音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第92話

「はい、出来ましたよバジン」

「……ありがと」

「お気になさらず、それじゃあ食べましょうか」

 

美浦寮の食堂のキッチンを借りて作った料理、それを休憩室を借りて並べて待ち人のバジンと共に席に着いた。何故こんな事をしたのかは単純明快、バジンが見事にホープフルステークスで勝利したから。本当はスピカで大々的にお祝いをしようとしたのだが、当の本人が騒がしいの嫌だと拒絶し祝われるなら静かな方が良いとチェイスと一対一で祝う事になった。なぜそうなったかというと―――

 

『……無敗の三冠ウマ娘に一対一で祝われる、これ以上の豪勢があんの?』

 

そう言われて思わず沖野も確かに納得して、取り敢えずスピカでもお祝いのメッセージなども送ったりした後にチェイスに任せる事になった。という事でチェイスはバジンの為に料理をこしらえて二人っきりで祝う事になったのである。

 

「しかし、お見事でしたよバジン。まさかラストであそこまでの末脚を発揮するとは驚きました」

「別に、大した事じゃない」

「初のGⅠ勝利なのにクールですね」

 

チェイスも観戦に行ったが、バジンは見事な走りだった。最後の最後に追い抜かれそうになったのだが、残りが555mになった時にバジンの潜在能力が解放された。

 

―――あの人が見てるんだ、今此処で負けたらあの人を穢すみたいなもん……そんな事、して堪るかぁぁぁぁ!!!

 

『―――オートバジン抜け出した!!残る500mという所で更に加速する!!何というスピードだ、そのまま一気にゴール!!!一等星の輝きを見せクラシックへと繋がる道へ第1歩を踏みだしたのはオートバジン!!チームスピカの新星オートバジン、彼女がクラシックでどんな走りを見せるのか今から目が離せません!!』

 

「チェイスから見たら高がジュニアのGⅠなんて遊びでしょ。別に見に来なくていいって言ったのに……」

「そんな風に思った事はありませんよ、バジンが出るレースですから楽しみでしたよ」

「……あっそ」

 

恥ずかしさを隠すように棒棒鶏を頬張った、その味がいいからか一瞬咀嚼が止まると直ぐによく噛み始める。何というか本当に彼女は素直じゃない。流石たっくんの愛車だ。

 

「それにしても、貴方の勝負服も中々素敵でしたよ」

「……そ」

 

素っ気無くしているが、耳と尻尾が嬉しそうに動いているのをチェイスは見ている。それに……見ている身としては微笑ましい気持ちになってしまったのだ。何故ならばバジンのそれは何処かライダースーツに近かったのだ、自分のそれと比べたら装飾などもあるし走るのに邪魔にならないようなマントが腰にあった。自分の菊花賞を見ていたからか、胸部にもプロテクターを追加している黒を素地にして銀色の防具に赤いラインが走っている。

 

「(なんというか、ファイズとウィザードのミックスみたいな感じでしたね……でもカッコいいからOKです!!)」

 

チェイス的にはど真ん中ストライクだったらしく、実に良いなぁ!!と内心でテンション上がりまくっていたのは秘密である。

 

チェイスが……

「んっ?」

チェイスが買ってくれた……靴があったから、勝てた……

「そんな事ありませんよ、貴方の実力です」

「違う」

 

か細かった言葉を強めながら、確りと否定する。自分の実力だけではなかった、今の自分ではホープフルステークスは速すぎた舞台だった、他の全員が強かった。勝てたのは―――

 

「チェイスが……色々、くれたから……」

 

精一杯の答え、真実を届ける。自分だけでは決して届かなかった遥かな地平の先、そこに届けてくれたのは紛れもない、目の前にいる憧れの人なのだから……そう告げるとチェイスは本当に優しい笑みを浮かべながら頭を撫でる。

 

「例えそうだとしても、それを力に変えられたのは貴方です。だから―――その勝利は貴方の物で良いんです。誇りなさい、力に変えなさい、また勝ってください。さあご飯のお代わり要ります?」

「……バカ」

「フフッ」

 

その後も二人っきりの宴は進んでいった。そして綺麗に食べ切って食器を洗って元に戻してバジンの所に戻ると、満腹になった為か完全に船を漕いでいた。なので肩を貸して上げながら部屋まで送ってあげるのだが……部屋に同室の筈のビルダーの姿はなかった。

 

「そう言えばビルダーはデジタルさんと一緒に出掛けるとか言ってましたね……遠征に行くとか啓蒙を高めるとか……いやそれはいいのだろうか」

 

―――啓蒙を高めてきます!!

 

「バジン、部屋に着きましたよ」

「んっ~……」

「しょうがないですね……ホラッベッドは此処ですよ」

 

そのままベッドへと導いて寝かせてあげる、すると直ぐに寝息を立てて夢の中へと走り出して行く。そんなバジンに微笑みながらも自分も部屋に戻ろうとするのだが、バジンの手が自分の手を握り込んできた。

 

ぃゃ……居て……

 

何か怖い夢でも見たのだろうか、涙を流しながら必死に懇願するようなバジン。そんな姿の彼女の手を振り払う訳にも行かない、なので傍にいてあげる事にした。

 

「大丈夫、貴方は一人じゃない。私が居ますよ、だから心配は何もいりませんよ」

 

何度も何度もそんな言葉を掛け続けると少しずつバジンの表情が柔らかくなっていく、そしてそれを繰り返していく内に漸く手を放してくれた。その時にはもう怖い夢なんてなくなっていたのだろう。

 

「おやすみバジン、良き夢を」

 

と額に軽くキスを落としてあげる。母が寝る時にやってくれた事を思い出した、安眠のお守りだと、これできっと彼女の安眠も守られる事だろうと部屋を出る。

 

「~!!!!」

 

その時、僅かに起きてしまったバジンは突然の事に悶絶し結果的に寝不足になったとか。




矢張りバジンはヒロインなのでは?

と書きながら私は訝しんだ。
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