音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第91話

見事、年間無敗を達成したチェイス。それもトウカイテイオー、ビワハヤヒデ、ウイニングチケットといったGⅠレースで勝利を上げて来たウマ娘相手にしての勝利による達成は大きな話題を呼ぶ事となっている。一部ではそんなウマ娘と戦えなかった事を悔やむ海外ウマ娘の声もあったとか……ともあれ、有記念の覇者にもなったチェイスは年間最優秀ウマ娘を受賞する事となった。

 

「……」

「チェイス~大丈夫か?」

「大丈夫、ではないです……」

 

そんな風に疲労を露わにしているチェイスの背中をツインターボは優しく摩る。別にレースの疲れが残っている訳ではないのだ。出席したURA本部内で行われていた年度最優秀ウマ娘の表彰式、そこでもう凄まじい量の報道陣からの質問攻めなどを受けた為に流石のエンターテイナーもヘロヘロ状態なのである。何とかトレセンまで戻って来れたが、この有様なのである。

 

「随分と騒がれたもんな~」

「流石に疲れます……」

「海外への挑戦意欲だとかも突っ込まれたもんね」

 

ジャパンカップに出なかったチェイス、だがこれ程までに強さを持っているのならばまだ誰もなした事がないあのレースを、征する事が出来るのではないかと数多くのメディアが突っついた。そう言われても考えた事もないレースに対する気持ちなんて応えようがない。

 

「これはあれですかね、暗に日本から出てけというメッセージですか?」

「それはないよ、もしもそんな奴がいたらアタシに言ってね。潰すから」

 

と隣からチェイスの頭を撫でているミスターシービーが表面上は見惚れる程の笑顔だが、凄まじい圧を発している。今現在、チェイスはツインターボと共に生徒会室に顔を出していた。シンボリルドルフから改めてのお祝いの言葉を貰えたのだが、その途中で思わず疲れが溢れ出してしまった。

 

「それだけ君は期待されているという事さ。海外への挑戦、恐らくエルコンドルパサーに重ねているんだろうな」

「エルちゃん先輩に、ですか?」

「エルちゃんか……随分と奴に可愛い呼び名を付けたな」

 

エアグルーヴは思わず少しだけ微笑んだ。こう呼んだのは友人のスペシャルウィークが彼女の事をエルちゃんと呼ぶのに引っ張られてしまったから、その時は直ぐに謝罪したのだが何やらその呼び名を気に入ったらしく、そのまま呼ぶようにしている。

 

「凱旋門賞でエルコンドルパサーは2着だった、あれが日本のウマ娘が打ち立てた最高記録だ。世界最高峰の凱旋門、それに君が出たらどうなるのかと皆考えずにはいられないんだ。これはチェイスに限らずに優れたウマ娘が現れた時には必ず出る話題と言っても差し支えない」

「そ~いえばウチのトレーナーも言ってたぞ、この前飲み会で凱旋門に挑む最強メンバーみたいな話で盛り上がったって」

 

野球で言えば最強のオーダーに近い物があるのだろうとチェイスは認識する。まあ確かに気持ちは分からなくはないのだが……。

 

「チェイス、お前は如何なんだ海外への挑戦については」

「一切考えてませんが」

「即答かお前」

 

まさかの即答で返ってきた言葉にエアグルーヴも若干呆れている。

 

「シニアに漸く上がる段階でそんな事なんて考えませんよ、せめてシニアのジャパンカップに出ようと思ってる位なんですよ私は」

「そうか、今度のジャパンカップには出る気はあるのか」

「取材で散々シニアの春の三冠やら秋の三冠とか聞かれまくりましたから……」

「よしよし大変だったなチェイス」

「いい子いい子、此処ではのんびりしていいから」

 

取材の時の事を思い出してグロッキーになるチェイス、流石のチェイスもまだ有の疲れが抜けきっていない状態でのあの取材はきつかった模様……素直にツインターボとミスターシービーの撫でが癒しとなっている。

 

「しかし……ツインターボ、君の2500の完全な逃げには私も驚いたよ」

「ふえっ?」

 

お茶菓子としてチェイスが持って来た天倉巻を口いっぱいに頬張っていたツインターボは突然自分の名前を出されて驚いた。紅茶でそれを流し込みつつ会長の方を見る。

 

「長距離でのレースで逃げを打ったウマ娘は数多いが、君は最初から最後まで一切速度を緩めなかっただろう。そんなウマ娘は今までに居なかったさ」

「多少なりともペースとかを落としたりはするしね」

「エッヘン!!だってターボは最初から全力なんだもん、ずっと全力の方が気持ちいいし負けても納得いくもんね!!」

「成程、納得の意見だ」

 

それでも化物染みている。サイレンススズカでも2500なんて距離を逃げ続ける事は出来ない筈、それをツインターボはやってのけた。下手すれば彼女は天皇賞春の3200をも逃げ切る事もやってのけてしまうのではないだろうかと思えてしまう。

 

「フフフッ……一度君と走ってみたいと思えるよ」

「ホント!?じゃあ走ろうよ、折角だからテイオーも誘ってチェイスと一緒に!!」

「それは面白そうだな、私もチェイスの走りを体験してみたいと思っていた所だ」

 

ニコやかな笑みを浮かべ続けているが、シンボリルドルフの内心はもっと熱くなっている。何故ならば自分以来の無敗の三冠ウマ娘、それ所か有記念を征した事で四冠になっている。そしてスカウトした身としてはその実力がどれほどのものになっているのかを感じてみたい、競い合ってみたいというウマ娘の本能が荒れ狂っているのだ。

 

「折角だ、エアグルーヴ君も如何だ。チェイスの走りを体験したくないか?」

「はいお邪魔でなければ」

「おおっ!!皇帝と女帝、それに帝王が揃った!!」

「んじゃ私も参加させて貰うよ、チェイスが走るんだったらルドルフだけなんてズルいからね」

 

あれよあれよなんだか凄い話になっていく。と言ってもまだ何時やるかは定かではないし、これだけのメンバーで走るのであればいろいろな調整も必要なので行うのは時期を見てにしようという事になったのであった。

 

「なんだか、凄い事になって来た……」


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