音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第60話

久方ぶりに履くシューズの感触を確かめるようにつま先で地面を蹴る。漸く1週間が過ぎた、ジッとし過ぎたからか僅かながらに身体が重くなっている気がする。疲労を抜く為とはいえ何もしないのは思った以上に退屈だった。これもレースの楽しさを知ったせいかと思うと少しだけ後悔の念が浮かぶが、動けるようになったと思うと直ぐにそんな物は消える。

 

「うん、もう大丈夫……ホッ!!」

 

その場でステップを踏みつつ軽く踊ってみる。と言ってもウイニングライブで披露するようなダンスではなくガチガチのブレイクダンス。前世でガンフォームのダンス再現をしようと思って挫折したものだがウマ娘の身体能力がある今では完璧に再現出来てしまう。

 

「よっ……と」

 

最後に派手にウインドミルを決めてから立ち上がる。手芸でも勉強して自作で衣装でも作ってガンフォームコスでもやるかと思う一方でそういえばコミケとかってこの世界あるのかなと思い始める。アグネスデジタルがそんな事を言っていたような気がするのであるとは思うが。

 

「おっ?お~お~!!やっぱりぃチェイちゃんだ~!!」

 

何やら興奮したような声を上げながら駆け寄ってくる音が聞こえる。振り向いてみるとバカでかいリュックを背負ったまま道路を爆走してくるウマ娘の姿が見えた。ルビーのような真紅に金色のメッシュが入っている髪を靡かせながら笑顔が眩しく、急ブレーキを掛け笑顔を振りまきながらサムズアップで自分に挨拶をして来た。

 

「何だ帰って来てたなら言ってくれたらいいのにさ!!」

「お久しぶりです先輩、一応1週間前からいたのですが……」

「えっ嘘ってそう言えば1週間前って私が出掛けた時だったような……」

「……相変わらずの放浪癖ですね」

「せめて冒険癖って言って欲しいな~」

 

何も変わっていない事に安心を覚えれば良いのか、それとも呆れれば良いのか正直言って分からないのだが……取り敢えず元気で居てくれる事を喜んでおこう。

 

「一先ずお久しぶりですビートチェイサー先輩。また何処かにお出かけに?」

「五つ越えた山にちょっとね」

 

彼女はビートチェイサー、父親の影響で走るよりも冒険する方が大好きという変わり種。何時の間にか出掛けていて帰って来た時には必ずお土産を持って配るのがお決まりのパターン。そんな放浪癖の影響か、大学生にも拘らず休学しがち……なのだが別の方面でもかなり優秀なのか問題になっていないかとか……。

 

「今回ので良い論文が書けそう~♪」

「まあそれは良かったとは思いますが、偶には真面目に授業に出たらどうです?先生泣いてますよ多分」

「う~ん……気が向いたらね♪」

 

サムズアップと共に笑う先輩に溜息が漏れる。真面目にしていれば学校一の秀才なのに……そんな彼女だが、恐らくだがレースに出ても相当に強いとチェイスは思っている。何せ、彼女が行くのは未開のジャングルだったり無人島ばかり。そんな土地ばかり行くので肉体も相当に鍛え込まれている。随分前にスカウトを受けた事もあるという話も聞いた。

 

「いやぁニュース見てビックリしちゃった、無敗の二冠なんて先輩として鼻が高いよ」

「それは嬉しいですが、失礼ですけど先輩に何かをして貰ったという記憶はないのですが」

「どっちかと言えば迷惑かけたもんね」

 

訪ねて来たと思ったら全身泥だらけ、木の枝や葉っぱが付きまくる、空腹の状態で庭先で倒れこむなどなど……毎回毎回仰天するような姿でやって来るのがビートチェイサーだった。だが、身なりを綺麗にしてから語ってくれるのは自分がして来た冒険譚だったりお土産の出自だったりと楽しい話ばかりだった。

 

「まあ兎も角元気そうで何より何より~後はいこれ、お土産のタケノコの山」

「あっどうも―――」

 

思わずお菓子かな?と思ったのだが……リュックの中から大量の筍が山のように出て来た。少しもすれば庭の一角に筍が積み上がって出来た小山が完成した。

 

「―――マジの筍の山……?」

「いやさ、知り合いのお爺ちゃんが畑を荒らしてるイノシシで困ってるって言うから退治してあげたら竹林持っててさ。御礼って事で一杯貰ったんだよね、あと30分ぐらいで猪のお肉も来ると思うよ、これからなんだっけ……そうそう菊花賞なんだからパワーつけなきゃいけないんだから!!だからパーティやろパーティ!!」

「あっはい、有難う御座います……でも処理、如何しよう……」

「それなら大丈夫、助っ人にカブっちゃんディケたんと呼んでるから」

「あの二人をそんな風に呼べるのは先輩だけですよ……」

 

脳裏を過る二人のウマ娘、チェイスとしては二人も良い先輩ではあるが色々と性格が強烈なので少しだけ苦手意識がある。年上だろうが立場が上だろうが平然としながら意見を言える程に胆力に富んでいる二人をちゃん付け&たん呼び出来るのは彼女位だろう。

 

「さあさあ早く仕込んじゃお、私も手伝うから。ドラちゃんに話聞かれてるからいっぱい作らないとマジで一瞬でなくなるよ?」

「それを早く言ってくださいマジで今すぐ始めないとダメじゃないですか!!?」

「アハハハッ!!そうだね~私達が食べる分まで食べられかねないもんね~」

 

如何やら暇なんて言っている状態ではなくなってしまった、パーティをやるのは決定事項な上にあの大食漢が来るなら本当に急がなければならない。あのオグリキャップと良い勝負をする程なのだから……。

 

「というか何で私の家なんですか会場!?」

「だってチェイちゃんの記念パーティーだし」

「ああもう駄弁ってる暇がない、先輩は取り敢えずお二人を早く連れてきてください!!」

「合点だ!!」




ビートチェイサー

天倉町在住のチェイスの先輩。
別名2000の特技を持つウマ娘。
中央からスカウトを受けた事があるが、あまり覚えていないらしい。
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