音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第69話

「よしゴール!!」

 

合宿は一日中トレーニングが行われる。特別なメニューでもある為に普段の物よりも厳しい、初めての合宿にもなるメンバーもそれを感じつつも必死にメニューをこなしている。

 

「一着、ね」

「やっぱりスズカ速ぇな~まあ二着のゴルシちゃんも中々の物だとは思うでゴルシ。だけどこれからゴルシちゃんの時代ナノーネ、故に絶対に負けないでゴルシ」

「何なんですのその語尾……」

 

合宿であろうとも先頭を譲る気皆無のサイレンススズカが今回もまた一着をもぎ取った、次々とゴールを決めていく中で最後にチェイスがゴールしてメニューが終了する。チェイスが入る前に行われた合宿のトライアスロンを一部変更したメニューを行ったが……矢張りというべき強さを見せつける面々にキタサンブラックらは憧れと感嘆の声を漏らしていた。

 

「やっぱりテイオーさん達凄い……あんなメニューをこなしてるのにまだまだ余裕そう」

「今すぐにでも走り出せそう、私達も何時かあんな風になれるのかな……ねっバジンちゃん」

「興味ない」

「相変わらずだなぁバジン」

 

そんな言葉を漏らすのは先輩ではあるものの、合宿は初体験なので其方に混ざりながらも監督役のような事をしているハリケーンだった。島根トレセンでは合宿はした事が無かったが、友人同士で似たような事はした事はあったのだが……流石に専門職の組んだメニューとは雲泥の差を感じている。

 

「はふぅぅぅ……しかしチェイスさんも全く平然とゴール、ぁぁぁ堪らねぇぜ……!!」

「お~い乙女が出していい声じゃないぞ~……まあ、チェイスのボディは中々にけしからんけどね」

「「ぐへへへ……」」

「バカ、本当にバカばっか」

「ア、アハハハ……辛辣だねバジンちゃん」

 

実際にそうだろうと鼻を鳴らすバジンは気持ち悪い笑みを漏らすビルダーとハリケーンを一瞥するが、その端でチェイスを見つめた。荒い息のまま額の汗を拭って次のトレーニングへと向かおうとする姿は次の菊花賞を確実に取る為と言わんばかりだが……違う気がした。

 

「どしたんだろチェイス」

 

 

チェイスの基本メニューは脚力強化、というのも菊花賞は3000mの長距離レースとなっている。スタミナは十分ではあるが、それを走り切る精神力とトモを作り上げる為。砂浜での走り込みや海に入り水の抵抗を受けたまま出来るだけ走るというものが多くなっている。

 

―――辛い時こそ脚を上げる、苦境にも負けない強いトモを作れチェイス。

 

「……何も考えるな、唯やるだけだ」

 

未だに、チェイスの頭には不快なモヤが掛かり続けていた。如何すれば晴れるのか全く分からないままただ時間だけが進んでいた、分からない事に時間を使うべきではないと無視するが……漠然とした不安が少しずつ大きくなり始めていた。

 

「お~いチェイス~一緒に走ブッフェッ!!?」

「タ、ターボ先輩!!?」

 

必死に今出来る事をこなし続ける時、突然水柱が舞い上がる。此方を見つけたツインターボが一緒に走ろうと誘う為に海へと入ってきたのだが……チェイスに比べて体格が小さかったうえに運悪くその時に大きな波が来てしまったので飲まれた上に躓いてしまって見事に沈没。チェイスも驚愕して其方へと急行する。

 

「ターボ先輩大丈夫ですか!?この辺りは深いから気を付けてとトレーナーさんが言ってたじゃありませんか!」

「ボボボ!!ボボゥボボボボッアバァァ……」

 

沈没した上に上手く脚が付かずに立てないでいるツインターボを大急ぎで引き上げる、口から海水を吐き出す様はマーライオンめいている。取り敢えず無事であるようで安心した。

 

「いやぁっ……チェイスと一緒に走りたくてつい」

「そう言って頂けるのは有難いですけどせめてもうちょっと気を付けて……」

「大丈夫、ターボは強いしチェイスの先輩だから!!」

「普段だったら頼もしいんですが沈没直後では……」

「うっ……」

 

まあ兎も角、このままでいる訳にもいられないのでツインターボを抱いたまま一旦海から出る事にした。

 

「よし、じゃあ一緒に走るかチェイス!!」

「少しは休んでからの方がいいのでは……」

「大丈夫、ターボは強いから!!」

 

Vサインを作って笑いかけてくるツインターボに素直な尊敬な気持ちとその前向きさが羨ましくなった。自分も彼女のようであればこんな悩みを抱える事なんてなかったのだろうか……。

 

「如何したチェイス、なんか顔暗いぞ?」

「ッ……いえ少し考え事を」

 

顔を覗き込まれて思わず飛び退いてしまった。何時の間にか顔を下に向けてしまっていたらしく、ツインターボからしたら覗き込むというよりも見上げる形ではあるがらしくもないし元気のない後輩を心配しただけ。

 

「あっ分かったぞ、合宿で疲れてるんだな!!スピカの練習は中々にキツいらしいからな!!よしターボがトレーナーに直岩盤してやるぞ!!」

「いえそういう訳では……ってもしかして直談判の事ですか?」

「そうとも言うな!!」

「そうとしか言わないと思いますけど……何処の王子ですか直岩盤って」

 

そう思いつつも、素直にツインターボと話していると何処か胸が楽になっているような気がした。

 

「チェイス、何か困ってるなら相談乗るぞ!!だってターボはチェイスの先輩だからな、後輩は先輩に頼る物だ!!」

「……頼って、良いんでしょうか」

「いいぞ、寧ろターボが頼り過ぎてたからお返しに何かしないといけないからな。さあ来い、ドンと来い!!」

 

と胸を叩きながら張り切っているツインターボ、そんな彼女に甘えるようにチェイスは素直に話す事にした。例え有力な解決策が出なくても話す事でこのモヤモヤを少しは晴らす事が出来るかもしれないという希望を抱きながら。


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