「チェイス、これからのメニューはこれを付けて行って貰うからな」
「はい―――ッてぇ何ですかこれ……!?」
次なるレースを阪神大賞典へと定めたチェイス、そしてその先にある天皇賞春を見据えたメニューが組まれる事になって今日からそのメニューを行う事になるのだが……沖野から専用の蹄鉄が渡されたのだが……普通の蹄鉄と比べてかなり重く思わず手がどころか一瞬身体が持って行かれそうになってしまう。
「専用の蹄鉄だ」
「何だか懐かしいですわね」
「ホントだね」
通常よりもずっと重い蹄鉄と言われて思わずメジロマックイーンとトウカイテイオーはそんな声を上げてしまった。一方は連覇、一方は無敗を賭けた天皇賞春に向けての特別メニュー。メジロマックイーンが課せられたのは重い蹄鉄を装着しての下半身強化トレーニングだったので思わずそんな言葉が出る。
「……」
「どしましたゴル姐さん?」
「いや、あれでマックイーンに背中踏まれて超いてぇ目にあった事思い出しちまった……」
「それよく無事でしたね……」
「認めたくねぇもんだな、自分自身の身体の頑丈さというのを……」
その一方で文字通り痛い目にあったゴールドシップは渋い顔をしてハリケーンに慰められていた。
「場合によってはキタにダイヤ、ビルダーとバジンにも手伝って貰う事もあるからな。でもその場合はシニアに入ったチェイスに合わせる事になるから覚悟しとけよ?」
「どんとこいです!!」
「何時でもお相手します」
「寧ろご褒美です!!」
「分かった」
そんな事がスピカに伝礼される中でチェイスは一先ずシューズに蹄鉄を嵌める事にした。本当にこれは何キロあるのだろうか……一時期、ウマ娘のパワーがどのぐらいあるのだろうかとパワーリストやらを身体に付けて走った事はあるが……マジでそんな事をやる事になるとは思わなかった。落鉄しないようにしっかりとハンマーで打ち付けるとシューズを履く―――のだが
「重っ……!?」
「だからこそ効くんだ、辛い時こそ更に腿を上げて走る事が求められるのが長距離だ。3200を想定するとこの位は必要になるんだ」
そう言いながらもジャンプで越えろと言わんばかりに柵を設置する沖野。これもメジロマックイーンが行っていたトレーニング、先輩もこうやって強くなったんだから安心して挑めという奴だろうか……一先ずそれへと跳ぼうとするのだが……これが想像以上に重いのかいきなり引っかかってしまった。そして同時に響くズシン!!という重く低い着地音。
「これは……生半可な気持ちで挑んだら怪我しますね……本気で行きます」
「フッ!!ハッ!!タァ!!」
走り込みを続けるメジロマックイーンの視界にはあの時の自分と同じようなトレーニングを積んでいる
「トレーナーさん、あれってどのぐらい重いんですの。私の時でもあそこまで地面は凹んだりはしませんでしたわよ?」
「ああ、ざっと言ってマックイーンの時の1.7倍だな」
「約2倍じゃありませんの!?」
そりゃ凄い音もする筈ですわ!!と言いたくなった、そんな物を今使わせているのかと。
「チェイスの一番の持ち味って分かるかマックイーン」
「持ち味、ですか……そうですわね、矢張りマッハチェイスによる追い上げの伸びでは?」
「それもあるけどあいつはフォームが全くブレねぇ事なんだわ」
チェイスは何年もずっと山道を走り続けていた。その結果として悪路や坂路にも非常に強いタフネスな走りが魅力にも映るが、それ以上にフォームが全くブレない。それによって走る時のエネルギーを全く逃がす事もなく無駄なエネルギーの消費もしない、言うなればスタミナの消費が他のウマ娘に比べて少ない。
「マッハチェイスもそこまで脚を残したからこそ活きる、何せ他の奴よりもずっと体力が残ってるから出せるパワーも段違いだ」
「成程……納得しました。チェイスさんは元々体力がある上にフォームが綺麗でブレないからこそあの豪脚が生まれますのね」
「そういう事」
「……面白いですわね、これは」
チェイスの強さの秘密を教えたのは完全にワザと。天皇賞春は簡単にはいかないぞ、そう発破を掛けている。元々菊花賞を走り切れるチェイスならば天皇賞春の距離も直ぐに物に出来る。強敵になるぞ、と言って来ている。だがそれを言われて恐れる程軟ではないのが最強のステイヤーとも呼ばれるメジロマックイーン。さらに闘志が掻き立てられる。
「トレーナーさん、私もメニューをお願い致します。あれ程までに努力なさっている姿を見せられて何もしない程、私は大人しいウマ娘ではありませんわ♪」
「知ってるよ、つうか大人しいウマ娘ならトレーナーにプロレス技なんて掛けねぇっつの」
「本当に一言多いですわ」
取り敢えず専用のメニューは組むという話をして、またもやチーム内での戦いかと少しばかりため息が出るがどうしようもなくその戦いが見たくなってきてしまう。此処まで無敗のチェイスが本気のメジロマックイーンと戦うとどんなレースを繰り広げる事になるのだろうか。その為に自分も出来る限りの協力をしよう。
「チェイスさん!!お手伝いに来ました、さあ私を飛び越えてください!!ゴールドシップさんもマックイーン先輩にこうして協力していたそうです!!」
「流石に危ないと思いますよ……?」
「いえ大丈夫です!!思いっきり踏んでも私にはご褒美なので!!」
一先ず、ビルダーを止める事から始めよう。