「無敗の三冠ウマ娘、有馬記念を征する……か」
新聞にデカデカと掲載されている記事に沖野は呟いた。有馬を征してからチェイスの話題は新年になっても尽きない、寧ろシニアクラスに上がった事でその活躍が更に期待されている。その理由としてはチェイスの一強とも言うべき状態が崩れたからだろう。
「ゴルドドライブ、打倒マッハチェイサーを掲げる……だろうな」
クラシックでは路線違いでまともな戦いは弥生賞と有馬記念だけだった最大のライバルのゴルドドライブがシニアでは戦おうと思えば同じレースに出走する事は出来る。それでも二人の適性距離をを考えると戦うのは中距離に限定されるかもしれないが、それでも戦うのは目に見えている。
と言っても今までもチェイスの一強状態と言えるものではなかった。リードオン、ジェットタイガーやサクラハリケーンと言ったライバルも負けず劣らずの実力者揃い、それらが一気にシニア入りする事で既に実力確かなシニアが更に混沌とする事になる。逆に自分達がお前を倒すと昂りを見せているシニアウマ娘も多い。
「何処まででっかくなるんだろうなぁチェイス」
確かに逸材だとは思った。初めて会った時からターフで走る姿を見たいと思ったし三冠だって夢じゃないとは思った、だが……此処までの成長を遂げるのは完全な想定外且つ予想外。しかも恐らくまだチェイスは伸びる余地がある。正しくスーパーウマ娘だ、更にウマ娘の世界は更に白熱していくのだろう―――
「だけど、彼奴はそんな事気にせずにこっち行くんだろうな」
そんなチェイス自身が一番興味なさそうにしている、満足するまで走ったら直ぐに彼女は蹄鉄を外すのだろう。それを周りは必死になって止めるのだろう、その力をずっとこの世界で生かし続けて欲しいと望むのだろうが……きっと警察官になる事を彼女は選択する。どれだけ勿体ないと言われようが必ず、そうだと分かる確信がある。
「トレーナーさん、バジン達が待ってますよ」
「あっ悪いもうそんな時間か、今行く」
部室へと顔を出して来たチェイス、レースの休養を兼ねてバジン達の練習を見てくれている。そう言われて新聞を畳んでともに部室を出る。
「しっかし今年は今年で大変な年になるなぁ……何せ、クラシック挑戦が三人も居るんだ」
「全員仕上がりとしては良い方だと思います、キタちゃんとダイヤちゃんは言うまでもないですがお互いに高め合ってます」
「だろうなぁ、バジンは?」
「良いと思いますが、私ではそこまで突っ込んだ事は言えません」
今年、スピカからは三人のウマ娘がクラシックに挑戦する。キタサンブラック、サトノダイヤモンド、オートバジン。沖野としては三人とも素質は申し分なく十分に勝利を狙えると思っている、がチーム的には出来るだけ同じレースに被らせる事は避けたかったなぁと思っていたりはする。その辺りで言えばビルダーには助かっている。
「ビルダーはやっぱりクラシックには」
「距離適性的にもちょっときついなぁ、彼奴はマイル向きだからな。走れるとして2000……いや2200がギリギリだろうな」
マシンビルダーはクラシック三冠には挑戦しない、距離があっていないのもあるが当人がダートでの出走も希望しているので其方を優先するつもりでいる。
「ビルダーはヒヤシンスステークスだなっつってもウチだとダートの走った経験ある奴があんまりいないからなぁ……その辺りは他にお願いしてみるかなぁ」
「それについては私から話は通してありますよ、デジタルさんとスマートファルコンさんに許可は取ってあります」
「早いな」
「デジタルさんは直ぐに、ファルコンさんには今度一緒にダンスをやるという事で了解を得ました」
ダートに関しては確かに頼もしい面子が揃っている。アグネスデジタルはビルダーが目指すところでもあるのでこれ以上の無い人選とも言える。
「なあチェイス」
「何ですか」
「お前さ、やっぱり警察官になるんだろ?」
「はい、私の夢ですから」
それを聞いて何処か安心しつつも寂しさを覚えてしまった。
「大変だぞ~三冠になっちまったから多分、周り全力で止めるぞ」
「それこそマッハチェイスでぶっちぎります」
「ハハハッ怖ぇなそりゃ」
トレーナーとしては止めるべきなのかもと思いつつもチェイスはこうでなくてはと思う自分が居て自分に呆れる。だがこんな彼女だから三冠になれたのだろう。
「ねえチェイス、マッハチェイスの最後の伸びってどうやるの」
「ずっとマッハの部分ですか?」
「それ」
バジンは自分の持ち味であるラストの末脚、そこにチェイスのマッハチェイスを応用できるのではないかと思っているらしくマッハチェイスのやり方についてかなり詳しく聞いてくる。
「良いんですかね。私とバジンでは脚質がまるで違いますが」
「ラストスパートの掛け方の参考にするっていうのならそこまでの問題も起きる事もないとは思うぞ、但しバジンあくまで参考にする程度な。自分の走りを潰すのはNGだ」
「言われなくても分かってる」
そういう事なら……とマッハチェイスのやり方というよりも自分の走りの一部をバジンに教える事になる。一定距離から一気に力を開放するバジンの走りとはマッハチェイスのスパートの相性は良好なのかもしれない。
「バジンのラストスパートの名前でも付けますか、マッハチェイスみたいに」
「別にいい」
「え~……折角私なりに名前とか考えたのに」
「聞かせて」
「うぉいバジン、お前には自分の意志ねぇのか。お前もお前でビルダーの事言えない位にチェイス中心じゃねえか」
チェイスに倣う事を止めたと思ったらこれだ、まあ追い込みの走り方を落とし込もうとしている訳ではないから良いか。