音速の追跡者   作:魔女っ子アルト姫

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第96話

再来だ、再来だ。誰もが彼女の活躍を見て、そう口にした。

 

トウカイテイオーの再来だ。ミホノブルボンの再来だ。

 

誰もが記憶に残る彼女らの名前を口にする中、彼女は己を証明した。

 

そしてその証明は彼女だけの伝説へとなった。

 

彼女の名はマッハチェイサー。勝利すら逃げられない、音速の追跡者。

 

 

「あの、ビルダーなんですかこれ」

「何ってプロモーションビデオのスタートのパターンAですけど何か」

「真顔で何言ってんですか」

 

ビルダーに是非見て欲しい物があるというので見てみたら、何やらテロップと共に穏やかだが力に溢れていて聞き者の心を震わせるような見事な声で魅了する声が流れ出し、その背後ではレース中の自分の一瞬を切り取ったのが続いて行く。本当にこれは何だと言いたい。

 

「私、感謝祭でスピカ公認マッハチェイサーファンクラブの会長としてマッハチェイサーの戦歴で出し物をすることにしましたので」

「私の許可は何処に行ったんですか」

「トレーナーさんには許可取ったからOKです!!」

「NGですよ。ビルダー貴方、妙な方向で沖野さんに似て来てますよ」

 

確かにスピカのトレーナーからの許可があるならばいいかもしれないが……せめて当の本人から許可を取れと言いたい。いやまあ嫌とは言うつもりはないのだが……自分で良いなら題材にするぐらい……というよりもそれよりもずっと気になる事がある。

 

「このナレーションの人、絶対にあの人ですよね」

「あっ分かります?」

「こんなダンディで優しくもありながらもカッコよさと力強さがある人他に居ないと思いますが……」

 

日本が誇るトップ声優の一人だ、しかもビルダーが全く否定していないのを見るとマジでそうらしい。

 

「ダメ元でオファーしてみたら二つ返事でOK貰えました、出来ればチェイスのサインが欲しいとの事です」

「サインならいくらでも……じゃなくて、ギャラとか如何したんですか」

「レースの賞金とかその他諸々ブッコみました」

「敢えて言います、貴方バカですか」

「ぁぁぁっ……チェイスさんに罵倒される、ああ駄目いけない物に目覚めてしまいそう……!!」

 

目の前で悶絶する後輩を見てうわぁっ……と内心でドン引く、所だが彼女は自分のファンである上にいろいろ手を貸してくれている相手なので無碍にするのも……というのもある。だがその上でこいつはバカだと思ってしまったのだ、自分は悪くない。

 

「ハァッ……まあいいですけど、貴方がそれでいいのならそうしなさい。ですけどそういうのはせめて自分の為に使ってください、それが色んな意味で一番なんですから」

「抜かりはありません……何故ならば―――必要な物はトレーナーさんの財布から出して貰いましたから」

「……最近は出費が無くて東条さんに集る事が無かった沖野さんの財布が……」

 

ゴールドシップに色々と振り回されてマグロ漁船にも乗る機会が増えている沖野、色んな意味で同情を禁じ得ない……。だがそうなると本格的に自分も感謝祭で何かをする事、いやソロライブを本当に完璧な物にしなければいけなくなってきた……そんな事を考えながらもビルダーと別れて部室へと入るとそこでは珈琲を飲みつつも今日のメニューを確認している沖野の姿があった。

 

「おっチェイスおっす」

「どうもです、ビルダーに財布を薄くさせられたと聞きましたが大丈夫ですか?」

「……まあシューズだけだからまだ何とか……」

 

顔を背けながらの発言で以前バジンに買ってあげたような最高グレードのシューズを買わされたようだ、安い物でも8~9万はする位には良いお値段をしている。

 

「チェイス、お前さん次のレースは如何する?やっぱ大阪杯にしとくか」

 

中距離のレースならば恐らくゴルドは出て来るだろう。ゴルドの適性はマイルと中距離、チェイスの適性とも重なっているこれには出て来るだろうと沖野は踏んでいたのだがそれはチェイスによって否定される。

 

「いえ、ゴルドはそれには出ません。彼女は宝塚記念に出るそうです」

「宝塚記念か……本人から聞いたのか?」

「ええ」

 

―――今の私ではお前に勝つ処かシニアで勝つ力すらない。だからまずは力を付ける、もう一度戦うのはそれからだ。

 

「だ、そうです」

「なんつうか、思った以上にゴルドドライブって熱い奴なんだなぁ……」

 

熱いがそれ以上に冷静に自分を分析する事も出来ている。有記念での五着が相当に堪えてるらしく、そのリベンジに燃えながらもシニアの手強さにさらに闘志が沸き上がっているとの事。何だかんだで彼女も強い相手と走れる事に強い喜びを露わにするタイプなのである。

 

「んじゃチェイス、お前次如何するんだ?春のシニア三冠も取りに行く事を目指して大阪杯に行ってみるか?」

「いえ、私はそんな物に興味ないです」

「おうすげぇよお前、そんな風にそれを足蹴りに出来るウマ娘なんてお前位だろうな」

「もう一度、菊花賞を走りたいんです」

 

その言葉を理解するに僅かに掛った、もう一度菊花賞―――つまり、同じ3000を走りたいという事だろう。近いレースでその条件に当てはまるレースと言えば……阪神大賞典。GⅡではあるが距離は菊花賞と同じ3000m。

 

「天皇賞春を狙うつもりか?」

「はい。ゴルドは私に勝つ為に様々な思案を巡らせ、実践するつもりです。ならば私はそれに負けない位に努力するのが当然の事……私に憧れてくれているウマ娘の夢を守る為にも」

 

脳裏を過る一人のウマ娘、オルフェーヴル。あの純粋な瞳を向けられるのに相応しい背中を作りたい、それがゴルドのライバルであるマッハチェイサーの役目だと思っている。

 

「―――よし分かった、だがそうなると厳しくなるから覚悟しとけよ。何せ相手はスピカ最強って言ってもいいステイヤーだからな」

「はい、分かってます」




「―――!?」
「ど、どうしましたバジン」
「今……チェイスが……いやなんでもない。(チェイスのファンなんて幾らでもいるじゃん……でもなんなのこの胸騒ぎ……)」
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