音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

78 / 120
第78話

「やぁっチェイス、思ったより元気そうで何よりだ」

「ルドルフさん、ええまあ元気だとは思いますよ」

 

スピカとカノープスの面々が帰った翌日、病室へと尋ねて来たのはシンボリルドルフ、ミスターシービーだった。直ぐに身体を起こそうとするがそのままで居てくれと釘を刺されてしまった。代わりに直ぐに角度を付けて貰って座っているに近い形にして貰う。

 

「改めて三冠おめでとう、私以来の無敗の三冠ウマ娘の誕生を祝いに来たよ」

「私もお祝いに来たよ、本当に凄かったよチェイス」

「有難う御座います」

 

本当はこの場にエアグルーヴと東条トレーナーも来る筈だったが、リギルの事もあるし生徒会として処理しなければいけない事もある。なので実際はシンボリルドルフも出来るだけ早く帰らなければならないのだが、如何しても話がしたかったので先延ばしにさせて貰った。ミスターシービーは普通に生徒会長に比べれば気楽な立場なので普通に残った。

 

「しかし君も無茶をするな……あんな状態で走るなんて、恐らく私でもしないぞ」

「ホント、あの脚で良くもあんなスパート掛けられたって思う」

 

と三冠ウマ娘である二人の先輩からお前どうなってんだよと言わんばかりの視線が向けられる、実際自分も中継映像の録画を見て客観的に自分がどんな状況なのかを見てみたが……本当にあの状態からよくもあんな加速を掛けられたと思う。

 

「実際激痛でした、でも何て言うんでしょうね……如何でもいいかなって」

「……良くもそんな事を言えるな」

「実際そうですし」

 

アドレナリンドバドバで痛みを抑えつけていたというよりも、もっと理性的な物が痛みを越えていた気がした。此処で脚を止める事は出来ない、走り切る、どんな事があろうとも、そんな気持ちだけで走っていた。

 

「夢を背負っちゃってますから」

「その言葉は私達からすればどんな言葉よりも説得力があるね、ねえルドルフ」

「全くだ。それを持ち出されたら何も言えないさ」

 

絶対の皇帝、禁忌を破った者、その二人にとってはその言葉だけで十分過ぎる。そしてチェイスは次は自分の願いを叶える番だと拳を強く握った。

 

「でもこれで気兼ねなく有記念に望めます」

「ゴルドの事ね、あの子も凄かったな~」

 

菊花賞よりも早く行われたティアラ路線の最終レース、秋華賞。それに出場したゴルドドライブは―――宣言通りにトリプルティアラを獲得した。彼女は約束を守った、そしてその記者会見で堂々と宣言をしてくれたのだ。

 

『チェイス、私は約束を守った。次はお前の番だ―――先に待ってるから』

 

まるで恋焦がれる乙女のような熱い想いが込められた言葉、それだけが彼女がインタビューで口にした言葉だった。そう告げると早々に彼女はその場を後にした、彼女にとってはもう完全に次の狙いは有記念に向けられているのだ。いや、最初からそこしか見ていなかったのだろう。トリプルティアラすら踏み台にしていくその姿に様々な感情を向けるが、それらを全て実力で捻じ伏せた。

 

―――その実力を一人のウマ娘に定めて放とうとしている。それに応える義務がある。

 

「今年は嘗てない盛り上がりになりそうだ。なんせトリプルティアラとクラシック三冠であるウマ娘の激突、さて何方が勝つのだろうな」

 

何処か悪戯気な言葉を作るシンボリルドルフだが、彼女も本心で何方が勝つのかという思いが滾ってしまっている。これ程迄の状態で開催される有が過去にあっただろうか、いや無い筈だ。無敗の三冠ウマ娘、敗北はそのウマ娘のみのトリプルティアラウマ娘。

 

「それでチェイス、そう言う事を言えるって事は怪我は大丈夫って事で良いんだよね?」

「はい。リハビリ含めて全治1か月という所です」

「それなら問題は無いな、流石にジャパンカップに間に合わないがそもそも出る気はないのだろう」

「ああ、そう言えばありましたね」

 

とそんな事を言うチェイスに思わずシンボリルドルフは苦笑し、ミスターシービーは大笑いだった。久方ぶりに見るチェイスのボケのような素の反応、あのジャパンカップをそんな物もあったか、と言ってしまうこのウマ娘は本当に……。

 

「まあジャパンカップは……如何でも良いです、眼中になかったですし」

「アハハハッチェイス貴方本当に最高!!」

「あの、何でそんな笑ってるんですかシービーさん……?」

「だってねぇルドルフ!?アハハハッ!!!」

「当てつけかなシービー」

 

絶対の皇帝と呼ばれているシンボリルドルフだが、彼女でも敗北を喫した事はある。数多くの勝利よりも敗北を語りたくなるとさえ呼ばれる、その敗北の一つがジャパンカップだった。それを如何でも良いというのでミスターシービーは爆笑しているのだろう。流石に腹が立つのか語尾が強めになっている。

 

「あ~久しぶりに笑った笑った、今年のジャパンカップは別の意味で荒れそうな気がする。だってチェイス出ないんだもん」

「まあ怪我の事もあるだろうから理解はされるだろう、怪我の事も考えると無理をしてでないのは正しい」

「治ったとしても出ませんけどね」

 

此処までハッキリ言うとシンボリルドルフも何だか笑えて来てしまった。彼女からすれば海外から来るであろう強豪ウマ娘なんて眼中にない所か名前も知らなければ知ろうとする興味も沸かない、恐らく偶然耳に入るか誰かに言われなければそのまま知らないままで終わる事もあり得る。興味があるのはライバルであるゴルドドライブとの決着のみ。

 

「じゃあチェイス、ゴルドがそこでも勝負しよう!!っていったら?」

「出ようとすると思いますね、まあそれで間に合わなかったらゴルドに急に約束増やしたのが悪いって文句付けますけど」

「やれやれ、何処までもライバルが優先か」

 

なんというか、このマイペースさというか恐いもの知らずさと言えばいいのか……スカウトした時と全く変わらないと思わず微笑むのであった。




次回は……お見舞いか掲示板回かなぁ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。