「何時まで顔真っ赤で伏せているつもりですか、可愛いポニーちゃん♪」
「―――からかうなバカ……」
シューズを購入した専門店が入っているショッピングモールの休憩ブースに入ってジュースを飲んでいるチェイスはまだ茹蛸になっているバジンに声を掛ける。
「まだシューズ代出して上げた事、気にしてるんですか?」
「……絶対に返す」
「良いですよ別に。後輩の為に何かしてあげるのは先輩として当たり前ですよ」
「―――私の気が済まない」
何とも意固地な子だ。ならば……別の物で返して貰おう。
「だったら勝利で返してください、そのシューズに見合う勝利と貴方の成長で返済という事で」
「……分かった、絶対に勝つから」
漸く顔を上げたバジンの瞳は決意に染まっていた。絶対に勝つ、此処までしてくれた憧れの人に報いる為にも―――この人の為に走るならきっと勝てると不思議な気持ちがあった。
「だから、チェイスも勝ってよ。ゴルドなんかに負けないで」
「ええ解ってます」
そんな言葉に呼応するかのように目の前の壁に掛けられていたTVがCMを流し始めた。其処に映っていたのはチェイスが走っていた菊花賞、人気のURA制作のCMシリーズのThe Winnerシリーズ。
そのウマ娘の名は「マッハチェイサー」
皐月賞、東京優駿を一着で駆け抜けて迎えたクラシックの最終レース
その偉業は「皇帝」シンボリルドルフの無敗の三冠、「パーフェクト」トキノミノルの10戦10勝
そして赤く染まる右脚
音速の英雄は勝利した
伝説に、そして悲劇に
次の最強を目指せ
如何やら有馬記念に出走するウマ娘の名場面的な所を切り出しているらしい。偶然自分の場面が放送される所に出くわしたという所だろうか……こうしてみると観客が悲鳴を上げるのも分かるような脚の染まり具合、走った本人が言うべき事じゃないだろうが……痛そうである。
「本当に凄かったよなぁあの菊花賞!!」
「ホントホント」
CMが流れた事で周囲の客たちの話題が自分へと切り替わっていく。矢張り衝撃的な勝利だったので様々な人の記憶に色濃く焼き付いている、無敗の三冠というのもあるが……矢張り怪我をしながらも勝利した事が大きい模様。
「やれやれ……こんなんだから外出も楽じゃないんですけどね」
「……」
「バジン?」
周囲からの声に照れつつも喜んでいるチェイスの服を摘まむバジン、顔を伏せつつもその表情は不安と怒りが入り混じっているような感じだった。バジンからすればあの菊花賞は本当に気が気ではなかった。あの段階でもう走らないで欲しかった、止まって欲しかったのに走り続けた。約束の為に?夢の為に?それの為に危険に突っ込むのか、バジンにはまだよくわからなかった。
「……」
「大丈夫ですよ、大丈夫」
不安になる彼女の頭を撫でるチェイス。まだ夢が何なのか分からないバジンにとって、あそこまで走り抜けたチェイスは理解出来ない領域。本当に危なかったら走らないでほしいという思いの方が強い……だけどチェイスはきっといつか、バジンも夢を持てた時に自分の気持ちを分かってくれるだろうと信じている。
「さっ行きましょう、そろそろお昼にしましょうか。甘えん坊なポニーちゃんに奢ってあげますよ」
「―――……ポニーちゃんはやめて」
「まあそう言わずに、行きますよ」
そう言いながらも握られた手をバジンは振り払う事もなく、遠慮するように少しだけ力を込めて一緒に歩き出した。
「さて何が良いですかね、何が食べたいですか?」
「……何でもいい」
「それじゃ……お寿司にでもしましょうか」
遠慮していた手、それを逆に強く握り直されて吃驚して尻尾が勢いよく上がってしまう。一緒に顔も上げてチェイスを見ても微笑みを返すだけで何も言わない、ああもう……
「誑し……」
「何か言いました?」
「別に……」
この後、回らない寿司屋もあったのだが流石にバジンが大遠慮して回る寿司屋に変更になった。まあ流石のチェイスも回らない寿司屋に入った事もないのでその気はなかったのだが……因みに回転寿司にはウマ娘向けのフルーツ寿司やニンジン寿司もあったのだが、バジンはそれを美味しそうに食べていたがチェイスは普通の鯵やかっぱ巻きなどを中心に食べていたとの事。
「ふぅ……食べた食べた。回転寿司も中々に侮れませんでしたね」
「……御馳走様、やっぱり少し」
「気にしないでください」
回転寿司なので流石にシューズ代ほどまでにはならなかったが、それでもウマ娘二人で食べたのでテーブルには皿の山が積み重なっていた。お店側はウマ娘が来る事は珍しい事ではないので普通に対応してくれたのは助かった。お値段もそこそこだったがチェイスは平然とカードで払った、その時にサインをする形式だったのでしたのだが、その時にマッハチェイサーである事がバレたが……店員はギョッとしつつも興奮を抑えてこっそりとサイン色紙にサインして欲しいとお願いしてきたので応えたりもした。
「さて、次は如何します―――おっとあそこ行きましょうか」
「あそこってゲーセン?何、チェイスってゲーセン好きなの」
「全然」
思わずじゃあ何でと思ってしまうのだが、バジンはゲーセンに引っ張られていく。本当に喧しい所だと思っていると入ったのはプリクラだった、折角遊びに来たのだから記念にこういう事もしようという事だった。
「別に携帯のカメラで良いじゃん……」
「そう言うこと言わないで、ホラッ」
「ちょっと引っ張られないで……キャッ!?」
聞いた事もないような声を上げるバジンだが、慌ててしまうのも当然。チェイスが抱き寄せて結果的に頬がくっつきあうような態勢になっているのだから。
「こ、これで撮る気!?」
「可笑しいですか?天倉町だと結構こういう感じで撮ってたんですけど」
「ああもう、分かったよ!!」
もうやけくそだ!!と言わんばかりに前を向きバジンに笑みを作るチェイス、そして写真は撮られて―――
「あれ、バジンってば携帯カバーになんか写真張ってます?」
「ん」
「見せてくださいよ~なんか気になります」
「ザケんな」
と拒否するバジンは携帯をポケットにしまうのだった。誰にも見せてあげない、何故ならば……そこには顔を赤くしながらもぎこちない笑みを作る自分と満面の笑みを作っているチェイスが頬を合わせているプリクラがある。
「(―――チェイスと一緒……宝物……)」
バジンはニヤける顔を抑えられずに枕に顔を突っ込むのであった。
途中の奴は以前感想で読者C様が書いてくださったものです。
まあ菊花賞が来るの奴を無理矢理有馬に持ってきた訳ですが……有馬出走ウマ娘への応援t系な物だと思えば別にいいよね!!
トキノミノルのミス・パーフェクトですが、実馬のトキノミノル号がパーフェクトと称されたからと読者C様からお言葉を貰いました。なのでパーフェクトと変更しました。