音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第89話

『さあ、今年もこの日がやって参りました。暮れの中山レース場、吹き荒ぶ寒風を跳ね返す程の異様な熱気がターフと観客席を包んでおります。GⅠ有記念です。間違いなく今年の総決算に相応しい激しいレースが繰り広げられる事でしょう』

『私もこの日が来るのを楽しみにしていました、今年の有記念は今までとは違いますからね』

 

解説の言葉に思わず全員が同意する、今までこんな中山があっただろうか。確かに熱気に包まれているが、何処かで重苦しくも感じ続けていた異様な不思議な緊張感が漂い続けている。それもその筈だ―――正しく、今年の中山は一味も二味も違う。

 

『さあウマ娘が次々ターフへと姿を現します。今年を様々に盛り上げてくれたウマ娘ばかり、全員が貫録を携えながらレースへの気迫を纏っております』

 

此処に並び立つ者は全員が強者、一人たりとも弱者など存在しないのだ。この場に立てる事自体がその証。そんな者が集う場の空気は、熱く重苦しい。これがシニアを経験するウマ娘達なのかと言わんばかりの空気がそこにある。

 

『不屈の帝王、トウカイテイオー。今年もあの復活劇のような走りを期待するファンも多い、得意のテイオーステップが炸裂するのか?』

『ナイスネイチャも怖い存在です、ブロンズコレクターとも言われますが、それだけ安定して上位を狙える実力があります。故に爆発すれば勝利も十分に狙える立場です』

『ウイニングチケットもBNWの一角として再び姿を現しました、ダービーウマ娘としての力を見せ付けるのか?』

『驚異の連帯率保持ウマ娘、ビワハヤヒデも姿を現します。今回も勝利の理論は冴えるのか?』

 

次々と上げられて行くトレセン学園の先輩たちの名前が耳に木霊する。その実力の高さも知っている、それが如何した。レースはそんなものだ、誰かが負けて誰かが勝つのだ。相手が誰だろうと関係はない、レースに絶対はない―――その言葉に倣うならば、それぞれが持つ絶対がレースを揺れ動かす。そうするだけだ。

 

「ターボ見参!!やっほ~中山~!!!」

 

『おっと此処で登場するのは念願のGⅠ勝利を達成した驚異の逃亡者ツインターボ。天皇賞秋ではあのサイレンススズカを抜き去るという見事な逃亡劇を見せてくれましたが、今回はどんな走りをしてくれるのでしょうか?』

『逃げのウマ娘としてペースを作れるかがカギですね』

 

 

「うっひょお~すっげぇ人だなぁ!!此処で走れるなんてさいこ~!!タイフーン見てる~!!?」

 

『菊花賞では驚異の大跳躍を見せたサクラハリケーンも怖い存在です、巷では飛将軍とも呼ばれているそうですよ』

『その跳躍を生み出す脚、その走りがどんな風になるのか楽しみです』

 

 

「フッ……私の輝きで視線を釘づけにしてやるさ」

 

『さあ此処で姿を現したのは究極の輝き、トリプルティアラ、ゴルドドライブ!!弥生賞での雪辱を果たす為に此処まで上がって来た新世代の女王はどんな走りを見せるのか、ゴルドランで走り抜けるのか注目です』

『パドックではツインターボやマッハチェイサーと共に別のドライバーで変身したそうですね、そういう意味でも注目です』

 

 

「さあ―――準備は万端、行きましょうか」

 

ヘルメットを外して脇に抱えたまま地下道を出る。同時に浴びる光と大歓声、皆自分を待っていてくれたんだという思いで胸がいっぱいになりそうになりながらもターフへと足を踏み入れる。

 

『さあ遂に姿を現しました!!伝説も悲劇も塗り替えて手にした冠はシンボリルドルフ以来の無敗の三冠、クラシックを盛り上げたウマ娘、音速の追跡者、マッハチェイサー!!菊花賞での負傷で出走出来るのかやや不安視されていましたが……おっと此処でバク転、そこからポーズを決める!どうやら私達の不安なんて余計なお世話なようです』

『本当にエンターテイナーですね彼女は。そんな彼女の走りがどのような物になるのか、大きな期待を寄せてしまいます』

 

 

「お前は……余計な事をせんでもいいだろうに、レースで証明すれば」

「こうすれば皆さん、気兼ねなく楽しめるでしょう。そんな風に配慮するのも私の仕事です」

「何の仕事だ、お前はアスリートだろ」

 

遠巻きに、これから自分と走るんだから怪我するような余計な事してんじゃねえぞ抗議をするゴルドだがそれを何のその、と受け流すチェイスに溜息をつきながらも間近で初めて見るチェイスの勝負服姿をジロジロと見つめる。

 

「しっかし……エンターテイナーだ何だと言われてるが勝負服にそれらしさは微塵も無いな。何だその色気もないライダースーツは、バイクにでも乗る気か?」

「勝負服自体に色気はないですけど、私のボディラインは出てますから色気は出てるのでは?」

「チェイスも結構おっぱい大きいもんな!!」

 

ツインターボの言葉に合わせて腕を組んで胸を強調するチェイス、そもそも勝負服は自分の身体を防護する為のものであってサービスの物ではない。

 

「この勝負服だからこそ、菊花賞でも怪我を軽く出来たんですよ。貴方の要望を考えると何かを言われる筋合いはないのですが」

「おっとそれを持ち出されると何も言えんな」

「というか、ゴルドもゴルドで凄いあれですよ。何でそれで走れるんですか」

 

ゴルドの勝負服は本当に煌びやかな黄金のドレス、他にも宝石の様な輝きがあるが黄金に輝く勝負服はゴルドが元々持つ煌びやかが合わさって凄く眩しく見える―――のだが、完全に夜会にでも出る気なのというドレスなのである。具体的に言えばロングドレスで地面スレスレの所まで伸びている、これで走って転ばないのだろうか……。

 

「ゴルドよくそれで走れるな~転ばない?」

「何心配はいらないさ、それにほれ」

 

そう言いながらもゴルドはスッとスラリと伸びた美しい脚をドレスから見せた。長い脚が醸し出す見事な脚線美だ、如何やらスリットが入っているらしくそこから足を出しているらしい。

 

「こんな風にスリットも入れている。これで転ばん、それにこれは結構便利だぞ。相手から脚が見えんから作戦がバレにくい効果もある」

「おおっそんな効果もあるのか?!」

「まあ確かにストライドかピッチかは分かりにくいと思いますが……必要なんですか貴方に?」

「まあ、ぶっちゃけ要らん。だが綺麗だろ」

「うんっ凄いキレイ!!」

「それは認めます、貴方が№1だ」

「ハハハッそうだろうそうだろう……ってレースもする前に私を上にするな!!」

 

とノリツッコミをかますゴルドに思わず三人は大笑いをするのであった。それを遠巻きに見ていたナイスネイチャは苦笑いをしつつも観客にサービスし続けているハリケーンの肩を突いた。

 

「どったのネイチャ先輩」

「いや~なんかさ、有記念なのに凄いニュートラルだなぁって思ってさ。チェイスって昔からあんな感じ?」

「まあマイペースでしたねぇ、でも良くないですか?だからこそあいつは強いと思いますよ」

「そうかもね」

 

気付けば三人揃って一列に並ぶと思い思いのポーズを取って観客にサービス兼アピールをしまくっている始末。本当にこれからレースをするんだよな、と言いたくなるような空気の違いだ。だが……確かに緊張し続けるよりもいいかもしれない、気付けばウイニングチケットまで混ざって何かやり始めてしまった。

 

「アハハハハッ……いやはや愉快だねぇ」

 

ナイスネイチャの言葉に全てが凝縮されているような感じだった。そして―――

 

『さあ場内にファンファーレが響き渡ります、今年の№1を決める有記念。各ウマ娘、次々と枠入りしていきます。それぞれが応援するファンの声援に背中を押されているかのようです。全員が真剣な面持ちでスタートの時を待ちます』

 

 

遂に始まる、この中山レース場で。

 

今日という日を待ち焦がれた、その為に走ってきたと思うウマ娘達。

 

真の決着と着ける為、もう一度戦う為、約束を果たす為、夢を叶える為。

 

それが今―――実現する。

 

 

『GⅠ有記念―――今、スタートしました!!!』

 

時代という一年を駆け抜けたウマ娘達。

今、選ばしウマ娘達から最強のウマ娘が生まれる。

祝え、そして刮目せよ。これが―――

ウマ娘達一年の集大成だ!!




選出したウマ娘については、出したかったのとまあ……好きだから。
時代とかは勘弁ね!!細かい事は良いんだよの精神で!!

尚、他にも居る。

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