「ではチェイス、私は田んぼに居るから何かあれば顔を出してくれ」
「分かった」
「確りと!!休むように」
「さっさと行って」
ピシャン!!と高い音と共に閉められた扉、追い出すような形になってしまったがこれもさっさと仕事に行こうとしない兄が悪いと自分を正当化させながら居間へと戻って適当なチャンネルを眺める。休養の三日に入るが……どうにも手持ち無沙汰になってしまった感が否めない。端的に言えば暇なのである。
「クリム父さんはドライバーの件で島根のトレセンに行ってるし……まさか私の我儘がこんなにもなるとは……」
テーブルの上に置いて眺めるのは自分のマッハドライバー炎、そしてツインターボ専用に作って貰ったマッハドライバーの2号機である蒼炎。元々自分のドライバーは革新的な物だと言われていてホープフルステークスの一件以来ずっとウマ娘界隈、特に勝負服業界を騒がせ続けていた。現在もマッハドライバーに対する問い合わせなどで常にクリムの電話は鳴っていると言っても過言ではない。
と言ってもマッハドライバーは簡単には増産する事は出来ない、それに使用するにして実質的に専用品になってしまう。なのでその第一段階としてチェイス経由で複数人のウマ娘に使用して貰う事になった。出来ればGⅠで活躍するウマ娘が好ましいと言われたが……チェイスはそれに拘る気は皆無。
「まあ取り敢えず……ターボ先輩に試して貰ってから、かな」
手元にある蒼炎を見つめながらこれを見たらどう思うだろうかという反応を予想する。喜ぶだろうか、いやきっと喜ぶだろうがそれはきっと大きな物だろう。一緒のGⅠレースに出て一緒に変身しようと言い出しても別に驚くつもりはないしその光景を少しだけ妄想する。
『行くよチェイス!!』
『ええ、出来てます』
『『変身!!』』
「……めっちゃ、いぃ……」
同時変身が出来るなんて素晴らしい光景だろうか、是非ともやりたい。そうなると彼女と一緒のレースに出る事が条件になってしまうのだが……そうなると菊花賞の後のGⅠで可能性が一番高いのは……矢張り目標としている有馬記念になるのだろうか。いやジャパンカップなども該当はするのだろうか、取り敢えずその辺りは南坂トレーナーや沖野にも話を聞いてみるしかないだろう。
「……久しぶりに、やるか」
そう言いながらチェイスは自室へと向かう。休養が目的が故に走る事は出来ない、せめて1週間は確り休めとキツく言われているのでまだ走れない。そして今は家に誰もいない、なので―――久しぶりに趣味に没頭するのも悪くないだろう。
「よし」
ウマ娘用のイヤホンを装着してパソコンの前に座り込む、誕生日プレゼントとして貰った自分専用のパソコン。家庭にあるパソコンとしては明らかさまな程にオーバースペック、何せ天才科学者のクリムとその先生であるハーレー博士が共同でパーツを厳選して中身のソフトまで組んだオリジナルパソコン。処理落ちはこのゲームの華とも言われる某地球防衛軍をプレイしても絶対に処理落ちしない。寧ろ絶対に家庭で使うにしては勿体なさすぎる。
「今日は……ハリケーンの事もあるし折角だから鎧武にしようかな」
何重にもパスワードとセキュリティを設定したファイルをクリックしたその奥にあるのは―――音楽作成ソフト、そして幾つもの曲が丁寧に並んでおりその一つを弄る事にする。
「もうちょっと低いよな……あれでも何かこれじゃ無い感が……」
ブツブツと呟きつつもキーボードを叩きつつも自分の記憶に深く刻まれている物と何度も何度も比較しながらそれへと近づけるように努力する。時折机の端に置いてあったチョコを頬張りながらも作業をし続ける。何度も何度も反復し、研磨してボンヤリとしたものではなく明確な形へと仕上げていく。レースの時のような集中力を捧げながら作業する事3時間……
「よし、一旦これで流してみよう」
お気に入りのブルーベリーとカシスのジュースで喉を潤しつつもイヤホンを外してスピーカーの音を上げて全身でそれを感じる。ウマ娘は聴力は良い、だが本当の音楽は全身で聞く物だ。チェイスは生演奏派である。聞き終えると保存を掛けてから身体を伸ばす。
「74%って所か……問題は歌い手だよなぁ……俺が歌った所でなぁ……いっその事、トレセンで誰かに聞いて貰って歌って貰うか。うむそうしよう、ライダー曲復活の日も近いかもしれん……最初はビルドが妥当かないやオーズも良いな」
マッハチェイサー、その名前がそうさせるのか、生前好いていたライダーの曲の復活を夢見ていた。そんな時、携帯が鳴った。
「んっ?」
誰かと思って取ってみると相手はツインターボからだった。直ぐに通話状態にする。
「はいもしもしマッハチェイサーです」
『あっチェイス!?ターボ用のドライバー完成したって本当なの!!?』
「はい、送った画像の通りです。ターボ先輩をイメージして青を増やしたそうですが如何でしょう」
『超カッコいい!!』
蒼炎の完成の報告と実物写真の感想だった。早く使ってみたい、今すぐにでも送って欲しいと大騒ぎで遠くからナイスネイチャとマチカネタンホイザの諫めるような声が聞こえてくるのでどうやら部室から掛けてきているらしい。
「でもまだ最終調整が終わってませんので……」
『えっ~!!?何が終わってないんだ!?』
「勝負服を登録するアイテムの形状ですかね、私みたいな車型のシフトカーかバイク型のシグナルバイクの二択になるんですがどうします?」
『チェイスとお揃いがいい!!』
結果、ツインターボの変身アイテムはシフトカーに決定した……が、それを見た時にチェイスは少しだけ固まった。
「……クリム父さん、これシグナルバイクとシフトカーの間は空けずに流しましょう」
何故そう進言したのか、それは―――見た目がシフトデッドヒートだったからである。
「後、これサイドカーみたいにしましょう。使う時はバイクをサイドカーに嵌め込む感じで」
「んんっ?何故そうするのかね」
「そうした方がカッコいいからです」
「成程カッコいいなら仕方がない」
そちら方面にも色々と理解が深い父でチェイスは心から感謝を込めたサムズアップをし、クリムはそれに同じくサムズアップで応えるのであった。
細かいかもしれないがこういった拘りは大事なのである。