音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第52話

「……」

「だ、大丈夫かチェイス。凄く疲れているが……」

「……」

 

生徒会室の来客用のソファに倒れこむかのように突っ伏しているチェイス、クラシック三冠の初戦である皐月賞を制覇した彼女。ウイニングライブも完璧にこなし、トウカイテイオー、ミホノブルボンが成し得なかった偉業を達成するのでは!?という期待が込められ更に熱が過熱している―――が、それがまた別の意味でチェイスには新しい問題となっていた。マスコミの取材である。

 

「……町の取材の何倍もパワフルだった……」

「まあチェイスの言うそれはあくまで地方の町の祭りの取材だろう……全国レベルの活躍をしたウマ娘に来るマスコミはそれ以上なのは当然だ」

 

無敗での皐月賞制覇という事で話題性も抜群であるチェイスの元にはほぼ毎日取材の申し込みが来ており、ある程度の取材には受けてはいるがそれでも追い付かない程。早朝の日課すらこなせない程にチェイスは報道陣に追い回されてしまっている。その影響もあってチェイスは今ストレスもマッハで溜まっており、如何したらいいのかをシンボリルドルフに相談にやって来たのである。

 

「朝の日課すら出来ないなんて……」

「よしよし大変だったねチェイス」

 

普段はツインターボに膝を貸している彼女だが、今回ばかりは彼女が膝枕のお世話になっている。三冠ウマ娘のミスターシービーの膝枕である、なんという贅沢……。偶然生徒会室に顔を出していたらしく話に参加してくれた、という事は生徒会室にはミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアンという三冠ウマ娘が勢揃いしている事になる。

 

「チェイスにとっては日本ダービーの重圧よりも日課をこなせない方が余程問題らしいな」

「そのようで」

 

ミスターシービーに頭を撫でられているチェイスの姿は世間で報じられている常勝無敗のウマ娘とは酷くかけ離れている、慣れない環境に悪戦苦闘している少女にしか映らない。

 

「チェイス、お前はエンターテイナーを自称しているのだろう。ならば慣れろ」

「いやぶっちゃけ私はその辺りは気にしません、ウイニングライブでも緊張とかしませんでしたもん。でもそれに挑む為のプライベートタイムが削られているのが問題なのです」

 

エアグルーヴは確かにと顎に手をやる。メイクデビュー戦のウイニングライブからチェイスは一切緊張せずにライブをこなす、これからメイクデビューを行うであろう生徒達の見本として相応しい程に堂々としながらも真面目に行うので関心していた。注目されるのは良い、だが彼女にとって重要なのは早朝に走れないという一点のみなのである。

 

「そんなに大事なのか」

 

ナリタブライアンの問いにチェイスはミスターシービーの膝の上に乗った頭を動かす。最早習慣になっているそれ、朝の冷たい空気の中を走ってこれからの一日を元気に過ごす為の原動力にしている。それが出来ないとなると―――一気に調子が崩れる。

 

「朝食にずっと出て来たものが突然出て来なくなるんですよ、そりゃ崩れますよ。ブライアン先輩風に言うと……朝にお肉が食べられないみたいなもんです」

「成程―――確かに朝に肉が喰えんのは力が出ないな」

「それで納得するのか……」

 

まあ分からなくはないが……兎も角取り敢えず朝はなんとしてでも走りたいというのがチェイスの要望であるらしい。

 

「それならば簡単な事だ、私と理事長の方でそのように話しておこう。彼らにとっても三冠ウマ娘に成りえるチェイスの調子を崩す要因になったなどという風にはなりたくはないから直ぐに利くだろう。良くも悪くも彼らは利益に忠実だからな」

「その分鬱陶しくもあるがな」

「まあそういうお仕事だからしょうがないと思うよ」

 

一先ず何とかなりそうだという事が分かってチェイスはかなり安心した。十年以上も続けている日課が出来なくなっただけでこの有様というのは正直自分でも驚いた、土地勘が無かった頃は覚える為に少しずつ遠出していくようにしていたので感じなかったが……走るという行為に喜びや生きがいを感じているという事を改めて実感した。

 

「ねぇっチェイス、今度また一緒に走らない?」

「はい、それは勿論OKですけど」

「それじゃあ決まりね。前より走りが良くなったか見てあげるよ」

「今度は勝ちますよ私」

「フフフッその意気その意気」

 

エアグルーヴは少しだけ驚いた。あの三冠ウマ娘相手に勝つと宣言する、なんて無謀な……とも思えたがそれを見たシンボリルドルフとナリタブライアンは何処かそれを認めるような笑みを口元に浮かべている。

 

「それじゃあ早速走ろうか」

「えっまた今度って……」

「いいから良いから、ほら走るよ~」

「あ~う~自分で歩けます~」

 

半ば引き摺るようにしながら連行されていくチェイス、笑みを湛えたまま意気揚々と生徒会室から出ていくミスターシービー。それを見送ったシンボリルドルフは書類にサインしつつ少しだけ笑った。

 

「ダービーには最も幸運なウマ娘が勝つと言われている、ならば幸運とは何だろうな、何が幸運を引き寄せると思う」

「天性のものではないのでしょうか」

「それもある、ブライアン君はどう思う?」

「強さだ、意志の強さ」

「私もそう思う」

 

 

「チェイスさん如何しまし……ミスターシービー……さん」

「あれっえっとミホノブルボンだっけ、折角だから一緒に走らない?チェイスと似てる子と走るっていうのも面白そうだし」

「―――是非」

「私の意見は……まあブルボンさんとも走れるのは光栄ですが」

 

 

彼女は速さを証明した、ならば次なる証明は幸運。幸運を引き寄せるのは強い意志。負けない、勝つと言った強い意志が幸運を引き寄せる、ならば如何なるだろうか―――チェイスはそれを持っている。幸運を手繰り寄せる才能のような物を。

 

「さて、彼女はどうなるのかな……いや、三冠よりも此方かな」

 

そう言いながら机の上に広げてあった一つの資料に目をやった。そこには桜花賞でレコード勝ちをしたウマ娘を称える記事があった、そのウマ娘は―――ゴルドドライブ。そして彼女は取材で応えている。

 

『私は必ずトリプルティアラを獲得する、そして―――再びマッハチェイサーと対戦し勝つ』

 

チェイスもそれは知っている筈、つまり―――自分達が得た三冠は彼女にとっては通過点、果たすべきはライバルとの決着だ。

 

「私は少しばかり、チェイスが羨ましいな」

 

レースに絶対はない、だがそのウマ娘には絶対がある。そうとまで言われた皇帝、シンボリルドルフは競い合うライバルがいるチェイスを少しばかり、羨んだ。




最近会長こと、シンボリルドルフの事改めて調べてみたんですがやっぱり頭おかしいですな。ゲームみたいな史実がゴロゴロ出て来やがる。

競い合った馬はいたけどライバルはいなかった、そう言われる程に圧勝し続けた皇帝。うん、やべぇわやっぱり会長。

ウマ娘やってると実際の競馬にも興味沸くし、何だったらダービースタリオンとかウイニングポストとかやってみたくなってくる。

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