音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第82話

天皇賞秋で遂に念願のGⅠ勝利を挙げたツインターボ。その勝利に後押しされるかのように、チェイスは京都の病院からトレセン学園に近い病院に転院を行い回復に努めていたが―――

 

「予想よりも早いですね……これなら問題はないでしょう」

 

チェイス自身の治癒能力が優れているのか、それともツインターボの勝利を受けて身体が活性化したのかは分からないが兎も角予定よりも早く怪我は治りリハビリに入る事になった。

 

「いいぞ~チェイス、この後はプールでのメニューが待ってるからあんまり気張り過ぎるなよ」

「分かりました」

 

トレセン学園に戻って来たチェイスは沖野の下でリハビリの励む―――のだが

 

『チェイスさん三冠おめでとう~!!』

「あっはい、どうも」

『あの、サインください!!』

「あっはい、分かりました」

『あの、朝のランニングにご一緒しても良いですか!?』

「いいですけど朝4時起きになりますが大丈夫ですか?」

 

無敗の三冠ウマ娘になったという事を完全に失念していたのか、とんでもない祝福を受けてしまったチェイスは思わず呆然となってしまっていた。三冠ウマ娘としての先輩たちもこんな感じだったのだろうかと、若干現実逃避を行いながらのリハビリとなっている。

 

『チェイスさん頑張れ~!!』

「そこぉっ声が小さい!!もっと腹から声出せぇい!!」

『はいっビルダー会長!!チェイスさんファイトォ~!!』

 

「いや、ビルダーは何をやってるんですか」

 

スピカの練習には多くのウマ娘達が押し寄せており、自分の応援を行うように声援を送り続けている。トウカイテイオーの時もこんな事はあったが、今回は本当に量と圧が凄い事になっている。

 

「あいつら全員お前のファンクラブのメンバーなんだよ、んでその会長をやってるのがビルダーなんだ」

「暇なんですかビルダーは」

「いやあいつもあいつで次のレースが近い筈なんだけどなぁ……まあやりたいっていうからやらせてる。その方があいつの為にもなるし」

「そういうもんですかねぇ……」

 

沖野としてはある意味助かっている。チェイスが三冠を取った時にはそりゃもうとんでもない騒ぎになった、無論トレセンも例外ではなく取材の申し込みは殺到するわスピカへの加入申し込みも凄い事になった。自分もチェイスのようになりたい、無敗の三冠ウマ娘を育て上げたチームに入りたいなどで凄かった。が、それを別の意味で収めたのがビルダーなのである。

 

『スピカ公認マッハチェイサーファンクラブぅ?』

『こういう騒ぎを収める為には何かを正式に認めるのが一番です、それが捌け口になりますから。という訳でチェイスさんのファンクラブ設立の許可オナシャス!!ちなみにルドルフ会長と理事長にはOK貰ってます!!』

『ほぼ俺の承諾要らねぇじゃねえか!?』

 

そんなわけで設立されたファンクラブだが、やってる事は至極真っ当な上にかなり確りしている。スピカの練習見学は厳正な抽選で決められたウマ娘だけにしてスピカの練習を阻害しないようにコントロールを行ったり、報道の波からチェイスだけではなくスピカを守る!!というウマ娘の壁も構築したり……熱いチェイス推しであるビルダーならではの方針が展開されている。尚、副会長はアグネスデジタルである。

 

「チェイス~調子は如何?」

「悪くはないと思います、トレーナーさんによると来週に一度病院で見て貰ってその経過によって通常メニューに復帰させると」

「それは結構ですわ、あの時は顔面蒼白になりましたが大事無いようで安心しましたわ」

 

まあ取り敢えずファンクラブはビルダーに任せるとしよう。ストレッチをしているとトウカイテイオーとメジロマックイーンが声を掛けてくる、偉大な先輩二人、である前にもっと尊敬する先輩が勝った相手という認識が出てきて気を付けようと思った。

 

「ねえチェイス、聞いても良いかな。無敗の三冠ウマ娘になった感想ってどんな感じ?」

 

トウカイテイオーは聞いてみたかった。如何してもそれを尋ねたかった、彼女にとって三冠ウマ娘というのは如何しようもない程に大きな目標だった。だが、それは運悪く絶たれてしまった。菊花賞を目前にしての故障、叶えられなかった夢、それを叶えたチェイスに聞いてみたかった。

 

「……う~ん……何も変わらない、ですかね」

「変わらない……ええっ!?訳分からないよ~如何言う事!?」

「私にとって三冠というのは元々狙っていたという訳ではないですし……何方かと言えば、約束を果たす為の最低条件でした」

「最低、条件……」

「ゴルドドライブとの再戦、ですわね?」

 

メジロマックイーンの言葉に頷いた。チェイスにとっての三冠はゴールではない、通過点にしか過ぎないのだ。元々レースの世界に入ったのもスカウトされたからに過ぎず、レースへの興味も無かったに等しい彼女にとってはレースで得られる地位や名誉は大したものではない。寧ろ―――そこで会えたライバルの方が何百倍も価値がある物なのだ。

 

「トリプルティアラとクラシック三冠、その称号を携えて再び戦う。その約束を果たす為には必要だったから、ですね」

「なんていうか、凄いなぁ……ボクなんて会長みたいになりたくて三冠ウマ娘目指してたのに、チェイスはそれが踏み台なんだもん」

「踏み台じゃありません、糧です」

 

マッハチェイサーの力の根源はこの意志の強さなのかもしれない、恐らく彼女はこれからもずっと強くなり続けるだろうとトウカイテイオーは感じた。彼女にはゴルドドライブという最高のライバルがいる、そして互いが互いを高め合って行く。その関係が崩れない限り、二人は何処までも成長し続ける。同時に思う―――このウマ娘に勝ちたいと。

 

「私の本当はゴールはもっと先です」

「チェイスのゴールか……やっぱ警察官か?」

「はい、私の夢ですから。言うなればテイオー先輩の三冠ウマ娘への夢が、私の警察官という夢です」

「う~ん、そう言われたら納得出来るかも~……よしボクもその応援の為に、チェイスの練習メニュー手伝うよ!!次はプールだっけトレーナー、ボクが面倒見るよ!!」

「おっ、そりゃ助かる。俺もある程度取材連中の相手しねぇと行けなくてさ……」

「それなら私もお供しますわ。テイオーだけでは少し不安ですし」

「なに~!?」

 

とても賑やかな空気に包まれながらもチェイスは笑顔を深めながら、秋晴れの空を見上げる。この空が冬に染まる頃―――自分は再び駆け出すのだから。




一応シニアクラスでの構想はあるけど……これ居るシニア?

その場合、主人公がなんかバジンとかに移りそうな気がするけど。

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