音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第70話

練習メニューをこなしている皆の面倒を見ていた沖野は役目を果たしつつもスランプになってしまったと思われるチェイスの事を考えていた。が、そこへメニューを終えて戻って来たメンバーがやって来た。思わず呟いてしまった言葉がどうやら聞こえてしまったらしく、スペシャルウィークが大きな声で聴いてきた。

 

「チェイスちゃんがスランプって本当なんですか!?」

「多分、だけどな……あいつなんか抱えてるっぽい」

 

レースに限らず、こう言った事にスランプというものは付き物。怪我による不振、環境の変化による不振、理由は様々であるが調子を一気に崩してしまうウマ娘は実際に多い。スピカメンバーで言えば分かりやすいのはトウカイテイオーだろう。怪我もそうだが、無敗での連勝を続けていたがメジロマックイーンとの天皇賞春との勝負に敗れ、少しの間成績が振るわなかった時期があった。

 

「でも何が原因なんだろ、ボクが見る限りチェイスって調子も良いと思ってたんだけど」

「順調にタイムも伸びてますし、如何したのでしょうか」

「そこが分かんねぇんだよなぁ……」

 

何か切っ掛けになったのかさえも分からない、此処までのチェイスは正しくミホノブルボンの再来と言われる程の連勝をし続けており最高潮をキープし続けている。そしてそこから更に前へと進み続けており停滞ではなく成長。何がスランプに結び付いたのかも把握できない。

 

「なんかあったのかしら、ホラッ否定的な記事を見つけてとか」

「なくはねぇだろうけどチェイスってそれを気にするようなタイプかよ、嫌な警察官に絡まれても平然とするような奴だぞ」

 

そう、ダイワスカーレットの言葉を否定するウオッカの言葉通りにチェイス自身は性格的にかなり強固。現職警官が圧力を掛けようとしてきても屈しない程、故に余計に分からないのだ。

 

「ならこのゴルシちゃんが何とかしてやるよ」

「えっ何とか出来るんですかゴールドシップさん!?」

「モチのロンよ、ゴルシちゃんとマグロ漁に行けばスランプ一発よ」

「駄目みたいですね」

 

サイレンススズカの言葉通りに対処法が見つからない。思わず空を見上げた沖野は溜息混じりに言う。

 

「チームトレーナーなのに情けねぇ話だ……ツインターボに頼るしかねぇか」

 

 

 

「という事なんです」

「ホウホウ……」

 

ツインターボと対面するように腰を下ろして自分の悩みを素直に打ち明けるチェイス。訳の分からないモヤが掛かってしまって如何すればよいのかという事を尋ねる、それに真剣な表情で聞きながら唸るツインターボ。なんだかんだでツインターボもシニアクラスで走っているウマ娘、彼女ならばきっと良い案を貸してくれる―――

 

「ターボ分かんない!!」

「……そうですか」

 

という訳もなく、ドヤ顔のまま大きな声で分からないという返答をされてしまった。個人の内面、そして当人としてもなんとも分からない物なので他人であるツインターボには感じづらいので如何にも出来ないというのは分からなくはないのだが……余りにも正直に分からないと言われて流石のチェイスも言葉に困っていた。

 

「でも諦めるなんて駄目だぞ、チェイスは何時かターボと一緒にGⅠレースを走るんだから!!」

 

分からないと言いつつもツインターボは只管に強い言葉を掛け続ける、そこにあるのは心から自分を尊敬する後輩と共に最高の舞台で走り競い合いたいという夢に近い目標。その為に走り続けて欲しいと思っているのは真実。

 

「……走れ、るか分かりません……」

「チェイス?」

 

如何しようもない不安が押し寄せてくる、このままモヤが晴れる事が無かったらどうすればいいのだろうか。このまま菊花賞で勝つ事なんて絶対に出来ない、そうなったら自分は……どうなってしまうんだろうか。

 

「駄目だよ暗い事ばっかり考えたら!!」

「でも……」

「じゃあチェイスは何で走ってるんだ、如何してレースに出たんだ?」

 

無理矢理にでも思考を切り替えさせないとダメだと思ったのか根本的な事を問いかけた。

 

「……それはスカウトされたからです」

「いやそうじゃなくてえっと、こういう時って何て言えばいいんだ!?」

 

あーでもないこーでもないと頭をひねって何とか言葉を作ろうとするツインターボ、如何すれば良いのかもう分からなくなってきたのでそれさえもリセットする事にした。その時閃いた。

 

「そうか、分かったぞ!!そうかそうだったのか、チェイスの悩みとは……!!」

「あのなんかその言い回し色々と危ないのですが……」

「チェイスの悩み、それは―――プレッシャーだ!!」

「プレッシャー……ですか」

 

と言われてもピンとこないのが素直な感想だった。これ迄のプレッシャーは感じて来たつもりだったしそれがこのモヤモヤの原因だと言われても本当にそうなのかという疑問しか浮かんでこないのである。

 

「先輩は如何してプレッシャーだと……?」

「チェイスって確か天倉町の人たちの為に走ってるって言ってたよね」

「はい」

「んでその為に走って来て、勝ち続けて今になる。つまり―――そういう事だ!!」

「あの、全然分からないんですけど……」

 

自信満々に告げられても全く分からない。詰まる所どういうことなのか……。

 

「だ~から~チェイスはこれまで勝ち続けてクラシック二冠、ドルドゴライブってライバルも今はいるでしょ?」

「ゴルドドライブです」

「そうそれ!!そのライバルとの約束とか天倉町の為に走るっていうのが圧し掛かって来てるんだよきっと、次負けたら如何しようっていうのも多分だけどきっと思ってるぞ無意識に。特に菊花賞なんて凄い注目を集めるレースだしな、重圧も大きくなって当然だ!!」

 

天倉町の愛に応える為に走る、それが自分の走る理由だった。だが―――何時しかそれが呪縛のような変化を遂げていたのかもしれない。そしてゴルドドライブとの約束、三冠を手にして有記念で決着を着ける、それを強く意識するような段階になり菊花賞でそれが決まると言ってもいい。それらが圧し掛かって着るのかもしれないとツインターボは見抜いた。

 

「なら、私は如何すれば……」

「そんなの簡単だよ―――チェイス、ターボと勝負だ、全身全霊を掛けた真剣勝負だ!!!」


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