「こっからは私のステージだぁぁぁぁ!!!」
「ずっと―――マッハッ!!!」
今日も今日とて練習を欠かさないウマ娘達。そんな中でも天を駆けるウマ娘、飛将軍とも呼ばれるようになったサクラハリケーンと音速の追跡者ことマッハチェイサーは気合を入れて練習を望んでいる。ハリケーンは大阪杯、チェイスは阪神大賞典という目標に向かって練習に励んでいる。そんな先輩の背中を追いかけるように必死に練習に身を入れるウマ娘もいる。
「まだ、まだ早い……!!」
クラシック挑戦、弥生賞を控えているオートバジン。彼女も必死の練習を積んでいる。特に彼女の場合はスピカ内にもライバルがいるのも影響している。
「やぁぁぁぁぁ!!!」
「たぁぁぁぁぁ!!!」
サトノダイヤモンドとキタサンブラック。自分と同じくクラシック路線に進む事になっている二人の存在、同じ目標に向けて仲間と練習出来るのはこれ以上にない財産になるが、それ以上にこの二人は手強いのである。自分にとって最大の障害となりうる相手が身内にいるというのは矢張り辛い物を感じる。
「此処っ―――!!!」
特定のポイントに到達する、それと同時にバジンは残っている全ての力を開放して最後のスパートをかける。マッハチェイスのノウハウも一部吸収してレベルアップも図っている為か、スピードもかなり上がっているのだが……
「ぅぅぅっ……!!!」
バジンはゴール前で一気に失速してしまう、先程までの凄まじい速度は影も形もない。ツインターボの逆噴射にも見える程の急激な減速、それでも意地でゴールするのだが……沖野からは厳しい表情から厳しい意見が飛んでくる。
「バジン、無理にそれやろうとするなよ。まだ身体が出来上がり切ってないんだ。基礎を確りと鍛えてからでも遅くない、今のお前じゃそれは武器じゃなくて拘束具でしかねぇぞ」
「クッ……!!」
マッハチェイスの一部を吸収した事でバジンは成長した、のだがその反面それはかなりのリスキーパワーとなってしまっている。吸収前ならば問題なく走り切る事が出来た筈だが、パワーアップした事で今のバジンの身体能力ではそれを十二分に発揮出来なくなってしまっている。スパートの反動に身体が耐えられないとでも言うべきか……今までは発動地点である555mからゴールまで維持出来たが、だが今はその半分も走り切る事が出来なくなっている。
「前に戻すべきだと思うぞ、流石にチェイスとお前じゃ身体のレベルが違うぞ」
「ヤダ……私は変えない、もう一本行ってくる!!」
「おいおいおい……おいバジン!」
そう言いながら走り出してしまうバジン。確かに大幅なパワーアップは出来ている、だがジュニアからのクラシック上がりたてのバジンでは十二分に使いこなす事は出来ない。無理にでも戻させるべきなのだが……当人の意志は固いのか戻そうとしない。
「あいつの頑固さには参るなぁ……まあそこが取り柄でもあんだけど……」
「トレーナーさん、すいませんが新しい蹄鉄を貰えませんか?」
バジンに参っているとチェイスが蹄鉄の交換を要求してきた、如何やらかなり擦り減ってしまったのか利き足側の方の蹄鉄がポッキリ行ってしまったらしい。予備は準備してあるので直ぐに用意するとチェイスはそれをシューズに打ち始める。
「にしてもよくそれで坂路ダッシュ出来るなぁ……」
「指示したのはトレーナーさんじゃないですか」
「だからってスピード落とさずに一気に登り切る奴があるか、お前はミホノブルボンか。いや下手したらあいつより性質悪いぞ」
チェイスは時折、ミホノブルボンの並走相手として起用される事もある。鬼とも称されるミホノブルボンのトレーニングメニューに平然とついていけるのは彼女位なのでミホノブルボンのトレーナーからも重宝されており、更に厳しくするかとメニューの見直しが行われた事を沖野は知っている。
「なあチェイス、バジンの走りだが……」
「クリムゾンチャージの事ですね」
「所謂マッハチェイス的な奴かそれ、まあカッコいい名前だから良いか」
そんな風にチェイスは呼んでいるらしい、クリムゾンスパートにするか悩んだらしいがそこは割とどうでもいい。
「現状、あいつにクリムゾンは荷が重い。もっと基礎を鍛えてからじゃないと使い物にならない」
「それには同意です。現状のクリムゾンチャージは更に進化してます。言うなればアクセルクリムゾン・チャージです。その進化にバジンが追い付けてません」
「お前から言ってやってくれないか、お前からなら聞くだろ」
バジンはビルダー以上にチェイスを絶対視している、というか最早盲目的になっている面もある。マッハチェイスを取り入れたのもその影響とも言える、なので言い方は悪いが原因であるチェイスに責任を取らせて矯正するのが一番手っ取り早い。
「……下手に抑えつけるよりも鍛えた方が良いと思いますよ、既に先が見えているなんて割とレアなケースだと思いますし」
「そりゃ分かってはいるんだけどなぁ……俺もキタやダイヤのメニュー監督したりで大変なんだよ、ビルダーはビルダーで平常運航過ぎるし」
「ああうん、そうでしたね……分かりました、私の方で何とか言っときますよ」
頼むぞ、と言いながらもバジンのタイム計測を行っているストップウォッチを手渡しながらキタサンブラックとサトノダイヤモンドの方へと向かって行く沖野を見送りながらも蹄鉄を叩く。
「やれやれ、これも先輩の役目ですか」
「ハァハァハァッ……!!」
もう直ぐあの地点だ、身体が分かるのがどれだけ走れば
「Start Up……!!」
来た、此処で一気に開放する。一気に加速して本来出せる最高速度すら超越して更に加速する、元々のモノも限界超えるような走りだったが今はそれを遥かに超える力を出せる。それにバジンは誇りに思っていた、これこそ自分だけの走りだ、そしてチェイスに胸を張って誇れるものだと。
「まだ、まだまだァ!!」
もっと行ける、世界はまだ視えている。世界が線になるまで走る!!と地面を更に強く踏みしめた時にその片鱗が見えた、これだ!!と思った時に全身が一気に重くなり力が入らなくなってしまった。またか、と自分に苛立った。先程までの速度はない、普段の走りの半分以下の速度でゴールする。なんて無様な走りなんだと自分を殴りたくなってくる。拳を作って握り込んでいると、そんな自分の手を包み込む温かい感触が来た。
「お疲れ様ですバジン、以前よりもクリムゾンチャージに磨きが掛かってますね」
「……駄目だよあんなのじゃ……あんなのじゃ、もっともっと、走れるようにしないと……!!」
バジンは疲労の渦の中にいるのに鋭い瞳を作り続けている、全く意志は折れていない。寧ろ不甲斐無い自分という物が更に燃え上がる燃料となっている。
「……一つ提案があります、それを受けるかはあなた次第ですがどうします?」
「何」
「バジン、走りを変えましょう」
「―――ハッ?」
シニア編はちょくちょくこんな風にバジン視点を入れて行こうと思います。
そっちの方がバジンのツンデレも書けるから私も楽しいんだ。