 天十郎、科学者としては超一流だが人間としてはド三流以下な男だった」
「(そっちかぁ~……というか、あれいるのかよ……いや、母さんと剛兄さんの事考えたら居るだろうけど……)」
内心でそういう事だったか……と半ば納得するチェイス。蛮野 天十郎……元ネタ的な事を考えたら自分の母である霧子の父親、つまる所自分の祖父に該当する。
「娘である私を下劣な目で見つめ、自らの欲を満たす事しか考えぬ外道だ……母が居なくなってから何度……クッ……!!」
「それは……何とも」
両親はおろか故郷の町全体に愛されたチェイスとは酷く対照的な存在、故かチェイスが走る理由というのが愛というのが理解出来なかったのだろう。なんていったら良いのか分からなそうな顔をしているとゴルドは何処か明るい顔を作りながらも大丈夫だといって来る。
「安心してくれ、あいつはもうこの世にいない」
「えっ亡くなっているんですか?」
「私が外出中に新型の動力炉のテストをしていたらしいが……失敗したらしく動力炉の爆発にあって死んだ。因果応報だ、動力炉というのも誰かの技術盗用に決まっている」
吐き捨てるかのように明らかになった蛮野の末路にチェイスは内心でざまぁwwwと笑いが止まらなくなりそうだった。兎も角これで不安材料がなくなったといえる。これは素直に安心出来る情報である。
「まあお陰で私は別の屑の家に引き取られる事になったが……蛮野に比べたらマシだ」
「……あのゴルド、大丈夫ですか色んな意味で」
蛮野から逃れられたと思ったら別の屑の所に行く事になったと聞いて本気で心配になって来た。色んな意味でゴルドドライブは大丈夫なのだろうか……。それに対しては心配いらないと笑みを伴って返答する。
「何、まだマシだ。国家権力に属する奴だが……マシだ、襲われるよりずっといい」
「……それってもしかして……」
「ああ、私の保護者は仁良 光秀だ。以前は奴が済まなかった」
「……甘い物、要ります?」
「同情、感謝する。頂こう」
この後もゴルドと色々と話を聞きながらも交友を深める事になったチェイス、そして自分の天倉町での事を話すと素直に羨ましそうにしながらも何時かその町に行ってみたいと漏らすようになっていたゴルド。
「あの三下にお前を叩き潰せと言われたが……まあそれは言われずともするさ、決着は付けたいからな」
「フフフッ望む所です」