音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第47話

弥生賞を見事に制したチェイス、次はいよいよクラシック三冠の初戦となる皐月賞。それに向けて万全の調整を目指すのだが三冠は何方かと言えば通過点にしか思っていないのかもしれない。

 

 

―――必ず三冠ウマ娘になれ、そして有馬記念で貴様を下して見せる。

 

 

新たなライバル、ゴルドドライブ。彼女はトリプルティアラを目指し、自分はクラシック三冠を目指す。今までは漠然とした気持ちでしか三冠を目指そうとしか思っていなかった。唯トレーナーに目的として提示されて目指すと決めただけ、だが―――今は違う。ゴルドドライブとの約束を果たし今度も自分が勝利する為に三冠を得る。その為に今日も走るのだ。

 

「如何だチェイス」

「ちょうど終わりました―――よいしょっと」

 

部室内で作業を行っていたチェイスは何かを持ち上げた、そこには―――青空の下で勝負服姿で走るチームスピカの面々が描かれている。そう、今までは本当に勧誘する気があったのかと言わんばかりの看板をチェイスが大きくリニューアルした。

 

「輝け乙女、ターフで煌け一番星。か、悪くないコピーだな」

「しかし久しぶりに筆を取ったからか肩が凝りました」

「悪いな、急がせちまって」

 

何故この看板が必要になったかと言われたら―――季節は春、4月になったからである。そう、新入生がトレセン学園にやってくる。スピカは既に名が知れた強豪の一つになっているがその看板はあまりにも……そんな看板で勧誘するのはチェイスも嫌だったので思い切って全面的に書き直しを決意。ターフを駆け抜けるチームスピカを描いた看板に大変更したのである。

 

「私だってあんな看板で勧誘とかしたくないです」

「だ、だよなぁ~……」

「チェイス~看板まだある~!?」

 

部室の扉を壊さん勢いで入ってくるハリケーン。そしてすぐに看板を見るとそれを担ぎ上げた。

 

「そうそうこれこれ!!前の看板なんて酷かったもんな~あれ見て入ろうとかゴル姉さんみたいなウマ娘だけだって」

「アハハハハッ……んじゃハリケーン、宣伝頼むぞ」

「ラジャりました!!行くぞバクシンバクシーン!!」

 

一気に駆け出して行くハリケーン、彼女は入学式を終えてチームの見学やこれからの事を考えている新入生にスピカの宣伝をして貰う事になっている。この後はスピカのパフォーマンスレースの準備もあるので沖野は其方に回らなければならない。スピカのメンバーの大半も其方に回る事になっている。

 

「さて、チェイスに憧れてくるウマ娘もいるかな」

「私なんかよりも憧れる存在はいるでしょう」

 

スペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、ダイワスカーレット、ウオッカ、ゴールドシップ。自分とハリケーンを除いてもこれだけの凄まじいメンバーが揃っている、目が行くとしたら確実に其方なのだから自分に憧れるなどはないと断言するチェイスに沖野は頬を掻く。

 

「何言ってんだよ、お前だって無敗のジュニア王者で三冠挑戦ウマ娘だろ」

「テイオー先輩やマックイーン先輩には負けます」

 

謙遜なのか本心なのか、推し量り辛いが取り敢えずチェイスにも確りとトレーニングコースに来るようにと伝えて沖野は去っていく。

 

「私に憧れる……か、分からないな……」

 

何とも言えない気持ちになりながらもノロノロと部室を出る事にした。青空が広がる、そこへ桜の花びらが舞い華やかに彩っていく。この季節は本当に綺麗だと思いながらも何処か曇った気持ちのチェイス。彼女は常に憧れる側の存在だったが故に憧れを受ける側が分からない。

 

「言うなれば私が仮面ライダーになったようなもんか……」

 

感覚的にはそれに近い、何時の間にか自分はそんな側になっていたのだ。

 

「あっあのもしかしてマッハチェイサーさんじゃないですか!?」

「―――えっああはい、確かに私はマッハチェイサーですが……」

 

不意に声を掛けられて振り向いてみた、そこにいたのは流星が特徴的な鹿毛のウマ娘と額に菱形の流星がある栗毛のウマ娘と―――何処か、ツインターボを彷彿とさせるような赤と青に別れている髪と同じ色のオッドアイをしたウマ娘が酷くキラついた瞳で此方を見つめていた。

 

「ああああああ、あの私マッハチェイサーさんに憧れてトレセンに来ました!!」

「わ、私にですか?」

「はいっ!!!メイクデビューでお見掛けした時からファンです!!!」

 

と早口になりながら鼻息を荒くする姿に思わず圧倒される。そんな彼女を制するように両隣に居たウマ娘が落ち着くように声を掛ける。

 

「本当にチェイスさんのファンなんだね」

「私達も人の事は言えないけどね、私はマックイーンさんが憧れだし」

「うんうんっ私はテイオーさん!!」

「私は断然チェイスさんです!!まさか入学初日から会えるなんて……最っ高だ!!」

「そ、そうですか……」

 

と先程から随分と圧を感じる……しかし、この彼女には何処か既視感を感じた。何処だったか……と記憶を巡らせていると漸く思い出せた、あれは初詣に行った時の事……そう、おみくじを引いた後に甘酒を買おうとした時に―――

 

「もしかして、神社でお会いした……」

「お、覚えててくれたんですね!?ハイあの時にサインと握手をして貰ったウマ娘です!!」

 

脚を揃えながらまるで敬礼のような事をしながらも満面の笑みを浮かべながら挨拶をしてくるウマ娘、自分に憧れを持ってくれた少女が自分の背中を追ってトレセンにやって来た……なんというか、少しくすぐったい。

 

「私、マシンビルダーって言います!!今日からピカピカのトレセン学園生です!!」

「同じくキタサンブラックです!!ビルちゃんとは今日会ったばかりですけどお友達です!!」

「サトノダイヤモンドです、もう仲良しです」

 

三人揃って笑って言ってきた、それにチェイスは先程の曇りが一気に晴れるような感覚になりながらも同じように笑う。

 

「ようこそトレセン学園へ、私はマッハチェイサー。チェイスで結構ですよ、折角ですからチームスピカの所までご案内しますがどうします?」

「行きます行きます行きます!!!」

「是非お願いします!!テイオーさんに御挨拶しなきゃ!!」

「私はマックイーンさんに!!」

「では参りましょうか」

 

先導するチェイスについて行く三人のウマ娘、それぞれ別々の憧れを抱きながらも彼女らは前に進む。そしてそれらを見つめながらもチェイスは何処か前に進んだような気がしていた。これがスペシャルウィークが言っていた誰かに夢を見せる、という事なのかもしれない……と。




実は参拝シーンで登場してたライダーマシン系ウマ娘の二人目。マシンビルダー。タキオンと絡んで化学反応を起こそうと思ってます。

実はこのポジションをオートバジンにしようか滅茶苦茶悩んだ。出すとしたらナリタタイシンみたいな感じの子になるのかな。

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