音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第49話

皐月賞を控えるチェイス、そんな彼女は今日も今日とて最終調整を行い続けている。スピカは今日も変わらない―――という訳でもなく、新学期になってから新メンバーが加入した。

 

「ダイヤちゃん行こっ!!」

「うんっ負けないよ!!」

 

筆頭とも言うべきはキタサンブラックとサトノダイヤモンドの二人。以前からトウカイテイオー、メジロマックイーンのファンとしてスピカメンバー内でも名前は知れ渡っていたしそれがいざ満を持してやって来たという事に喜びを抱かずにいられなかった。互いの目標を以前から知っていた故か、それと同じチームに入れたという喜びもあり、力も入っている。沖野も認める有望株。

 

「チェイスゥ~並走やろうぜぇ~!!」

「分かりましたから取り敢えずそれやめなさい、好い加減にしないとマジで通報しますよ」

「そう言いながらしないくせに~このこの~」

「……」

「あっちょマジすんませんでしたですからあの無表情のまま携帯構えないで……ああお待ちになってぇ!!!」

 

「やふぅ……やっぱりハリケーンさんとチェイスさんの組み合わせはベストマッチ!!」

「バカばっか」

 

ストレッチを行いながらも憧れのチェイスとハリケーンの行いを尊いと乙女がしてはいけないような表情をしながらも拝んでいるマシンビルダーと、それを横目で見ながら罵倒するオートバジン。この二人もスピカに加入した。チェイスに憧れを抱く彼女が加入するのは分かる流れだったが、オートバジンまでもが加入するのは予想外だった。

 

「御二人とも、走るのでしたら一緒に如何ですか」

「是非是非是非!!!」

「……分かった」

 

チェイスが絡めば基本超ハイテンション、そうでなくても基本的にテンションが高めなマシンビルダーと寡黙で他人との触れ合いは何処か不得手にも思えるオートバジン。何処か正反対な二人の面倒はパフォーマンスレースの時の縁もあってチェイスが見る事にしている。

 

「オートバジンさん、お一つ聞いても良いですか」

「何」

「ビルダーさんには私という理由がありましたが、貴方が如何してスピカに入ろうと思ったのか聞いても良いですか?」

 

踏み込んだ言い方をすればなぜあの時、自分の所に来たのかという事だった。ビルダーは分かりやすい、だが彼女は違う。自己紹介の時にも名前以外の事は語らない、何処か消極的というか自分から積極的に情報を口にするタイプではない。分かっている事と言えば……

 

『アチッ!!』

『大丈夫ですか、お水どうぞ。氷も入ってますので』

『ぅぅぅっ……』

 

たっくん譲りの猫舌という所だろうか。一緒に食事した時にラーメンを頼んでいたが、レンゲにとって相当に息を吹きかけて冷ましていたがそれでも熱いと言ってしまう程の猫舌だった。

 

「……別に。アンタのとこに人が居なかったから、うるさいのは嫌だし」

「それならハリケーンさんの所でも良かったのでは?」

「実力が分からない奴の所に行っても意味がない」

 

先程まで一緒だった先輩にこの辛辣な言葉である。矢張りたっくんっぽい、と思っていると何処かそっぽを向きつつもその先を少しだけ話してくれた。

 

「……夢を押し付けてこないから、後その……アンタがホープフルステークスでの走りがちょっとカッコイイと思ったから。ちょっとだけだ、ちょっとだけ」

「そうですか、光栄の極みですね」

「……うっさい、やめろ撫でるな」

 

思わず手が伸びてしまった。オートバジンの頭を軽く撫でてしまうが彼女は口では拒絶するが嫌がってはいないらしい。尻尾は嬉しそうに揺れているし耳の動きもそれを示しているように見える。

 

「……アタシより彼奴を撫でてやったら」

「―――い、いえ私なんて畏れ多い!!」

「では」

「いえ私なんて―――はふぅ……ふみにゅぅ……うへへへへっ♪」

「放送禁止顔になってますよ」

「やっぱりバカだ」

 

羨むような顔をされたのでビルダーにも手を伸ばすのだが、畏れ多いと言いつつも撫でる手を止める訳でも無い彼女は直ぐに蕩けていき、最終的には放送できないようなひどい顔のままチェイスの撫でを堪能し始めるのであった。

 

「チェイス、ンな事より自分の事いいの」

 

取り敢えず酷い顔と乙女が言うべきではないような言葉を連発し続けているビルダーの事は放置して、話をチェイスの事へと持って行く。自分達にとって既にレースを経験している先輩に面倒を見て貰う事は嬉しい限りだが、その先輩は間もなくGⅠのレースであるクラシック三冠の一つの皐月賞に挑むのだ。それなのにそれに向けての練習やらをせずに新人の世話をしている暇なんてないだろうと言いたい。

 

「やるべき事はやってますよこれでも」

 

やるべき事は行っている、タイムもかなりいい結果になっているし今まで以上にスタミナも付いている。最初こそこれで満足するのは不味いと思っていたが、沖野から根を詰めすぎるのは悪い方向になると言われてその辺りの調整をし、気分のリフレッシュも狙って新入生の指導を行っている。

 

「随分と自信あるね」

「自信があるというか……唯やるだけです。それに―――私にとって三冠はあまり気にしてませんから」

「―――はっ?」

 

オートバジンは思わずお前は何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべた。三冠ウマ娘、あのシンボリルドルフやミスターシービー、ナリタブライアンなどが達成した名誉ある称号をあまりに気にしていないというのか。それを目指して幾人ものウマ娘が鎬を削っているのに……。

 

「ゴルドドライブ、知ってますか」

「……知ってる、弥生賞でぶつかったやつでしょ。そいつはティアラ路線に行くらしいけど」

「ええ、約束したんですよ。私はクラシック三冠を、彼女はトリプルティアラを。その冠を得てからもう一度戦おうって、私はその為に三冠に挑むんです」

「何それ、他の連中が目指してる目標とかなのに如何でも良いっての?」

「まあ端的に言えば―――だって私は私ですから、私なりに目指したい物を目指します」

 

その言葉に思わずポカンとした顔になったオートバジンは、我に返るなり呆れたようにそっぽを向いてしまった。

 

「何それ、バッカみたい、ホント……スピカってバカばっか」

「否定出来ませんねバカばっかなのは嫌ですか?」

「……嫌とか言ってないし……」

 

そんな彼女を一度軽く撫でてあげてから立ち上がり、名残惜しそうにするビルダーを見つつも手を叩く。

 

「さて、そろそろ次に行きますかビルダーさんにオートバジンさん」

「はい!!」

「……うん。あとバジンでいい、アタシだけってなんか除け者みたいだし」

 

この時、オートバジンいやバジンとの距離が少しだけ近くなったような気がしたチェイスであった。




なんか、いいよね。素直になれない子が小声で否定するの、いいよね。
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