音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第73話

様々な意味ですっきりとした夏合宿も終わっていよいよ秋へと入った。この時期からメイクデビューを行うウマ娘も多くある意味では新人にとっては一番重要な時期にもなってきてキタサンブラック、サトノダイヤモンド、マシンビルダー、オートバジンも早くデビューしたいという思いを爆発させようとしている―――がそれ以上に気合が入っているウマ娘もいる。

 

「―――ずっと……チェイサーッ!!」

 

チェイスことマッハチェイサーである。菊花賞まで残りは一か月、それまでに万全な状態にまで自分を仕上げなければならないと熱が入っている。感じていたスランプを完全に乗り越えた事で一段と大きくなったような印象を抱かせる。そして―――

 

「トレーナー、彼奴チェイスやばくね?」

「トモを強化するメニューを中心にしたとはいえ、これは……」

 

「お、追い付けないっ……!?」

「ま、マジかよ!!?」

 

スペシャルウィーク、ウオッカを完全に振り切って独走していくチェイス。だが彼女の目にはその二人は最初から眼中になかった、あるのは―――目の前で走っていた一人のみ。

 

「今日こそ勝たせて貰いますターボ先輩!!」

「やってみせなよチェイス!!」

 

ツインターボである。今日も今日とて行っているツインターボとのレースに先行バと差しバとして混ぜて貰う形になっていたスペシャルウィークとウオッカだが、最早二人が追い付ける距離ではない程に爆走し続ける二人に思わずゴールドシップと沖野も呆然とそれを見つめるしかなかった。彼女も彼女で今年こそGⅠレース勝利を目指して夏合宿は人一倍努力しており、チェイスと同じメニューまでこなしていた。その影響は如実に出ている。

 

「凄い、ですね……ターボさんがこの距離で全くバテないなんて……」

「以前のターボとは別人だね!!」

「ええ、今回の2400でターボはほぼフルスピードを維持し続けています」

 

南坂の言葉にマチカネタンホイザとイクノディクタスも同じような言葉を漏らさずにはいられなかった。ツインターボが合宿で普段以上に頑張っていたのは分かっていたが、それが此処まで現れるなんて思いもしなかった。残りが400切ろうかという所で―――二人は一気にスパートを掛ける。

 

「―――ずっと……マッハッチェイサァァァァ!!

全力全開MAAAAAAAAXツインターボ!!

 

全く同時に掛けられるスパート、瞳から光を溢れさせるチェイス―――そしてツインターボはそれに対抗するかのようにその走りは一気に鋭さを増していく。それはまるでチェイスのマッハチェイスのようなだ。それを証明するかのように瞳からは光が溢れており、彼女のツインテールの先が青白く光を纏っているように見える。

 

「もしかしてターボさん……」

 

「「貰ったぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

最後の直線勝負、最終スパートを掛けていく二人は咆哮にも似た雄たけびを上げながらゴールを決めた。一体どっちが勝ったのかとこれは模擬レースでも気になると皆が見る中でトレーナー二人が握っていたタブレットに映っているタイムを見ると……

 

「ギリギリ、ターボさんが逃げ切りましたね」

「0.61秒差でチェイスが負けてるな」

 

「よっしゃああああ!!!!これで破竹の15連勝ぉ~!!!」

「また、また負けたのかぁ……」

「フッフッフッこのターボ先輩を越えようなんてまだまだ甘いのだぁ!!」

「……そう言いつつも私が勝ったことはあるんですけどね」

「ウグッ!!?」

 

肝心の二人は何時ものようにじゃれ合っている、なんというか合宿が終わって更に仲が良くなっているような印象を受ける。まあチェイスのスランプを取り除いたのはツインターボなのだからそれは当然なのかもしれない。

 

「だけどこのタイムは……ターボさんの2400mでは最高の記録ですよ」

「えっマジで!?」

「本当ですよ、ほら」

「おおっ~!!!」

 

自己記録の更新を図らずもやっていた事に大喜びのツインターボ、しかも驚くべき事なのはあれだけの速度で走っていたのにぴょんぴょんと飛び跳ねられる元気がまだ余っているという点にある。こういっては失礼かもしれないがレース後は力尽きてチェイスに膝枕されていた印象が強い為か、本当に別人のように見える。

 

「これなら天皇賞秋は大丈夫だな!!」

「えっ師匠天皇賞に出るの?」

「そう、ターボは天皇賞に出るのだ!!」

 

初のGⅠレース勝利として狙っているのはなんと天皇賞秋、確かに中距離のGⅠレースならばそれを狙うのは当然かもしれない。だが同時にスピカ内に緊張が走る、何故ならばスピカからも天皇賞へはサイレンススズカ、トウカイテイオー、そしてメジロマックイーンが参加することを決めている。

 

「こりゃ負けてられないな、ウチもターボに負けないように頑張らねぇと」

「まっけないぞ~!!特にテイオー、改めて勝負だ!」

「よ~し負けないよ、スズカにだってボクは負けないからね!!」

「ええ、私も負けてられないわ」

「受けて立ちますわ、メジロ家に恥じぬ走りで」

 

全員やる気十分、言うなれば此処に居る全員が勝利を狙うに相応しいだけの能力を持ち合わせている。誰が勝っても可笑しくはない。沈黙の日曜日とも言われた悲劇を塗り替えるサイレンススズカか。不屈の帝王であるトウカイテイオーか、天皇賞の盾は渡さないと誓う名優メジロマックイーンか、それとも急激に力を付けた逃亡者ツインターボか。本当に楽しみなレースとしか言いようがない。

 

「でも本当な菊花賞に出たかったなぁ~チェイスと走りたかったぞ」

「まあ流石にそれはね」

「でしたら有記念しかありませんわね」

 

その言葉を聞いて心からもっと走りたくなって来たチェイス。尊敬する先輩たちと走る前にまずは―――菊花賞だ。




番外編としてアプリのストーリーみたいなのを書くのも最近良いなぁ~と思い始めてます。


彼女はだれの為に走るのか。

追跡者はなにを思うのか。


みたいな感じになるのかな。まあその場合は完全なIFで進之介と霧子は存命かな。

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