音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

53 / 120
第53話

「おっといたいた、探したよポニーちゃん」

「ポニーちゃん?」

 

廊下を歩いている時、不意に声を掛けられた。振り向いてみるとそこにいたのは自分が入っている美浦寮、その一方の寮である栗東寮の寮長を務めつつチームリギルに所属しているフジキセキだった。自分がエンターテイナーとしての名前が挙がっていく内にトレセンの二大エンターテイナーとして呼ばれるようになっていたが、こうして話すのは初めての事だった。

 

「フジキセキ先輩、私に何か御用でしょうか」

「うん、用があると言えば用があるんだがね。あるのは私ではなくてね、君と是非話したいという子が居てね。時間を貰えるかな」

「はい問題ありません」

「感謝するよ」

 

まるで王子様のような雰囲気を醸し出しながらカッコよさと色気を持つフジキセキ、実はチェイスは本人とは全く関係ない所で因縁があった。グラハムがスカウトに大反対した原因のウマ娘、曰く破廉恥だと叫んだ勝負服を纏っているのがフジキセキなのである。まあ当人同士はその事を知る由はないのだが……。

 

「皐月賞は見事だったよ、リギルの皆でTV観戦したが君の走りは圧巻だったよ」

「私はまだまだです、今のままだと―――きっと勝てませんから」

「おやおやおや凄い向上心のポニーちゃんだ、日本ダービーまでに君の満足の行ける走りになるように祈ってるよ」

 

ズレてしまっているが、チェイスは特に気にはしていなかった。ダービーでは満足できる走りをしたいのは事実である。そんな事を想いながらフジキセキに連れられながら歩んでいった先で待っていたのは―――

 

「ビコー連れて来たよ」

 

何処か少年にも見える程に元気が有り余っていてツインターボにも何処か似ている気がする小柄なウマ娘と、ジェットタイガーにも並ぶ……いや体格を含めたら確実に勝っているであろうチェイスよりもずっと大きなウマ娘。

 

「良かったね、ずっとお話したいって言ってたもんね」

「うん有難うフジ先輩!!」

 

待っていたのは二人のウマ娘。一方の小柄なウマ娘はビコーペガサス、そしてもう一方はヒシアケボノ。連れて来られたチェイスにビコーペガサスは勢いよく駆け寄ると目を輝かせながらある事をせがんできた。

 

「お願いっ!!あの変身って奴を見せて!!!」

「―――へっ?」

 

突然すぎるお願いに思わず目が点になった。どんな内容なのかと内心何処かで身構えていただけにそのお願いに拍子抜けしてしまったのだろうか、呆れたような声が漏れてしまいフジキセキはクスクスと笑いながらもビコーペガサスを宥めるように声を出す。

 

「ビコー、チェイスを困らせるような事を言っちゃだめだよ」

「うぅ~分かってる、分かってるけどさフジ先輩、あのキャロットマンみたいな変身を間近で見たいの!!」

「でも気持ちは分かるなぁ~、UMATUBEの急上昇に乗る位だし生で見たいのも分かるよ」

「でしょでしょ!!?」

 

キャロットマンという名前には覚えがあった。仮面ライダーがこの世界にない事を知ってガックリ来ていたチェイスだが、同時にある存在を知った。それが特撮ヒーロー・キャロットマンである。造形的には戦隊シリーズ系だったが、変身に使われるベルトの形状がモロ仮面ライダー龍騎のVバックルで、何だか引きたくなるレバーはフォーゼ、変身に使うアイテムが野菜系なのか鎧武……もう色々と盛り沢山で知った時は全力でツッコミを入れたのをよく覚えている。

 

「キャロットマン、その必殺技と言えば―――」

「ハッ……必殺の―――」

「「キャロットキック!!」」

 

突然の振りにビコーペガサスは声を合わせて言って見せた、そして同時にキャロットマンを知ってるんだ!!と更に瞳を輝かせた。チェイスは基本的に特撮は全部いける口で大人も子供も楽しめる特撮キャロットマンも楽しめた。若干、ライダーを思わせるトラウマ要素もあって懐かしい気分にもなっていたりした。

 

「如何やら話が合いそうで安心したよ。今ので分かると思うけど、ビコーは君の勝負服が凄く気になっているらしくてね」

「うんうんっ!!だってすごいキャロットマンみたいだったもん!!変身ってやってみたいもん凄く!!」

「ビコーちゃんってばずっと話したい話したいって言ってたんだ~、でもなかなか時間取れなかったりして」

「それはそれは……では早速変身しますか」

「えっ今出来るの!?」

 

ビコーペガサスの興奮と驚きに満ちた声に応えるかのように何処からともなくマッハドライバー炎を取り出すチェイスは腰へと押し当てる。ドライバーからは自動でベルトが伸びてチェイスの腰を締めすぎず緩すぎない、だが完全に固定されるよう瞬時に巻かれた。

 

「おおおおおおおおっっ!!!!」

「ビコーちゃんちょっと声落とさないと~でもこれって本当に凄い」

「ああ、私も見てもいいかな?」

「勿論です、では―――参ります」

 

シグナルバイク!!シフトカー!!

 

「Let’s ―――変身!!!」

 

マッハ!チェイサー!

 

「追跡、大逃げ、何れも……マッハッ!!ウマ娘―――マッハチェイサー!!!」

 

目の前で光と共に装着される勝負服、そして完了後のポーズも勿論忘れない。それは本当にキャロットマンの変身シークエンスの流れと同じでありビコーペガサスの瞳は輝きを更に増していくだけではなく全身が凄まじく震えていく。

 

「凄い、凄いよ~それ!!本当に一瞬で勝負服になれちゃうんだ!!」

「いやはやこれは本当に驚いたよ、ビコーが憧れるのも頷ける」

「―――本当に凄い、超凄いよぉ……!!」

 

目の前で変身の光景を見たビコーペガサスは震えっぱなしである。正しく感動と喜びのダブルパンチ。キャロットマンに強い憧れを持つが故。いや、一度は変身してみたい、そう夢見て憧れる人は多い筈だ。そして目の前にそれを叶えるであろう存在が現れる時にどうなるだろうか―――当然、感動に打ち震える。

 

「ね、ねえ一生のお願い!!それ使わせてくれない!!?」

「あ~……出来ればそうしてあげたいのですが、巻く事は出来ると思いますが変身は私の勝負服のみが登録されてますので……」

「そ、それもそうか……」

「でも父さんが予備として幾つか送ってくれると連絡をくれましたので、その時にお願いしてみましょうか」

「良いの!?是非お願い!!」

 

これを機にチェイスはビコーペガサスと深い友情で結ばれた。




ベルトの装着は誰でも可能、但し衣装装着には装着者のデータと衣装の登録が必要なので誰でも変身は出来ない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。