音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第81話

「すっごいですよこれ!!」

 

思わずそんな声を上げたのは日本総大将ことスペシャルウィーク、そんな彼女がいるのは東京レース場。今日は天皇賞秋、チームスピカからはトウカイテイオー、サイレンススズカ、メジロマックイーンというメンバーが参加する。どのウマ娘も実力は正しくトップクラス、故に一番人気から三番人気はこの三人が独占していた。しかも殆ど僅差が無い程に人気が集中しているので彼女は思わず声を上げてしまった。

 

「スズカが一番でマックイーンが二番、テイオーが三番……か」

「なんかテイオーが一番下ってなんか違和感あるわね」

「つってもある種順当だろ?てか、どうせ誰が一番下でも俺達は違和感あるっていうぜ多分」

 

ウオッカのそんな言葉に確かに、と全員が苦笑するのであった。パドックでの様子も順調、きっと問題ない。

 

『さあ四番人気、ツインターボがパドックに入ります』

 

そしてそれに続く人気のツインターボ、スピカとしては敵ではあるがある意味では一番警戒心が薄い。チェイスの事もあるので何というか、チームメンバーの一人にように思ってしまうのだ。そんな彼女は体操服のまま出て来た、皆が困惑するよりも先に―――腰のベルトに目が行った。

 

シグナルバイクシフトカー!!

 

「……変身!!」

 

ツインッターボ!!

 

 

収められたシフトカーと共に噴き出す蒼い炎、そして光に包まれたツインターボ。まるでチェイスのような変身を決めながら勝負服へと変化した。この事に観客たちは大盛り上がり。ツインターボにあっているというのもあるが、これが同じように他のウマ娘達もあれを使う日が近いのではないかという現われでもあるからだ。

 

「やっぱあれカッコいいよなぁ!!くっそぉ~俺もあのレースに勝てたらなぁ!!!」

「まあしょうがないわよ、次のレースに出るしかないわよ」

 

トレセン学園ではマッハドライバー争奪戦とも言うべきレースが開催されていた。そのレースで全てのマッハドライバーが配布されたわけではないが、それでもレースに勝ってドライバーをゲットしたウマ娘はいる。ウオッカも参加したが生憎あと一歩届かなかった模様。因みのその時にドライバーを手にしたのはミホノブルボンだった。

 

「でも……なんか、ツインターボさん凄い気合入ってますね」

 

スペシャルウィークの言葉に思わず沖野も同意してしまう、掛かっている……と言う訳ではないが普段の彼女とは考えられない程に集中しているのか目つきが鋭くなっている。このレースはスピカでの争いと取り上げている新聞もあるが、今の彼女を見るとそんな事は言えなくなる。

 

「こりゃ……今回のレース、荒れるぞ」

 

 

『ウマ娘たちが追い求める一帖の盾。鍛えた足を武器に往く栄光への道、天皇賞秋!!』

 

「マックイーンさ~ん!!頑張れ~!!」

「テイオーさ~ん!!」

「スズカさぁ~ん!!!」

 

「せぇ~の……」

『ターボファイトォ~!!!』

 

それぞれを応援するサトノダイヤモンドにキタサンブラック、そしてスペシャルウィーク。三人揃って別々を応援する姿に思わず笑みを零していると少し離れたところから聞き慣れた声が聞こえてくる、それはカノープスの声だった。

 

「ターボさんやっぱりいい仕上がりですね」

「うんうん、気合も十分だもんね!!」

「でもなんかターボっぽくない感じもするよね、凄い集中力だけど」

 

ナイスネイチャの言葉には思わず全員が同意する。ツインターボはレース前でも元気いっぱいと言った様子で跳ねまわる位のタイプなのに今は静かに瞳を閉じて集中している様子が見えている。何ともらしくない……と言うのも失礼かもしれないが、見慣れない姿に違和感を覚える。

 

「しかし今日のターボさんの仕上がりは過去最高レベルです。上位に入るのは確実―――いえ訂正します、ターボさんが勝ちます」

「そだね。近くで見てきたアタシたちが信じるのが一番だよね」

 

今日までツインターボは本当に頑張っていた、それも全て勝つ為、自分が勝手に宿敵と呼んでいたトウカイテイオーに勝つ為、そんな彼女に勝ったメジロマックイーンにも勝つ為―――そして、自分よりも速いと言われ海外でも勝利した異次元の逃亡者を越える為に。そう思ってナイスネイチャたち、チームカノープスは一丸になって天皇賞秋の為にサポートをして来た―――が違うのだ。

 

『各ウマ娘ゲートに入って、体勢整いました』

 

トウカイテイオーに勝つ為ではない、メジロマックイーンを越える為でもない、サイレンススズカより速く走る為でもない―――彼女は、自分が勝つ為に此処に来たのだ。

 

『勝利するのは不屈の帝王、トウカイテイオーか!?それとも名優、メジロマックイーンか!?はたまた沈黙の日曜日と同じく1枠一番、一番人気でそれらを破るサイレンススズカか!?さあ今、スタートしました!!』

 

ゲートが開き、遂に天皇賞秋が始まった。

 

「いっけぇ~テイオーさん!!」

「マックイーンさん!!!」

「スズカさぁ~ん!!!」

 

『ハナを奪うはやはりこのウマ娘、サイレンススズカ!!宝塚記念でも見事な勝利を収め連勝街道を驀進―――いや、サイレンススズカの隣を爆走しているウマ娘がいるぞ!!ツインターボ、ツインターボだ!!猛烈な加速でサイレンススズカを猛追していく~!!!』

 

お前だけじゃないんだ、と言わんばかりのロケットスタート。ツインターボは誰もが予想していたサイレンススズカの一人旅を絶対に許さない。

 

「いっけぇっターボ!!!」

『速い、速すぎるぞこの二人!!?圧倒的な速さだ、他のウマ娘を既に置き去りにして二人旅ぃ!!しかしこのままで持つのか、余りも早すぎる、まるでスプリンターだ!!』

 

余りに速すぎるサイレンススズカとツインターボ。他にも逃げウマ娘は参加してる―――だが、それすら追い付けない程の大爆走。

 

「ス、スズカ先輩速すぎ……!?」

「それだけじゃない、何、あのターボ先輩のスピード……!?」

 

余りに速すぎる、自分達は本当に天皇賞を見に来ているのか。短距離のレースを見に来ているのではないかと錯覚するほどに異常な超ハイペース、ほぼ横並びのサイレンススズカとツインターボから三番手は10身以上も突き放している。

 

『1000mの通過タイムは―――57秒ジャスト!?ツインターボ、サイレンススズカ共に途轍もない速度だ!!何だこの勝負は、最速のウマ娘の決定戦か!?』

 

「スズカさんの大逃げは予想していました、ツインターボさんのもですがこれは―――!」

「速すぎるよ~スズカも師匠も~!?」

 

驚きのあまり、メジロマックイーンとトウカイテイオーがそんな言葉を漏らしてしまう程だった。最初から二人はサイレンススズカに着いて行こうと考えていた、だが、そんな事は意味がないと言わんばかりに加速し続けていく両者。

 

「(速い……チェイスちゃんと走りで速くなってたのは知ってたけどこれは……!!)」

 

ほぼ真横に付き続けているツインターボ、それにサイレンススズカは感じた事もない脅威を感じ取る。だけど―――

 

「先頭の景色は、譲らない!!」

『此処でサイレンススズカが加速した!!ツインターボを抜き去っていくぞぉ!!」

 

第四コーナーを越えて遂にトップに躍り出たサイレンススズカ、後は最終直線。此処で一気に走り切るのみ。

 

『矢張りこのウマ娘は強い!!嘗ての悪夢を振り払うかの如く、影を踏ませないサイレンススズカ!!このまま逃げ切る―――いや、来ている!!』

 

「ッ――!!」

 

過去最高の速度、最高の走りだと言える走りに一人……それを追いかけ続けるウマ娘がいた。奇しくも同じく逃亡者と呼ばれるウマ娘、そのウマ娘はツインターボ。

 

「負けない、負けない負けない!!」

 

『ツインターボが喰らいつく!!異次元の逃亡者、サイレンススズカの走りに付いてきている!!』

 

「いっけぇっターボォぉ!!」

「そのまま抜けぇ!!」

 

「ターボは、ターボが勝つんだ……チェイスと約束したんだ……!!!」

 

―――一緒に、有馬記念で一緒に走りましょう。

 

「ターボが、ターボが―――勝ぁぁぁああああああつ!!!!」

 

刹那、先頭の景色を独占していたサイレンススズカの視界に青い髪が映り込んだ。ツインターボの髪が入り込んできた、前に、出られた。

 

『ツインターボが抜いたぁぁぁ!!!ツインターボ、ツインターボだ!!!逃亡者ツインターボ、異次元の逃亡者を踏み越えて行くぅ!!』

 

「これがぁぁぁぁっターボの、全開の走りだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

完全に抜き去った、サイレンススズカの前へと出てそのまま駆け抜けていく。凄まじいまでに伸びていく走り、影すら踏ませない異次元の逃亡者を捕まえて更に超えた逃亡者。追跡者にして逃亡者、この日、ツインターボは―――異次元を越えた。

 

『ツインターボだぁぁぁ!!一着ツインターボ、二着サイレンススズカ!!ツインターボ、サイレンススズカを破って天皇賞を征しましたぁ!!遂に初のGⅠ初勝利ぃ!!!』

 

何もかもを抜き去って先頭に立ったツインターボはそのままゴールした、異次元の逃亡者さえも置き去りする二重の加速(ツインターボ)、遂に念願のGⅠ初勝利。遂に掴み取った初の勝利よりも彼女は、何よりの喜びに包まれていた。それは―――

 

「ハァハァハァッ―――見てたかチェイス!!これがターボの力ぁ!!次は有だぁ!!」

 

―――望む所です。

 

 

そんな声が聞こえてきた気がした。幻聴などではない、きっとチェイスの言葉だとツインターボは更に笑みを深めるとサイレンススズカが握手を求めて来た。

 

「完敗でした、凄かったですツインターボさん」

「エッヘン!!スズカも速かったぞ、また一緒に走ろっ!!」

「はい、是非」

 

そう言いながら固く握手を交わすと会場から大歓声と拍手が上がった。二人の戦いを称賛する雨だ。

 

「師匠凄かったよ~!!ついて行く事も出来なかったぁ~」

「全くですわ……まあ今回は三着でテイオーに勝つ事は出来ましたので良しとしましょう」

「あれっテイオー負けたのか?なんだそれでもターボのライバルか~?」

「ムムムッ……四着だから何も言えない……」

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