有馬記念。ウマ娘の全てが此処にあるとも言われる冬のグランプリレースで実質的な年度最優秀ウマ娘決定戦と呼ぶファンも多い。圧倒的な認知度の他にも、このレースでは数多くのドラマが生まれて来た事でも有名。今一番皆の記憶に新しく刻み込まれているレースは恐らく、トウカイテイオーの復活劇。そんな有馬記念に今年はとんでもないウマ娘が殴り込みをかけて来た。
音速の追跡者、マッハチェイサー
究極の輝き、ゴルドドライブ
今年のクラシックを最も盛り上げた二人のウマ娘の出走、以前からこの二人は有馬記念への出走と互いの対決へ強い意識を抱き続けていた。互いに掲げた目標を見事に達成し、弥生賞の再現となるこのレース。だが単純な再現とはならない、あの時とは共に走る面子が全く違うのだから。
「う~ん……」
「何見てんだよ?」
「いや出走表をな、改めて見て……何だこれって思ってたところだ。ってこれ毎年言ってるけどな」
パドックに入った沖野は出走表を改めてみたのだが……そこにある面子を見て毎年言ってしまう言葉をまた繰り返してしまう。だが本当にこれは言ってしまうのだ、この有馬記念はファン投票。そのファンの期待を一身に背負ったウマ娘達が出走する、故に走るメンバーも錚々たる事になるのは毎年恒例。
「テイオーも出るかなぁ……チェイスの奴、大丈夫かねぇ」
「大丈夫ですよ、きっとゴルドさんとの決着に燃えてる筈ですから!!」
「いや、その相手がとんでもねぇって話してんだよ」
スペシャルウィークの言葉も分かるが、ゴールドシップの心配はそこではないのだ。このレースに出て来るのはクラシックだけではない、シニアも混ざる。経験豊富で勝ち豊富な連中も混ざってのレースで今までのような一対一の真剣勝負なんて物は成立しにくい。チェイスが他に抜かれる、ゴルドが他に抜かれる、二人揃って抜かれるなんてのもあり得る。
「でも私はツインターボさんが一番怖いと思うわ」
「スズカさんもですの?実はわたくしもですわ」
サイレンススズカの意見に賛同するメジロマックイーン、天皇賞秋で敗れたから……というのが無い訳でも無いが、それを踏まえてもあの時の彼女のスピードは本当に途轍もなかった。サイレンススズカを振り切ってしまう程の超スピードが此処でも発揮された場合―――チェイスは恐らく追い付く事は出来ないと思っている。
「でもあれ、対策のしようないと思うんだけど」
「だよな」
「まあ逃げ全般がそうとも言えちまうが……どれだけ上手く力を温存するかになるけど、あそこまでのスピードになるとそういう領域をぶち抜くからな……スズカもそうだし」
速過ぎて追い付けない、それを地で行くのがサイレンススズカ及びツインターボの走り方とでも言うべきだろう。純粋な走力で追い付かれる前にブッちぎって勝つ。技術なんて関係なしの力押しだが、実践出来るなら呆れる程有効な戦術なのは確かなのである。
『さて次は―――おっと、入場ウマ娘の申し出でこれより連続している三人が同時に登場するようです』
余りにも突然すぎる言葉にアナウンスに観客から戸惑いの声が聞こえてくるのだが、それをぶち破るような勢いで跳んでくるのがそのウマ娘であった。バク転からジャージを脱ぎ捨てるマッハチェイサー、全力ダッシュから飛び出して危なっかしいが着地するツインターボ、そしてチェイスと全く同じ動きを模倣して登場するゴルドドライブ。
「おやゴルド、それもゴルドランのちょっとした応用ですか?」
「フッそんな所だ」
「フフンッターボはこんな日を楽しみにしていたのだ!!でもまさかゴルドも一緒なんて驚いたぞ?」
「フフッチェイスのお父様に特注した甲斐があったな」
そう言いながらツインターボとゴルドもジャージを脱ぎ捨てるとそこにはドライバーがあった。だがゴルドのはマッハドライバーとは異なっている、円形のディスプレイ付いており、どことなく車を思わせるな形状をしている。そして手首にも何かを巻いている。一体何なのかと皆が疑問に思う中、チェイスとツインターボがドライバーを開けた。
「さてと―――行きますか。皆さんがお待ちかねです」
「よっしゃ~変身だ~!!」
「ああ、やるか」
そう言いながらゴルドもドライバーへと手をやる、そしてキーのような摘みを回す。宛ら車のエンジン掛けのようだ。
同時に鳴り響く鼓動のようなエンジンの音、それを見てツインターボは目を輝かせるのだがチェイスが膝で軽く突いて自分の変身に集中させる。
シフトカーが装填されるマッハドライバーを見つつもゴルドは懐から自分と同じように黄金にカラーリングされたシフトカーを取り出した。そのシフトカーの後部を回転させながらも左手首に装着していたシフトブレスへと装填した。そしてゴルドもゴルドでノリノリでポージングを行いながら二人に息を合わせて―――
「Let’s―――」
『変身!!!』
チェイスとツインターボと同じように光に包まれていくゴルド、だが即座にその身を煌びやかなドレスのような勝負服が包み込んでいくのだが―――その最後に何処からともなく真紅のリング状の光が飛来して彼女へと装着された。左肩から襷掛けされた真紅の装飾が装着された。
「フオオオオオオッッッ!!ゴルドの何それ何それ何それぇ!!?ターボのにも負けない位にカッコよくてキラキラしてる~!!」
「フフン!!如何だ、以前天倉町でチェイスの御実家に世話になった時にお願いしたものだ。三日前に頂けたゴルドライバーだ!!」
「カックイイ~!!!」
「本当に色んな意味での特別仕様ですから大切にしてくださいね、音声とか音楽とか全部私が0から作った訳ですから」
「ウムッ!!実に感謝しているぞ!!」
成程、これがやりたかったのかとその場にいる全員が納得する程に見事なまでの同時変身だった。だがその甲斐もあってその場はもう興奮の嵐である、ツインターボの言葉を否定する者は誰も居なく、マッハドライバーの派生形なのか!?と色んな意味での興奮が入り乱れる。
「―――トレーナー、俺はマッハドライバーとゴルドのドライバー、どっちを選べばいいんだ!!?」
「……気に入ったのウオッカ……?」
「チェイス一つ聞いていいか、この赤い所だが……お婆様が作ってくれた部分だ。しかしなぜこの部分だけあんな感じでこうなるんだ……?」
「禁則事項です♪」
「カッコいいから良いじゃん!!良いじゃんスゲ―カッコいいから良いじゃん!!」
「……確かにな!!」